第2話 元騎士団長、カルチャーショックを受ける
勇者たちと共に魔王と戦ったおれ、王国騎士団長ルパスタン・ドンリーロは100年後の世界で目を覚ました。
「うわー!すごい腕!岩みたい!首も太いし、身体も分厚いね~。昔の人はみんなこうなの?漫画のキャラみたい!」
「おい、女が恋仲でもない男にそうベタベタ触るもんじゃない、安く見られるぞ。それになんだその格好は、脚をさらけ出して男みたいな格好をして」
「え……プフッははは!なにそれー!うちのおじいちゃんみたいなこと言ってるー!ルパスタンくんおもしろー!」
「なんで笑う、冗談を言った覚えはない!」
おれがそう言ってもブレイブは笑い続けていた。
笑わせるのは嫌いじゃないが笑われるのは少し嫌なもんだ。そう思った瞬間、おれの腹の虫が大声で鳴いた。
「あ……」
「ふふふっ、流石に100年も経つとお腹すいたでしょ。朝ごはんの残りがあるから持ってくる!その格好も着替えたほうが良いかな?ちょっとまってて、すぐ取ってくるからー!」
そう言ってブレイブはおれの返答を聞く前に走り出していってしまった。
「アンドレイ、お前の子孫は随分と元気に育ったみたいだな」
おれは絵に向かってそういった。
そしてしばらく倉庫で待っていると、ブレイブが走って戻ってきた。
「ほらこれに着替えて、早めにお願いね!そろそろ出発しないと遅刻しちゃうから!ご飯は移動しながらで良いよね?」
ブレイブに渡された衣服だが、軽い、とにかく軽い、まるで持っているのを忘れるくらい。だがなんだこの形は、人の形をしている。こどもの頃、遊んでいた時に蛇の抜け殻を見つけたことがあるが、これは上下に分かれた人の抜け殻みたいだ。
「これは大きく開いてる所から頭を入れれば良いのか?」
「そうそう、下も大きく開いている所から足を入れて履いてね。それじゃあご飯持って馬車に乗ってるから、家の入り口の所に停めてるからね!」
おれはブレイブに言われた通りに服を着てみる。
「なんかこんなのを他の国から来た行商人が着ていたような気がするな」
だが、随分とダボダボな服装だ、動きづらいな。
おれはとりあえずその格好のまま家の前に停められた馬車に向かう。
「こんな服でいつも生活しているのか?動きづらくてかなわない」
「胸のボタンと腰のボタンを押してみて」
胸と腰にそれぞれある小さなボタンを押してみる、するとみるみる内に服は小さくなり、身体にピッタリな採寸になった。
「おお!服が独りでに!すごいな、こうしてみると、服がないみたいに軽いな!流石にこんな不思議な服を行商人は持ってなかったな」
「でしょ?ああ!ほら乗って!私の職場に案内するよ!」
ブレイブはおれの手を掴み、馬車の中に引きこんだ。
おれを乗せるとすぐに馬車は動きはじめた。
「良い馬車だな」
「これパパがひいじいちゃんに買ってもらったんだ〜、それを私が貰ったの」
「へぇ、随分と物持ちが良いんだな」
馬車の中はシンプルながらもどこか存在感がある、これが気品があるというやつなのだろうか。自分はこれらの類にはてんで知識がないが、なんとなく、この馬車を良いものだと思えた。
「そういえば君の父は商人か?それとも旦那がそうなのか?家を見たが随分と立派な屋敷だったし、倉庫もあるし」
「お父さんは商人じゃないけど、あれは元々お父さんの家、今は一人で住んでるよ」
この返答におれは驚いた。
「一人って結婚は?」
「え?してないよ、そもそも相手がいないもん」
ブレイブは笑った。
「相手がいないって、君ぐらいの年齢になったら親が縁談の1つでも持ってくるだろ?」
おれの言葉にブレイブは首を傾げる。
「お見合いってこと?ルパスタンくん、私まだ20だよ?早すぎるってー」
「なに?!おれがそのくらいの頃には子どもがいたぞ。今はみんなそうなのか?」
そんな馬鹿なとおれは思った。おれは19に結婚して子どもを授かったが、それでも遅い、仕事と付き合ってるのか?と茶化されたもんだ。
「みんなじゃないけど、でも普通だよ」
「普通……」
これが生きていた時の差なのか?時間が進むと思ったより物事は変わるんだな。
「それでだ、おれはどういう状態で君の倉庫にいたんだ?」
「ひいじいちゃんが石像を倉庫に置くように言ったんだよおじいちゃんにね。あ、石像になったルパスタンくんか」
