第17話 先生が・・・

 私は1年間学校に通い調理師免許を取得した。

国家資格。

学校は当時ふたクラスあって、結構な人数がいた。

私の小説ジョリーンやクロスタウンで

料理のシーンが多いのはそういう理由もあるが免許を取得しただけで

一度も調理師として働いたことはない。


 それには理由がある。

これは調理師さんに偏見があるわけでも

職業を蔑視するものでもありません。

単なる私的な青春の1ページです。

嫌な印象を受けましたら謝ります。

やりがいがある、大変な御仕事なのは

誰よりも知っています。


学校ではあらゆる料理を習ったが

入学初日

「ここは、お料理教室ではありません。

ですので、楽しく料理を覚えたい方はソチラに行ってください」

担任の先生が生徒に初めて言った言葉だった。


やがて生徒は年頃の男女なので、あちこちで

カップルになる人も出てきたが

奥手な私は、そういうことにはならなかった。


給食の実習、栄養・衛生学なども習い

和洋中

テストも受けた。

桂剥き、だし巻き卵、ケーキスポンジ、オムレツ・・・

それなり身に付いた。


やがて卒業式が近くなり、廊下に就職・募集の張り紙が

たくさん貼り出された。

家業を継ぐ者、和食の板さん修行、コックの見習いなど

皆バラバラに就職が決まっていく。


 私は卒業後どうしようかと貼り紙を眺めていた。

『どうせなら女の人が多い職場がいいな、となると

ホテルかレストランなのかな?』

などと考えながら眺めていると

廊下を担任の先生が通りかかり

「オブチ、チョット来い」

と職員室に連れて行かれた。

「一年間見てたけど、お前はなぁ無理に調理師になるな」

「えっ」耳を疑った、学校の先生の言うことじゃない・・・はず。


「ほかの生徒はいいんだけど、お前は、こんな馬鹿臭い

仕事につかなくたって他に何か見つけて夢追いかけろ、

お前は調理師向きじゃないよ」


「ゆ、夢ですか」

「うん、お前なんか夢ないのか」

「はぁわかりません」

「うーん、調理師になりたかったら、いつでも紹介するよ、ホテル、料亭、レストラン、居酒屋・・・どこでもある、だから急ぐな先生コネなら山ほどあるから人手不足で頼まれるくらいだからな」

「そんなにダメですか調理師は・・・」

「うんもう意地悪な先輩はいるしよ、給料安いし残業はもらえない、朝早い夜遅い・・・ヤメロヤメロ」


私はTVで天皇の料理番、前略おふくろ様、

ちょっとマイウェイなどよく見ていて

確かに大変な世界だなとは思っていたので、

おかげでスーパーマーケットに就職した。


 いまでも、なぜ自分だけそう言われたのか


 あの先生、お元気かな・・・

今度、そっと行ってみよう。

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