第24話 好感度上げの時間(対象:忠犬)
ヴィンス(腹黒メガネ)、ガレス(脳筋ゴリラ)、ルシアン(癒し系復讐予備軍)、リリアナ(聖女チョロイン、依存化?)と、主要な仲間たちの好感度を俺は様々な手段を駆使して、どうにかこうにか協力的なラインまで引き上げることに成功した。
次のターゲットは常に俺の傍らに控え、身の回りの世話から戦闘時の護衛まで黙々とこなす、俺の忠実なる側近……のはずのカイル・アシュトンだ。
こいつは、ゲーム開始時から王子(俺)に絶対的な忠誠を誓っている設定だった。まさに忠犬。
だがしかし、今の俺に対する好感度は、前回の戦闘後でようやく60【仕えるべき主】。決して低くはない。むしろ、他の連中に比べれば高い方だ。
だが絶対的な信頼を置いて背中を預けるには、まだどこか心許ない、微妙なラインだ。
考えてみれば当然かもしれない。
俺の卑怯極まりない作戦や、王子にあるまじき下品な言動を、一番間近で一番長く見てきたのは他ならぬこいつなのだ。
内心では、呆れ果て、ドン引きし、幻滅していても何らおかしくはない。
むしろ、好感度60を維持している方が不思議なくらいだ。
よし! あの真面目クンを完全に骨抜き……いや、籠絡し、俺のためならたとえ地獄の底であろうとも喜んでついてくる、最強の犬……いやいや、最高の相棒にしてやる!
俺は決意を新たに、今度こそ小細工なしで、真摯にカイルと向き合うことを決めた。
……どうやって好感度を上げるか?
うーん、こいつは根が真面目で忠誠心は高い。変な演技や駆け引きは逆効果になる可能性が高い。
ここはストレートに、俺からの信頼と感謝を言葉にして伝えてみるか?
それに加えて、俺自身の弱さや不安を少しだけ見せることで、彼の持つ守ってあげたい欲求を刺激するのも有効かもしれない。
いわゆる、ギャップ萌え……は狙いすぎか?
その夜、俺は自室の王族に与えられるとは思えない質素なベッドに腰掛け、カイルが黙々と明日の授業の準備をしているのをぼんやりと眺めていた。
ランプの柔らかな光が、カイルの整った影のある真面目な横顔を照らし出している。
きちんと撫でつけられた茶色の髪、しわひとつない灰色のシンプルな従者の服。
教科書を種類別に整理し、ペンを綺麗に並べるその姿は、いかにも几帳面で有能な側近といった風情だ。
「なあ、カイル」
俺ははっきりとした声で呼びかけた。
「はい、アレクシス様。何か御用でしょうか?」
カイルはすぐにペンを置き、こちらに向き直って、いつものように丁寧に頭を下げた。その動作に淀みはない。
「いや……別に急ぎの用ってわけじゃないんだが。ちょっと、お前に聞いておきたいことがあってな」
俺は少しだけ言い淀むふりをしながら、カイルを手招きした。
カイルはわずかに怪訝そうな表情を浮かべながらも、すぐに俺の隣に移動し、控えるようにして立った。
「お前さ、最近の俺のこと……正直、どう思ってる?」
俺は変化球なし、ド直球で切り出した。
「え……? と、申されますと……一体、どのような……?」
カイルは明らかに戸惑い、灰色の瞳を不安げに揺らし、視線を泳がせた。予想通りの反応だ。
「隠さなくていいぜ。どうせ俺もわかってる。俺は、昔……いや、俺が『俺』になる前の王子とは、別人みたいに変わっちまっただろ? 口調は乱暴だし、やることはメチャクチャだし、王子らしさなんて欠片もねえ。騎士団の連中や、他の貴族たちが陰で俺をどう言ってるか、お前だって耳にしてるはずだ。お前も内心じゃ、俺のことを軽蔑したり、呆れたり、あるいは……見限ったりしてるんじゃないのか? 正直に言ってくれて構わん」
俺はカイルの灰色の瞳を、探るように真っ直ぐに見つめて問いかけた。
カイルは一瞬、息を呑み、唇をきつく結んだ。
やがて、しばらくの沈黙の後、意を決したように震える声で口を開いた。
「……滅相もございません! 自分が殿下を軽蔑するなど、そのようなこと、天地がひっくり返っても決して……! ただ……」
彼は必死に言葉を選びながら、それでも正直な気持ちを吐露し始めた。
「以前の、その……常に自信に満ち溢れ、苛烈なほどに強くあられた頃の殿下とは、あまりにもお変わりになられたご様子。……最近の、あまりにもご自身の危険を顧みられない無謀とも思えるご行動には、正直に申し上げて、戸惑い、殿下のお身を案じておりましたのは……事実でございます。ですがそれは、決して殿下を見限ったからなどではなく……ただ、ひたすらに、殿下のご無事を願えばこそ……!」
(ふむ。やはり、俺の無茶苦茶っぷりと豹変ぶりには、相当戸惑っていたか。だが、根底にあるのは軽蔑ではなく、心配……か。よし、ここは押せる!)
