継ぎ足される安寧 Ⅳ

年始の時期。本当は親族や友人やお世話になっている人に向けて年賀状を書く時期なのだろうが…


「いないんですよね、死んでるんですよね全員」

「だいぶノリが軽くなってきたね、ガキ」

「はは、耐性ついてきました、なんでだろ」


年末5日間はずっと一緒にいたタナトスは束の間の年末休みを堪能してから年始は即座に仕事へと行ってしまった。年末も結構自発的に人が死んでいたらしいけど、部下が気を利かせて休ませてくれていたらしい。愛されてるな。


「年末はカウントダウン配信があったからさ〜。いや、久々に忙しかったかも。」

「よくこの性格で配信して炎上しませんよね」

「その辺のヘイト管理をうまくやれなくて何が天才だよ、…そうだ、グミ食べちゃお」


ヒュプノスは身長こそタナトスと同じくらいなのにとても細いというか、肉体が薄い。不摂生の極みみたいな生活をしていそうだな、と思って彼の手にしたグミのパッケージを見る。


「レインボーユニコーン4Dグミ…?」

「あ、4Dグミ初見の反応だぁ。おいしーよ、これ」

「えーっと、どれどれ…」


――「3D+Delicious」という意味で、3Dの立体に加えておいしい(Delicious)ことを表現している。フィギュアのようなかわいらしさとおいしさ、精巧な形状――(Google Chromeの回答より引用)


3次元を超えた多次元世界のグミなのかと思ったらそういうことではなかったらしい。普通のグミだ。


いや、でも。


「こんなに色数あるのにちょっと色が綺麗すぎません…?造形に関してもちょっと、精巧の域を超えてるというか……この宙に浮いてるパーツとか…なに…?」

「……そう?ねね、お前も食べたくなぁい?美味しいよ〜、これ。」


もう戻ってこれなくなっちゃうくらいには、ね。


そう付け足すヒュプノスの目を見て、ぞわ、と怖気立つ。初めて出会ったときのような完全にこちらを弄ぶ対象として見ている時の目だ。


久々に、この人のことがちょっと怖かった。


「…いや、遠慮しておきます、怖いんで」

「そう?じゃあ普通のグミにしといたげる」


好きなの選んでよ、と並べられるグミは、時々買い出しに行くコンビニでも見かけるような…わたしでも見慣れたものだった。


というか、『普通の』って。やっぱりこの人、この世ならざるものを食べさせようとしていたんじゃないか。


「……黄泉戸喫よもつへぐいで死ねなくなるの、やだなぁ」

「お前が死ぬ死ぬ言うしまだまだ身体も脆いから黄泉戸喫これも考えに入れとこっかなって。でもお兄ちゃんには内緒ね。本気で怒られるから」

「こわ、わたしの意志を尊重してくださいよ。ああ、でもそうですね。あのひとは怒りそう…。」

「昔はよく見逃してくれてたんだけどなぁ、この世ならざるものになると、すぐ壊れるおもちゃが壊れにくいおもちゃになるから良かったのに」


……やっぱりこの人、碌でもない。

  

二人してグミをもさもさと頬張りながら協力プレイや複数人参加型のゲームをして、その日は穏やかに終わった。

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