第9話 ルオンの気持ち

 迷宮館からの帰り、グレイシアとピュート、ハクは話をしていた。

けれど、ルオンとランディは無言のままだ。

ランディにとって、その時間は永遠にも思えるほど苦しかった。

(ルオン様、きっと怒ってるよね…。そりゃそうだよ。あんなにひどいこと言って、ピュートにもひどいことして…。ぼく、なんであんなことしちゃったんだろう…)

「なぁ、ランディ」

「はっ、はい!」

今まで何も言わなかったルオンが、口を開いた。

「なんでお前は、オレに尽くしてくれてんだ?」

「え、なんで?」

「おう。なんで、オレを選んだ?自分のことを悪く言う訳じゃねぇが、オレはわがままで食い意地が張ってて、いつもお前の親友とケンカしてるようなどうしようもないヤツだ。ランディにとって、オレはデメリットでしかねぇ。困らせて、迷惑かけて、たまに傷つけちまう。…お前は本当に、オレの部下になって良かったのか?」

ルオンの目は、遠くを見つめていた。

その表情からは、何も読み取れない。

「ぼくは…」

「ん?」

「うれしかったんです。ルオン様が、ぼくを手放さないって言ってくれた時。その時、ぼくの中で一生を尽くすべき相手が、見つかったんです」

「…そうか」

ルオンは、何かを考えているようだ。

ランディは、うつむいている。

「なぁ、ランディ」

「は、はい、なんでしょうか」

「お前に命令する」

「…っはい」

「今回のことは、お前にとってうれしかったこと以外全部忘れろ」

「へ?」

「そうしねぇと、お前ずっと引きずるだろ。お前には笑ってて欲しいからな。だから、忘れろ。いいな?」

「…あの」

「ん?」

「ルオン様は、怒ってないんですか?」

「何を」

「ぼくが、ルオン様たちを裏切ったこと、を…」

「裏切る?あぁ、あれか。全然?」

「どう、して?」

「どうしてもこうしても、お前はチサを助けるためにやったんだろ?結果的に存在ひと助けになったんだからいいんじゃねぇか?」

「でも、ルオンさまがランディに向かってオレを倒せって言った時にはヒヤヒヤしたよ~?」

ピュートが後ろを向いて歩きながら行った。

「そうそう。本当に刺されていたら、どうするつもりだったの?」

「その時はその時ですよ。姉上」

「なぜ、あんなこと言えたんだ?」

「なんでって?うーん…分かってたというか、信じてたんだ。ランディのこと。こいつは優しいヤツだからな。オレたちに逃げろって言った時に確信したんだよ。オレたちを逃がすために、わざと騙されたフリしてるって。わざと、味方になったフリしてるんだって」

「気づいてたん…ですね…」

「おう。それに、例え本当に刺されていたとしても、オレは何も言わなかったぜ。他の誰かにやられるよりは、大切な部下に倒された方が断然いいからな」

ランディには分かった。

ルオンがこれを、キレイ事でもなんでもなく、本心から言っている本音だと言うことが。

「…っぼくは…っ本当に、いい主様に恵まれました…!ルオン様…っありがとう、ございます!」

「えぇっ!?ちょ、おい、な、なんで泣いてんだよ!それに、褒めたって出るのはアメくらいだぜ?ア、アメやるから泣き止めよ~」

いつにも増してオロオロしているルオンに、ランディ含め全員が笑った。

「な、なんで笑うんだよ…。まぁいいや。そのまま全員ずっと笑っとけ!」

「無茶言うな。さすがにずっとは無理だ」

「こっわ!急に真顔になるなよ!鬼か!」

「鬼に謝れ」

「なんかごめんって!」

「でも、楽しかったと言えば楽しかったわよね。ユラユラたちにも会えたし」

「ユラユラ?なんだそれ」

「あのねあのね!ハクたちとはぐれた後に会ったオバケだよ!」

「「は?」」

ハクとランディが顔を見合わせる。

「「オバケ?」」

「そうそう。白い、フワフワしたやつらでよ。色々意味深なこと言ってきたんだよ。大体全部当たったけどな」 

「予言…ってことですか?」

「星の知らせとかなんとか言ってたわね」

「星の知らせ…あぁ、占星術か」

「占星術?なんだそれ」

「星の動きを見て、存在ひとの行動を読むことだ。私も少しなら使えるが…まだ使える者がいたとは、驚きだ」

「ハク、そのせんせいじゅつ?っていうの、使えるの?」

「少しならな」

「ならやってみてよ!空には星がいっぱいだよ!」

「構わないが…本当にただの占いだからな?」

ハクはそう言って、夜空を見上げた。

空には、美しい星が煌めいている。

星を見ていたハクは、目を見開いた。

「どう?何か、分かったの?」

グレイシアが問いかける。

「分かったが…言っても、いいのか?」

「え?」

「もしかすると、君たちにとって良くないことかもしれない」

「良くない、こと?」

「あぁ。これは…想定外だ」

ハクは少し顔をしかめた。

ハクがここまで表情に出すということは、よっぽどのことなのだろう。

「まぁ、分かんねぇじゃねぇか。とりあえず言ってみてくれよ」

「…分かった。近い内に、5つ星が欠ける。欠けた1つ星は運命を彷徨い、やがて真実にたどり着く」

「…それが、星の知らせ…なんですか?」

「全然分かんないや。ハク、解説お願い!」

「これは私の臆測だが…5つ星というのは、私たちのことだろう。そして近い内に、私たち5人の中から1人がいなくなる、ということではないのだろうか」

「…え?」

「誰かが、いなくなる?」

「…ハクの占いも当たるもんだなぁ」

「なに?」

ルオンが困ったように笑っていた。

「ルオン、どういうこと?」

「姉上…。オレ、旅に出ようと思っています」

「旅…?」

グレイシアは混乱している

「ハク、ランディ、ピュート、先に説明しとくな。オレは、姉上と血が繋がってる訳じゃねぇんだ」

「え!?」

「ウソでしょ!?」

「…」

「ウソじゃねぇよ。オレは存在で、姉上はエルフだ。それが、何よりの証拠だよ」

「グレイシア様!!」

「ウソ、でしょ、ねぇ!!」

「…いいえ。本当よ。ルオンは、16年前に私が施設から引き取った子なの」

「…やはりか」

「ハク?」

「初めて会った時から、そうではないかと思っていた。種族も違うし、年齢も離れすぎていたからな」

「なーんだ、気づいてたのかよ~」

ルオンはカラカラと笑っている。

「オレは、実の両親を探しに行く。そして、なぜオレを捨てたのかを知りたいんだ。だからオレは…旅に出る」

ルオンの表情は、これまでにないほど晴れやかだった。

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