「……そうか。随分と、心配をかけていたんだな。……悪かった、カイル」
俺は少しだけ驚くほど、素直に謝罪の言葉を口にしていた。それは演技ではなく、彼の真摯な言葉に対する、偽らざる気持ちだった。
「でもな、カイル。俺がこうやって、無茶でも、卑怯でも、何でもやってこれたのは……他の誰でもない、お前がいつも俺のそばにいて、黙って俺を支えてくれていたからなんだぜ。それはわかってほしい」
「殿下……」
カイルが、信じられないといった表情で目を見開く。
「最初の魔族襲撃の時も、この前の裏庭での乱戦の時もそうだ。俺が物陰に隠れて震えてたり、セコい罠を仕掛けてほくそ笑んだりしてる間も、お前はずっと、文句一つ言わずに俺のそばにいてくれた。他の仲間たちが俺を非難の目で見ていたり、呆れた視線を送ってきたりしても、お前だけは黙って俺の隣に立ち続け、いざとなればこの身を盾にしてでも俺を守ろうとしてくれただろ」
俺はあの時の、カイルの必死な覚悟を決めた表情を思い出しながら、言葉を続けた。
「正直言って……あれは、マジで心強かったんだ。本当に、ありがとな、カイル」
俺が飾らない、真っ直ぐな感謝の言葉を伝えると、カイルの顔がみるみるうちに赤く染まり、感極まったようにその大きな灰色の瞳を潤ませ始めた。
「そ、そのような……! もったいないお言葉……! 自分は、ただ……ただ従者として、当然の務めを果たそうとしたまででございます! 殿下をお守りすることこそが、自分の存在意義であり、この上ない喜びなのですから……!」
彼は慌てたように首を振るも、力強い、確信に満ちた声で答えた。
「わかってるよ。お前のその揺るぎない忠誠心は、俺がこの世界で一番よく知ってるつもりだ。だからこそ……だからこそなんだ、カイル。俺は、怖いんだ」
俺は少しだけ、心の奥底にある、偽らざる本音を漏らした。これは演技じゃない。
「俺がもし、何か致命的な判断ミスをしたら……俺のせいで、お前まで巻き込んで、死なせちまうんじゃないかって……考えただけでゾッとする。他の仲間もそうだが……特に、お前だけは……絶対に、死なせたくないんだよ」
「殿下……っ!」
カイルの目から、ついに堰を切ったように大粒の涙がこぼれ落ちた。
彼は感情を抑えきれない様子でその場に膝をつき、俺の手を両手で強く、縋るように握り締めてきた。
「もったいない……あまりにも、もったいないお言葉でございます……! このカイル・アシュトン、殿下がそのようなお心で自分を想っていてくださるのなら、もはや何も恐れるものなどございません! 殿下がこれからどのような道を選ばれようとも、たとえそれが茨の道であろうとも、たとえ世界中の全てが殿下に敵対するようなことがあろうとも! この身が塵となり朽ち果てるその瞬間まで、どこまでも貴方様にお供し、必ずや、この命に代えて殿下をお守りいたします! ですから……どうか、どうか、このカイルを、もっと頼ってくださいませ、アレクシス様!」
熱い! 熱すぎるぜ、カイル! まるで少年漫画の最終決戦前の告白シーンみたいだ!
こいつの忠誠心、マジで底が知れねえ!
その瞬間、俺の脳内に、まるで祝福の鐘が鳴り響くかのような、力強い光と共に、文字と数字が鮮やかに浮かび上がった!
カイル・アシュトン:好感度90【絶対忠誠】【献身】【不退転】
(よっしゃあああああああ! 90⁉ しかもなんかヤバそうなステータスが3つも付いた! 大成功だ! これでカイルは完全に俺の犬……いや、俺だけの絶対守護神だ!)
俺はカイルの手を力強く握り返し、少しだけ照れくさい気持ちと、確かな信頼感を込めて言った。
「……ああ。わかった。これからは、もっと頼らせてもらうぜ、相棒」
「はいっ! アレクシス様!」
カイルは溢れる涙を乱暴に手の甲で拭い、満面の、一点の曇りもない、太陽のような笑顔で力強く頷いた。
こうしてカイルの攻略も、望外の大成功をもって完了した。
これで、主要な仲間たちの好感度は、マリエッタ(現在10)という特大の爆弾を除いて、軒並み俺に協力的になるレベルまで引き上げることができたはずだ。
【現在の好感度まとめ】
カロリーネ:55【婚約者】
リリアナ:85【依存】
カイル:90【絶対忠誠】【献身】【不退転】
ヴィンス:65【利用価値有り】
ガレス:70【忠誠】
ルシアン:75【繊細な方】
マリエッタ:10【馬鹿】
(……それにしても、カイルのこの【絶対忠誠】、今のクソザコ転生者である俺個人に向けられた純粋なものなんだろうか? それとも、彼が心の中で理想化している『完璧なアレクシス王子』の幻影を、今の俺に無理やり重ねて見ているだけなんじゃないのか……?)
一抹の無視できない不安が胸をよぎる。もし、俺が本当の意味で魔法を使えないことや、もっとどうしようもない本性が完全にバレてしまった時、この【絶対忠誠】というステータスは、果たして維持されるのだろうか?
反転して【絶対憎悪】とかになったりしないだろうな……?
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