ブレイブが言うにはおれは数十年単位であそこにいたらしい。どうやら聖剣の影響でおれは石になっていたようだ。恐らくその時に腕も治して貰ったのだろう。
「でもひいじいちゃんは石像が本当に人間だなんて言ってなかったよ、大切な友達ーとは言ってたけどさ。もう少しちゃんと言っておいてほしかったよ。それならもう少し丁重に扱ったのに」
「ん?まるでそうじゃないみたいな口ぶりだな」
「あー、時折ものを引っ掛けるのに使ったり、移動させる時にぶつけたり……みたいな?」
そう言って作り笑顔をするブレイブ。
よかった砕けてなくて、本当によかった。
おれはとりあえずその経緯を知った所で、先程ブレイブに渡された朝食に目を向ける。
透明な袋の中に野菜と肉を薄切りのパンで挟んだ物が入っていた。
「パンとかを腸詰めにしたのか?これどうやって食べるんだ?」
袋はまるで色のないガラスかのように透き通っており、表面がツルツルしている。今までの腸詰めとはだいぶ違う、というよりも生物の一部とは思えない手触りだ。
意を決して、その食べ物にかぶりつこうとする。
「ああ!そのままじゃだめ!プラスチックは食べちゃだめ!貸して、ほら、ここを引っ張ると開くの。それで中身を食べるの、サンドイッチは分かるよね?パンでいろんな具材を挟んだやつ」
ブレイブは腸詰めの袋の部分を引き裂き、中にあるパン達を取り出してみせた。
おれはこのサンドイッチとやらにかぶりついた。
渡された時から思っていたが、パンがまるで柔肌のようで、意図せず握りつぶしそうになる。
そう思うとおれは自然と眉間にシワを寄せていた。この時、自分は軟弱なものが嫌いなことを思い出した。ふわふわとしたものなんて以ての外だ。
「ふん、パンがやけに柔らかいな。パンといえばもっとバリッとしっかりしてるものだろう。だがこの食べ方は盲点だ、楽でいい。フォークやナイフを使った食事はあまり得意じゃなくてな」
最初は腹持ちが頼りなさそうなサンドイッチとやらも、食べてみると案外にも具材がしっかり入っている。
これだけの量を挟まずに食べようとしたら大皿が必要になるが、この食べ方だと片手に収まる、なんて機能的な食べ方なんだ。ここは評価できる、まあ、パンは固い方が依然として好きだが。
はあ、妻が作るパンが途端に恋しくなってきた。
「え!フォークとナイフ使ったことあるの!?良いなぁ〜そんな食事したことないよ〜」
おれが妻のパンに思いを馳せているのをよそに、ブレイブは羨ましそうな声を出し目を閉じていた。
「ん?確かに、こんな機能的な食べ方があれば、フォークとナイフを使う料理なんてみんなめんどくさがってやらないだろうな。テーブルマナーとかよく指導されたもんだ、立場上必要なことなんだろうが慣れなかったな」
おれはサンドイッチを食べ終えると、自分の服に目を向けた。
「この服も勝手に採寸してくれるとは、仕立て屋はまいってるだろうな」
「あー昔はサイズを選ばないといけなかったんだっけ?危ないよねぇ~ピッタリじゃないサイズの服着るのは。裾を踏んで転んじゃったり、何かに引っ掛けちゃったり。ルパスタンくんが着てた服もヒラヒラしてて危なくない?」
ブレイブは手をヒラヒラと動かしおれが着ていた服の真似をした。
「そんなことはない、あれの機能性は素晴らしい。おれの時代に生きた男は皆あの服を着ていた」
「そうなんだ、あ!街に入るよ!ようこそセンターシティへ!」
彼女は窓の外を指差す。
「街か、100年でどうなったの……か」
窓の外を眺めてみる。
おれはその光景に固まった。
外に並ぶ建物は例外なくその全てが、まるで円卓に置かれた果物のように色鮮やかで、どれもが建物とは思えない形……つまり角がまったくなく、ブドウやリンゴのようだった。
そしてもっとも不可解なのが、どの建物も少し揺れているのだ、ふわふわと。
よく見れば、街行く人もなんだかふわふわ、ヒラヒラしたものを着ているではないか。
「な、なんだ、この……」
「この軟弱な世界は!!!」
おれは腹の底から叫んだ。
この時代をおれはこれから生きねばならないのか、こんなふわふわとした軟弱な世界で!?
「おー、カルチャーショックってやつだね」
ブレイブの声がどこか遠くの方で聞こえた。
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