第24話 仲間との日常はハプニングの連続(Ⅰ)

■■Evolution:05-06 Intermission「兵卒の日常」■■


 魔幇本部は島0号(アイランド0)、建設中の軌道エレベーターの地下海中部。巨大な地下空間が丸ごと秘密基地となっている。その規模は神聖戦隊の秘密基地を遥かに凌駕し、地下都市、いや地下都市国家と言っても問題ないほどの巨大さである。


 俺達戦闘員は混沌作戦カオスミッション中だけでなくほぼ毎日秘密基地に召集され、戦闘以外、様々な作業に従事していた。


 混沌魔神の建造や施設の整備、魔幇としての活動だけでなく都市の建設作業や宅配、農作業、工場、事務、公務員ユニバーサルサービス果てはコンビニの店員まで。その仕事は多岐に及んでいた。


 仕事をすることによってNPC形態エキストラモードで生活するための給与ペイが支払われる。魔幇は一般的な企業組織とほぼ同じ組織形態だった。

 

 悪の秘密結社「M・I・C 魔幇」が如何に恐るべき科学技術を有した秘密組織だとしても、構成員を支える為の燃料、食料、物資や資金が必要である。


 もし、国家をも凌駕するレベルの巨大組織ともなれば、補給線ロジスティクスの物量は更に膨大となる。


 そんな巨大な組織が秘密組織であり続ける事は不可能である。


 もはや国家。現実世界でも悪の枢軸、悪の国家と言われる国が存在している。


 宇宙人、異世界人、非人類の侵略というパターンも定番ではあるけれど、よくよく考えてみれば。それは宇宙や異世界の「国家レベルの組織」いわば)からの侵略なのである。


 考えて欲しい、現実世界リアルでは公式な組織体に非公式な組織は絶対に敵わない、悪の組織は絶対に表の顔、公式な組織の背景バックボーンが必要となるのだ。


 うむ、話しが変な方向に脱線してしまった。



 本日、俺は経費精算中。かなり面倒臭い作業だ。混沌魔神建造作業の合間、俺は戦闘服バトルモードで総務部へ。

「ここ、間違っています。訂正してください」

「へ~い」


 戦闘服バトルモード状態、ダッさいカーデガンと腕抜き。戦闘員N015号、人呼んで『経理戦闘員』さんから呼び出され経費の精算中。超面倒、常に上官である上級戦闘員が後ろに控えている総務部独特の雰囲気は苦手だ。


 俺達戦闘員にとって一番大変な申請作業は「超空間転送」費用の精算。莫大なエネルギーを消費する「超空間転送」は、上官(魔幇四天王や上級戦闘員)が認めれば経費扱いとなる。だが、倉庫や移動手段の代り、軽い気持ちで転送し続けると私的利用と見做され、その分給与からさし引かれてしまうのだ。


 俺達戦闘員がなるべく武装を使わず徒手空拳で戦う理由ワケ、それは経費精算が面倒臭く、且つ給与ペイに影響するからである。


 最近複数回、訳あって無許可の超空間転送を使用した俺は必死になって経費を申請。

「これは認められません」


 地味な経理戦闘員さんは的確かつ厳しく書類審査。「キィ」の一言が突き刺さる。

「ここも。この領収書では経費に認められません」

「そこだけでも認めていただければぁ」


 縋るような目で経理戦闘員さんを見つめる。

「解りました、申請はします。ですが上司判断です」

「ふう」


 俺の気力(HP)が地味に失われていく。


 だが、こんな面倒臭い場所に足繁く通う仲間達は多い。N015号こと「経理戦闘員」さん、戦闘員達の間では「魔幇三大美巨乳」と噂される抜群なスタイルの持ち主。


 当然イバラニア様も「魔幇三大美巨乳」の一人。ちなみに俺はイバラニア様派である。ムフフフフ。しかし経理戦闘員さんも良い。とても良いオッパイだ。俺の視線がどうしてもカーデガンに隠された経理戦闘員さんのお胸の方に……


 経理戦闘員さん俺のイヤらしーい視線に気付き睨む。俺は目を逸らし誤魔化した。

「では申請を受理させていただきます」

「ヨロシクお願いします」


 仕事熱心な経理戦闘員さん。ん、俺の後ろには戦闘服姿のT154号が並んでいた。

「よお」

「お前も経費精算か」

「まぁな」

「あら? また貴男ですか」


 経理戦闘員さんの鋭い眼差し(マスクに隠されているけど)。どうやらT154号も経費精算の常連さんらしい。

「い、いやあぁ今日も忙しそうですね」


 T154号照れまくり。経理戦闘員(N015号)さんはクールにお仕事中。

「……仕事、ですから」


 ふむふむ。どうやら奴(T154号)は経理戦闘員さん(N015号)に気があるらしい。魔幇三大美巨乳狙いとは何と無謀な奴だ。イバラニア様狙い、俺の事は棚に上げる。

「あの、そのぉ」


 ガタイは立派、体育会系のT154号。しかし気は小さい。仕方が無い、こいつも戦友ナカマ。ここも戦場だな。フォローしてやるか。


「こいつ、良い奴だけどバカで計算苦手だからさぁ、経理戦闘員さん、これからも面倒見て下さいよ」

「いや、その、あの。ヨロシクおお願いします」


 俺達をチラリと見る経理戦闘員さん。

「仕事ですから」


 素っ気ない返事、手強い。数多あまたのナンパ戦闘員が迎撃された訳だ。だが戦友ナカマの為、此処で撤退するわけにはいかない。

「お昼は食堂っすか」

「お弁当です」


 隙が無い。T154号は俯いたまま、真っ赤になってモジモジしている。情けねぇー奴だ。まぁ、俺の事は棚に上げるが。


 書類の束を整える経理戦闘員さん、机きちんと整理されている、とても几帳面な性格が読み取れる。髪をかけあげる仕草、眼鏡をかけ直すような仕草、全員同じ姿、戦闘員バトルスーツ状態でも情報は掴める。


「何時も丁寧な作業っすね」

「仕事ですから」

「その「仕事」が丁寧に出来る人は立派だと思いますけどね」


 総務部の戦闘員は経理戦闘員さんだけではない、雑な仕事をしている戦闘員も多い。上官、こっそりネットサーフィンしてるよ。経理戦闘員さんは地味な仕事をコツコツと続ける真面目な人柄。


 だから仕事には厳しいけれど、俺等戦闘員の間では好感度が高い。

「わたし、それしか出来ないから」


 経理戦闘員さんは俯きながら答えた。

「それが出来れば十分っすよ。カッコいいっす」

「……それが、仕事ですから……でも、ありがとう」


 経理戦闘員さん俯き、そのまま沈黙してしまった。

 俺はヒジでT154号をつつく、ココでカッコいい台詞を決めろと言うサイン。

「あの、俺……その……また来ます」


 あっ、逃げた。バカ者が!

「経費精算、また来ますよ」


 俺は軽く手を振って総務室を去っていった。

「はい」

「用が無くても来るかも知れません」

「必要無いなら来ないで下さい」


 最後は俺がナンパ戦闘員になっちまったじゃねーか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る