1-4【女神と幸運】


 鑑識の男たちと入れ替わるようにして、一人の女性警官が現れた。

 

 人の良さそうな柔らかな印象の面立ちと、生まれつきの優しい茶髪が相まった可愛らしさから、〝生活課の女神〟と呼ばれていることを彼女だけが知らない。

 

 そんな女神が京極に顔を向けて小さく頭を下げた。

 

「京極さんこんにちは」

 

あいちゃんが来てくれるなんて幸運だな。少年もそう思うだろ?」

 

 若干の苦笑いを見せてから哀は少年の隣に腰を下ろした。

 

「こんにちは。わたしは相良哀さがらあい。君の名前を教えてくれるかな?」

 

 少年はじっと遺体のあった場所を見つめたた黙っていた。

 

 哀も少年と同じになってそちらを見つめて黙っていると、小さな声が隣で囀るのが聞こえた。

 

「なおと」

 

「そっか、なおとくんかあ。これからよろしくね」

 

 そう言って哀は少年の手を取り立ち上がり、ドアの方へと促した。

 

 なおとは不安げな表情を浮かべ、ちらりと京極に目をやる。

 

「心配しなくて大丈夫だよ。それに哀ちゃんと手を繋ぎたい男はごまんといるんだ。少年はラッキーだよ? じゃあ哀ちゃん後はよろしく頼むよ」

 

「来ないんですか? 署に戻る前にお昼をと思ってたのに」

 

「それはぜひともご一緒したいところだが……法王庁に報告書をあげなきゃいけなくなったんだ」

 

 その言葉で女神の顔に一瞬影が差した。

 

 けれどそれは、すぐに元の柔らかな表情に戻って何食わぬ声で答える。

 

「それはご苦労様ですね。じゃあ、なおとくんとわたしだけで行ってきます。行こっか?」

 

 二人を見送り、京極はぼりぼりと無精ひげを掻きながらため息をついた。

 

 さて……何て報告するかな……

 

 京極もまた出口へと向かい玄関のドアを開いた。

 

 降りそぼる雨と、その母である暗雲を見上げて肩を落とす。

 

「どうやらびしょ濡れは免れそうもないね……」

 

 そう言ってコートを頭に被ると、男は錆びた階段を駆け下り地上を目指す。

 

 雨に打たれる京極の表情は、コートの陰に隠れて誰にも見えることはなかった。

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