第23話 好感度上げの時間(対象:聖女)

「えっと、アレクシス様とルシアン様、なんだかいい雰囲気ですね。青春劇のワンシーンみたいで、ちょっとドキドキしちゃいます」


 ルシアンと温かい握手を交わした、まさにその瞬間。

 まるで舞台袖からタイミングを見計らっていたかのように、背後からふんわりとした、それでいてどこか芯の通った声がかけられた。


 振り返ると予想通り、聖女リリアナが少し照れたような表情で立っていた。

 彼女は小さな可愛らしい籠を手に提げており、どうやらこの花壇に薬草か何かを摘みに来ていたらしい。

 淡い陽光が彼女の栗色の髪を柔らかく照らしている。


「よう、リリアナ。元気そうで何よりだ」


 俺が軽く手を振ると、リリアナは花がほころぶような、純真な笑顔をこちらに向けた。

 その笑顔を見ると、こちらの打算的な心まで洗われるような気が……しなくもない。


「はい、王子様のおかげで、毎日元気いっぱいです! あ、そうだ、これ、王子様とルシアン様に、この前の戦いのお礼と、あと、いつも皆さん大変そうですから、少しでも疲れが取れればと思って……安らぎの香りがする、特別なハーブをブレンドしてみたんです。私にできるのは、これくらいしかありませんけど……」


 リリアナは少しはにかみながら、持っていた籠の中から、丁寧にリボンが結ばれた小さな布袋を2つ、俺とルシアンにそれぞれ差し出した。

 ふわりと心を落ち着かせるような、爽やかで優しい香りが、中庭の空気に溶けて漂ってくる。


「お、おう。気が利くな、リリアナ。サンキューな、大事にするぜ」


 俺は少し照れくさいのを誤魔化すように、ぶっきらぼうな口調で布袋を受け取る。ハーブの優しい手触りが心地よい。


「これはこれは、わざわざありがとうございます、リリアナ様。貴女のそのお優しい心遣いが何よりの癒しです。大切に使わせていただきますね」


 ルシアンは、絵に描いたような貴公子の完璧な笑みで優雅に受け取り、丁寧に礼を述べた。


(リリアナ……こいつの好感度も、前回の戦闘後に40【王子な人】まで上がったが、まだまだ足りない。聖女の力は、魔王復活を阻止するための最後の切り札。俺の生存には絶対に必要だ。今のこの感動的なルシアンとの流れ……この勢いを借りて、一気にもう一押しできないか……?)


 俺はリリアナから受け取ったハーブの香りを深く吸い込みながら、即座に悪知恵……いや、彼女の心に響くであろうコミュニケーション戦略を組み立てた。

 よし、この前のルシアンへの手法の応用だ! 弱さと共感、そして守護欲を刺激する!


「……なあ、リリアナ。このハーブ、すごく良い香りだな。本当に心が安らぐようだ。……だが、どんなに良い香りも、いつかは薄れて消えていっちまうんだろうな。なんだか少しだけ寂しい気もするぜ」


 俺はわざと、少しだけ感傷的な、物憂げな声色で言った。夕暮れ時の感傷的な雰囲気も利用させてもらう。


「え? あ、はい……そうですね……どんな素敵なものも、永遠ではありませんから……でも、香りが消えても、皆さんの役に立ちたいと思った私の気持ちは……」


 リリアナは俺の意図を図りかねて、大きな瞳を少し不安げに揺らしながら、言葉を探すように戸惑っている。


「でもな」


 俺は一歩彼女に近づき、リリアナの澄んだ、少し潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめて、確信を込めた声で言葉を続けた。


「俺はお前がくれたこの優しい香りと、お前の温かい心遣いを絶対に忘れねえ。この香りが消えても、お前が俺たちを思ってくれたその気持ちは、ずっと俺の心に残り続けるだろう。それに、あの絶望的な戦場でお前が見せてくれた……皆を癒して魔族を退ける、あの眩しい光の温かさもだ。あれは俺にとっても他の仲間たちにとっても、希望の光そのものだった。だから……リリアナ、お前も俺たちのことを、もっと信じてほしいんだ。俺たちがお前のその優しさと、その聖なる光を……お前という存在そのものを、この身に代えても必ず守り抜くってことを。お前はもう1人じゃないんだ」


 我ながら、またしてもキザすぎるセリフ! 羞恥心で顔から火が出そうだ!

