さよならハッピーバースデイ
オブチアスマ
第1話 さよならハッピーバースデイ
みなさんは、誕生日というと何を思い浮かべますか
楽しいイメージがある方は、この先を絶対に読まないでください。
イメージ崩れます、いいですか?読んではいけません。
今すぐ、このページを閉じてください。
以前この話を人にしたら怒られました。
「なんでそんな後味悪い話、聞かせるんだ」と・・・
―私が小学五年生だった、ある日、近所の遊び仲間に急に
「しょうがねぇ、お前も呼んでやるか」と言われました。
「なぁに?」
「あした、俺の誕生日だから、お前も来い」と言われました。
私は、いつも同じ服を着ているような汚い小学生だった。
それが近所の上級生の遊び友達に誕生日に呼ばれたのです。
私は嬉しかった。
その前の夏休み、私はラジオ体操の朝の係りに選ばれており
係りの者はラジオを持って、近所の公園に行き
夏休みの間、毎朝、眠そうな近所の小学生たちを集め毎日ラジオ体操を
自前のラジオで流して、参加者の持参したカードに毎日、判子を押す役目になっていたのです。
私の家は母子家庭で貧乏だったのに無理して当時流行っていたラジカセを母親に買ってもらいました。
生まれて初めて他人の誕生日に呼ばれて、私は浮かれていました。
『誕生日、きっとジュースやケーキが食べられるんだ』そう思っていました。
そこで、貧乏人の私が唯一自慢のラジカセを持って誕生日会場の家に向かいました。
会場に着くと7人か8人か、とにかくそんな人数が集まっていました。
そして悪夢が始まりました。
みんなは手に思い思いの『プレゼント』を持参していました。
中には気持ちだけと言ってカップ焼きそばを包装したりして持ってきて
笑いを取っている子もいました。
わたしは『あっ』と思いました。
恥ずかしながら私の両親は私の誕生日を忘れることはあっても
ケーキを用意して祝ってくれたことなど一度もなく
まして誕生日にプレゼントというものがあるのは
TVドラマやなんかで知ってはいましたが
プレゼントの用意など私はまったく何も考えていなかったのです。
『どうしよう』そう思ったとき、いち早く知らない上級生の人が私の異変に気がついて
「おまえプレゼント何よ」と聞いてきました。
「まさか、そのラジカセじゃねぇよなぁ?」と言ってきました。
自慢げに持っていったラジカセを取られると思った私は左右に首を振りました。
「じゃ、何持ってきた?おめぇプレゼントなくて来たのかよ」
その場はシンとなって、みんなが私を睨んでいます。
私が黙りこくっていると、そこの家のお母さんが、咄嗟に
「この誕生日、録音して、そのテープくれるんだもんね」
とジュースを運びながら言ってくれましたが誰も納得しません。
黙って座っていても、みんな軽蔑の眼差しで睨みつけるだけで
話しかけてくれたりしません、誕生日の当人も黙っています。
目の前のテーブルにはジュースやケーキが並びましたが
誰かが言いました。
「プレゼントねぇやつも食うのかよ」
私は自分の事だと思い、いたたまれなくなってラジカセを抱えて
その場から飛び出しました。
すると、その家のお母さんが追いかけて来てくれましたが
私は
「もう、いいです」と泣きながら走って家に帰りました。
わけがわからなくなるほど声を上げて泣きました。
そして無知な自分と、そういう事に無関心で何も教えてくれずにいた親を心の底から憎み、死ねばいいと本気で思いました。
家に帰ると何も知らない母が何事かしていましたが
私は自分の部屋に入り、独り悔しくて泣きました。
間の抜けた自分が嫌で、無知の恐ろしさが身にしみました。
父親にしても酔っ払って帰ってきて夫婦ゲンカするだけの呪いの塊みたいな奴です。
死ねばいいと思っていたら、その年、一緒に遊んでくれたことなど一度もなかったオヤジはガンで死にました。
本当に私は、その年齢になって恥をかき、誕生日に呼ばれるということがどういうことなのかを初めて知ったのです。
大人になった今でも自分の誕生日を、めでたいと思ったことはなく
祝ってもらったことなど、ほぼありません。
でも冷ややかな感情で他人の誕生日を祝ったことは何度もあります。
「サプラーイズ!わーパチパチパチ♫ハッピバースデイトゥ・・・」
「ありがとう、みんなありがとう」当人は泣いて喜びます。
世の中人々は何で誕生日を祝うのか、素直に、お祝いすればいいものを
未だに嘘くさく感じてしまう自分は、残念で不幸な人間だと自覚しています。
僕こそ、死ねばいいのでしょう。
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