第10話 理想郷

「昨今、先進国にみられる、ユートピアの建設は、顕著でね。私達もその事業に取り組んでいる。8年前から、着工した。理想郷建設計画は、昨年に無事完了したんだ。現在では、理想郷に拠点を移す企業や、住民、なかでは、外国人の移住者も増えてきて、私たちの国、日ノ国では……」


「はい?」


 いろいろとおかしいが、一番最後の『ヒノクニ』が、一番理解できなかったので、俺は、訊き返した。


「私としたことが……すまないね。君は、1年間眠っていたんだ。それを伝えそびれていたよ。で、外国人についてなんだけれどね……」


 え?

 日本は?

 どうなったんだよ。

 

 もしかして、なくなったのか?

 てことは、国の名前が変わったのか?


「あの……」


「……どうしたんだい?」


「日本って知っていますよね?」


「ニホン?その発音の単語は、私は、知らない。彼女なら知っているかもしれないが……」


 彼女?誰だろうか。


「ちょっと待ってください。俺は、日本出身なんです。ヒノクニじゃないです。その……彼女が誰かは、知りませんが、しらばっくれるのもいい加減にしてくださいよ。日本を知らないなんて、おかしいですよ。歴史もあった。二千年以上の歴史があったのに。まるで、それがなかったかのように、ヒノクニ?ユートピア?そんなの、でっちあげですよね?」


「日下部君、落ち着いてくれ……」


「あなたは、俺を騙すんだ。金を奪い取って、人生のどん底へ突き落とすんだ。そうだろう?」


「ナギサ君まで、忘れてしまったかな?」


「え?」


「覚えているようだね。君に会いたいと言っている。ユートピアの住人だ」


「彼女は、君が目覚めるのを待っていたんだ。私は、彼女の遠い親戚でね。ユートピアの建設、運営、管理に深く携わっている」


 待てよ。この声、どこかで……


「もしかして、ナギサちゃんがいるなら、あなたは……」


「彼女のことを知っているようだね。私は、スサだ。よろしく頼むよ。日下部君」


 スサ?どこかで聞いたような……


「はじめまして。お願いします」


 黒縁の眼鏡をかけていて、白い肌に白髪、紺のスーツがよく似合う人物で、事業家を思わせるような、その風貌に、俺は、息を飲んだ。


 腕を捲ると、茶色の皮のベルトの銀色のシンプルな腕時計で時間を確認している。




 

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