放課後リプレイ~fromDM~
mynameis愛
第1話「懐かしい招待状」
気だるい夕暮れだった。窓の外に広がる景色は、薄桃色の空がビルの谷間に沈み込んでいく。その光景を眺めながら、手元にあった古びた段ボール箱を一つ引き寄せる。中には、昔の手紙や写真、記憶の欠片が雑多に詰まっていた。掃除のついでに整理しようと引っ張り出したが、結局手を付けないままだった。
ふと、箱の隅に挟まっている一枚のカードに目が止まる。見覚えのないそれは、光沢のある厚紙に、豪華な金箔の装飾が施されていた。手に取ってみると、表面には「特別なご招待」とだけ書かれている。
「なんだ、これ……?」
不思議に思いながらも、裏面を確認する。そこには、達筆な文字でこう記されていた。
「青春を取り戻したくはありませんか?」
不意に胸がざわつく。何かを思い出しそうな気配に、言いようのない感覚が背筋を伝う。半信半疑でカードを開くと、さらに言葉が続いていた。
「心の奥に眠るあの頃の自分へ、もう一度会いに行きませんか?」
意味がわからない。だが、胸の内に燻っていた感情が、カードの文字と共鳴するように熱を帯びた。学生時代の思い出が、断片的に浮かび上がる。青い校庭、雑音混じりのチャイム、汗をかきながら走った帰り道。
一瞬、頭がクラクラと揺れる。まるで周囲の空気が変わったかのように、異質な感覚が全身を包み込む。
「えっ……?」
気がつけば、見知らぬ制服を着た自分がそこにいた。手にはさっきのカードが握られているが、どうにも感覚が違う。鏡を探そうと周囲を見回すが、そこは既に自室ではなく、古びた学校の廊下だった。
廊下に差し込む柔らかな夕陽が、埃の舞う空間をオレンジ色に染めている。窓から見える校庭には、制服姿の学生たちが集まっているのが見えた。あれは……まさか、自分の母校?
「なんで……」
声が震える。意味がわからない。現実味がない。夢かもしれない、と頬を軽く叩くが、痛みは確かだ。鼓動が速くなる。夢じゃない。ここは、あの頃の学校だ。でも、どうして?なぜ、自分がここに?
「ねえ、どうしたの?」
突然、背後から声がした。振り返ると、同じ制服を着た見知らぬ生徒が心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「あ、いや……」
うまく言葉が出てこない。見知らぬその顔が、どこか懐かしさを感じさせた。しかし、名前も覚えていない。
「転校生か?」
少し遠くから声が聞こえ、数人の生徒がこちらを興味深そうに見ている。視線が集中し、心がざわつく。どうにかして状況を理解しようとするが、思考がまとまらない。
「大丈夫?」と再び声をかけてきた生徒に、どうにか「うん」と答える。しかし、自分が誰で、なぜここにいるのか、まったくわからなかった。
ふと手元に目を落とすと、あのカードが輝きを放っていた。しかし、その文字は既に消えかけており、最後の一行だけが微かに光っている。
「もう一度、青春を。」
その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。忘れていた感覚が、心の奥底から湧き上がるようだ。これが何かの間違いであっても、今だけは――もう一度だけ、あの頃に戻ってもいいのかもしれない。
どこからか部活の声が聞こえてきて、懐かしい校舎の匂いが鼻をくすぐる。時が戻ったのだと理解したとき、胸の高鳴りが止まらなくなった。あの頃にもう一度戻れるなら、何ができるだろうか?何を変えられるだろうか?
――もう一度、青春を生き直すために。
その思いを胸に、足を一歩前に踏み出した。
終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます