第10話 サプライズ
ふと我に返る。健臣の計画はこれで終わったのだろうか。
正直、俺のアイデンティティが再構築された実感はあまりなかった。しかし、替え玉の子孫だということが嫌だとは思わなくなっていた。
この感覚が『再構築された』ということなのだろうか。だが俺の疑問に「まだまだ」と、健臣が首を振る。
「じゃ、気を取り直して。健臣クンのサプライズ!!」
「お、ちょっと待て!」
俺は頭が混乱し、健臣に手のひらを向けて静止した。言葉がすり替わって見えるのが、どうも気になった。
だが、『恩返し』がいつしか『サプライズ』に言い変わったわけではないらしい。
「んなわけねぇじゃん、単語全然違うだろ!」
「『罪滅ぼし』を『恩返し』と混同する奴に言われたくねぇな…」
俺の言葉に、健臣は少しバツの悪そうな笑みを浮かべながらも「違いねぇ!」と言いながら楽しそうだ。
「罪滅ぼしは今ほら…進行中だから。その中のサプライズシーンだから。」
『それはお前の脚本の中での設定だろ…』と心の中でツッコミながら、俺は続けるよう促した。
健臣は「ああー、替え玉だって知るとここから先はヤバいな…」と言いながら、奥にある書棚に向かい、別の日誌を手に取って机の上に置いた。
「これはね、正遵の晩年について書かれている日誌なんだけど…」
健臣は説明しながら優しくページをめくる。
正遵は五十歳で長男に領主の座を譲り、自分は隠居してそこから約二十五年、結と一緒に孫の世話もしながら江戸の中屋敷で過ごした。七十六歳を迎えた年の初冬、病に倒れ床に伏せる。
「見て、ここ…最後は結が枕元にずっと控えていたんだ。で、最後、二人が大好きだった和歌の詠み合いをした。」
正遵最後の日の記録は長く、四ページに渡っていた。その最初のページには、二人が和歌を詠んだときの様子が書かれている。
「俺の先祖は記録を取るため同席を許されたんだけど、屏風の後ろに控えて、できる限り二人だけで過ごせるようにしたらしい。」
一ページ目の真ん中に、二人の和歌が書かれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。