継ぎ足される安寧 Ⅱ

や、仔羊ちゃんたち〜。元気?

睡魔さんこと、ヒュプノスさんだよ〜。

今日は、追憶の蔵書庫…お兄ちゃんにひっついてるガキ、御影堂みえいどう紫苑しおんにかけてる催眠の破綻部分を叩いて直していこうと思いま〜す。


ちなみに追憶の蔵書庫がなんなのかフワッと触れておくと〜。この世の『人間には知覚できない欠けてしまった物事・人・歴史』を正確に記録する為に生まれた存在のことを指すよ。

大抵は人外がその能力を授かるんだけど、たま〜に人間も選ばれるらしい。


もっとも…今それに選ばれてるあいつは、自分の周りを記憶するだけで精一杯なんだけどさ。でも、その役割を与えられるってことは欠けてしまった物事を生み出す存在と何かしらの因果関係がある。それで、お兄ちゃんは日本ここに来たんだろうね。ボクも何か知ってるんじゃないのって〜?さぁね。


閑話休題。


いや、ボクも結構頑張っててさぁ。このワード聞いたらまた発作的にこいつの異能力が発動しそうだなってやつにはプロテクトかけて認識できないようにしてたりするの。しかもこれ、切り替えもできるっていうさ〜…。ということで、今日はボク視点で…リアルな神視点で楽しんでね。


「さっきはまた何話してたんですか、睡魔さん」


おっと来たか。早速試したいこともあるし、バグ潰しついでに話してやろう。

「ここで話すと検閲されること喋ってた〜。なになに、聞きたいの〜?万年思春期野郎だねえ」

「その言葉、そっくりお返ししますけど。」

「あのさ〜、ガキ。今からちょっとヤな話するね。…お前の親族の話。」


びく、と身構える仕草。ここまでは想定通り。

「人間って死んだら墓作るでしょ、仏壇とか戒名とか自分を何かしらで遺そうとするわけじゃん。それが遺ってないの、ヤだな〜って思わない?」

「そう、ですね…。その人の生きた証とか、何もなかったことになっちゃうのは、かなり嫌なのかもしれないです」


『遺す』というワードには僅かに反応する。でもまあ、これくらいの反応はするようにしとかないと日常生活に支障が出る。同音の単語とかを認識しなくなったらそれは事だ。


さて、ここからだ。切り込むぞ。


「でも、お前は人間共に覚えられてない親族の名前をしーっかり覚えてるわけでしょ。じゃあ、まだ遺せはすると思うんだよね、何か」

「………?」 

「だからさ〜…ボクたちでお前の親族にとって最高の墓を作る仮会議しようよ、今から。」


「………はい?」


ゲーミングノートパソコンを立ち上げて手始めに『墓石 かっこいい』で検索をかけていく。それを若干眉根を寄せて見ている子供がいる。

あのガキは、まだ困惑はしてる。でも、必要以上に思い出してない。不快そうにもしてない。


これはやり方さえ間違わなければ、自分のペースに引き込める。


「これは石自体がちょっと特殊なやつか。300種類以上あるらしいよ〜。」

「…えー。なんか、色合いが綺麗だ。お墓ってもっと地味で寂しい感じかと思ってました」

 

ちょっとずつ、いつものペースに戻ってきてる。

このまま「今日も今日とて希死念慮」とか訳分からないこと言い始めるくらいの塩梅に戻せたら、タナトスも多分安心するんだろうな。あー、癪だ。そう、全部が全部このガキのためじゃない。


あくまでお兄ちゃんのためでもあるんだ。

  

「見てよこの墓、めちゃくちゃボス戦前のセーブポイントじゃん」

「…!?えっ、わたしが死んだらこのお墓がいいです、かっこいいし綺麗だし…。」

「墓って苗字が同じ血縁者までは全員共通の墓石使われるんだぞ、知ってるかガキ〜。お前の両親と叔父さんもそれになっちゃうけど、いいの?」


その子供は目を伏せて、おずおずと話す。

「……お母さんたちにもわたしの好きなものを一緒に楽しんでほしいから、…これがいい、です」


……こいつ、こういうところがさぁ。


「…了〜解。じゃあ、夏頃になったら作ろうよ。今作ったらお前すぐ死にそうだからさ」

「謎縛り……え、作るって言いました?墓を?」


ぱち、と目を瞬かせる彼女に、へらりと笑う。 

「天才にできないことはな〜い!でも3日は頂戴ね、やったことねえからさ、墓石作り」

「ほんと性格全部犠牲にしてそのチート技能手に入れてますよね、マジで」


あ、やっと調子戻ってきたな。

「品行方正文武両道眉目秀麗完璧神格のボクに対してなんてこと言うんだお前、永眠させるぞ」

「めちゃくちゃ頭悪そうな熟語の羅列やめましょうよ、見苦しいですから」

「お前のやつだけアイス棒立てただけの墓にしてやってもいいんだぞガキ」

「わたしは金魚とかメダカの類ですか。…あ、でもアイスは食べたいです」


その後はまたごちゃごちゃ話してから、各々の好きな棒アイスを買いに行った。

「女装服以外も持ってるじゃないですか」

「あれは夢見がちなオタクくん向けのお楽しみ衣装なんですぅ、普段からアレだと思われちゃ困るね」

「本当に最悪だ…」


身長差のせいで、こいつと並んで歩くと藤色の柔らかそうな髪とつむじだけが見える。帰り道も特に破綻なく日常会話ができたので、今回の追憶の蔵書庫デバック作業については成功、ということにした。


こいつが訳わかんないオタクの早口で喋るようになって、お兄ちゃんが安心して、ボクは定期的に裏方に回って安寧をコントロールできて。


そんな毎日が続くことを、神の身ながらちょっとだけ天に祈った。

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