 だが、ほんの少しだけ、ルシアンとのやり取りを経た今の俺の本心が混じっているような気がした。

 仲間を守りたいという気持ちは、もう嘘偽りだけじゃない。この純粋な少女を、守らなければならないという気持ちも。


 リリアナの反応は、俺の予想通り、いや、予想以上だった。

 彼女はみるみるうちに顔をリンゴのように真っ赤に染め上げ、大きな瞳からはらはらと涙をこぼし始めた。

 その瞳には、深い感動と、戸惑いと、そして俺への強い想いがごちゃ混ぜになって映し出されている。


「お、お、王子様……! そ、そんな……! そんな風に……私のことを……」


 彼女は言葉にならない嗚咽を漏らし、震える手で口元を押さえている。


(守り抜く……王子様が、この私を……? 私なんかが、そんな風に大切に思ってもらっても、いいの……? でも、嬉しい……こんなに嬉しい気持ち、初めて……!)


 彼女の心の中で、平民であることへの劣等感や自分への自信のなさ、そして誰かに認められたい、必要とされたいという切実な願いが、俺の言葉によって激しく揺さぶられているのが見て取れた。


「は、はいっ! わ、私、信じます! 王子様と、皆さんのこと……! 私も、もっともっと、皆さんの力になれるように、皆さんの期待に応えられるように、精一杯頑張ります! 王子様が守ってくださるなら、私、何も怖くありません!」


 涙で濡れた顔を上げ、彼女は決意を込めた瞳で俺を見つめ返した。


 その瞬間、彼女の脳内で、俺への好感度が、40から一気に85まで跳ね上がったのを、俺は明確に感じ取った!


(よっしゃあ! 目標大幅クリア! チョロい、いや、純粋すぎるぜ、聖女様! ……ん?【依存】……んんんんんんんんん? なんだこれ? 新しいステータス異常か? いや、まあ、上がったんだから良しとするか! 細かいことは気にするな!)


「……殿下。貴方はやはり、天性の……いえ、人を惹きつける、ある種の才能をお持ちのようですね。リリアナ様のあのような表情、初めて見ました」


 隣でルシアンが感心しつつも複雑そうな表情で苦笑しながら呟いているが、今は気にするな!

 結果が全てだ!


 こうして俺の好感度上げ大作戦(対ルシアン&リリアナ)は、予想以上の大成功(?)のうちに幕を閉じた。

 これで回復・補助魔法のエキスパートである2人は、俺のために(ほぼ間違いなく)その身を粉にして働いてくれるはずだ! 大きな前進だ!


(よしよし、気になる【依存】表示は一旦スルーだ。……これで残る主要メンバーはカロリーネにマリエッタ……それにカイルか。あいつは一番近くにいる腹心の従者のはずなのに、好感度は60と、他の奴らに比べてイマイチ伸び悩んでるんだよな。ヴィンスやガレス、ルシアンみたいにわかりやすい弱点や攻略法が見当たらない。何を考えているのかさっぱり読めねえ。さて、どうやって攻略したものか……忠誠心だけじゃなく、もっと個人的な信頼を勝ち取る必要があるのか……? それとも、何か隠してるのか……?)


 俺は中庭に咲き誇る花々と、リリアナがくれたハーブの優しい香りに包まれながら、次のターゲットであるカイルへのアプローチ方法に、再び思考を巡らせ始めた。


 仲間との絆という名の打算と、ほんの少しの本音を武器に、俺はこの理不尽なクソゲーを生き抜いてみせる!

 

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