第8話 仲間のため
ルオンは腕を広げた。
「ほら、来いよ。オレは何にも抵抗しないぜ」
「そ、そんな…ルオン…様…」
「なにも遠慮する必要はねぇ。これはオレの判断だ。今ここでお前がオレを倒したって、誰もお前のことは責めねぇよ。ってか責めさせねぇ。オレが良いって言ってんだから。だから、な。自分の未来は自分で決めろ」
ルオンは満面の笑みを見せた。
いつも通りの、楽しそうな顔。
それとは正反対に、ランディの目には涙が浮かんでいた。
あの日、路頭を彷徨っていたぼくたちに手を差しのべてくれたルオン様。
その日から、ぼくはルオン様の部下になるという道を選んだ。
そのルオン様をを倒すということは…自らの手で信頼する主を倒すということ。
「…うわぁぁぁあぁあぁぁ!!!!」
ランディは叫んで、ルオンに短刀を振りかざした。
ルオンがそっと、目を閉じる。
けれど、いつまでたっても痛みはなかった。
「…ほらな。やっぱりお前は、仲間思いの良いヤツなんだよ」
ランディの短刀は、ルオンの胸ギリギリで止まっていた。
どうしても、主を倒すことだけは…ルオン様を倒すことだけはできなかった。
ボロボロと泣くランディに、ルオンは優しく笑いかけた。
「ランディ、お前は騙されちまったんだよ。お人好しのランディのことだ。手伝って欲しいとかなんとか言われて、半ば強制的にこうなったんだろ?これは全部、仕組まれていたワナだったんだよ」
「ワ…ワナ…?」
「あぁ。そうだ。だから、お前は何も悪くねぇ。お前は、オレらを助けようとしてくれてたんだろ?わざと騙されたフリをして、オレたちだけでもと、助けようとしてしてくれた。…本当に、お前は出来た部下だぜ。ありがとうな」
泣きじゃくるランディの目元をそっとぬぐい、ルオンは優しく笑った。
それを見ていたアミは
「はぁ…。ねぇあんた、どうしてその子にこだわるのよ。
「こだわってなんかねえよ。オレの部下はこいつだけだからな。オレみたいなどうしようもないヤツを世話してくれるのは、ランディくらいしかいねーんだよ。それに、ランディはオレのことを選んでくれた。もう手を引け、アミ」
「ふーん、ランディ、あんたそっちに行くんだ?」
「…っ。はい。やっぱりぼくは、ルオン様たちを失いたくありません」
「そう。なら」
アミはランディに一新で近づいた。
その手には、バチバチと火花を散らす光球がある。
「もう、あんたはいらない」
自身が危険にさらされているのにも関わらず、ランディはボーっとしていた。
(わぁ…きれいだなぁ…)
アミの光球が、手から放たれたその時
「何ボケッとしてんだバカ!!!」
ルオンがランディを突き飛ばし、腕で光球を払いのけたのだ。
ルオンはそのまま体制を崩し、ランディの方に倒れた。
一方、払いのけられた光球は
「おりゃあ!」
ピュートにフライパンで吹っ飛ばされ、
「こっちに飛ばすんじゃない…」
ハクに刀で真っ二つにされ、
「仕方ないわよ」
グレイシアの三連矢で射たれ、跡形もなく消えた。
「ル…ルオン様!ルオン様ぁ!」
「あいててて…ん?どうした?」
「ル、ルオン様、腕が…!」
「へ?…あー!服が破れちまってる!これじゃあ着られねぇじゃねえか!」
「そっちじゃないですよ!」
ルオンの腕は、真っ赤に染まっていた。
「ひどいケガです…。こんなに血が…」
「…ん?血…赤…オレ…紺…。ああー!!!分かった、そういうことか!」
「ルオンさま?どうしたの?」
「ユラユラたちが言ってたことだよ。紺は赤に染まるって言ってただろ?それ、オレのことだったんだと思うぜ」
「じゃあ、夜は昼に背かれるって…夜はルオンさまのことで、昼はランディだってこと?」
「だろうなぁ。いっててて…。やっべ、血、止まんねぇ。おーいハク!これ、どうすりゃいいんだ?」
「動くな。今手当てをする。全く、なぜあんなエネルギーの塊を素手で払いのけるんだ。下手したらケガどころでは済まなかったんだぞ」
「いてててて!そう怒るなって。だってオレ、何にも持ってなかったんだもん。仕方ねぇじゃん」
「避けるなりなんなり、いくらでもやりようはあっただろう?」
「あーもう!過ぎたこと言っても仕方ねぇ!これくらいで済んだんだから良かったじゃねぇか」
「君なぁ…」
「あいたたたた!おいハク、テメェわざと痛くして…いってぇ!」
「痛くしているつもりはない」
「ぜってーしてるだろ!」
手当てを終えたハクとルオンは、体を伸ばした。
「さーてと、姉上、ピュート、ランディのこと頼みます」
「ここは私たちに任せてくれ」
ルオンとハクは、アミの前に立った。
「ったく、大人しくしてりゃぁ何もしなかったのによぉ。オレの部下に手を出したことの代償は払ってもらうぜ」
「その腕では満足に戦えないだろう。助太刀しよう」
「邪魔すんなよ」
「するわけないだろう」
「ふーん、ま、いいわよ」
アミは、自身のまわりにいくつもの光球を浮かべた。
「体力切れと妖力切れを狙うぞ」
「分かってらぁ!」
この世界には、妖力と魔力というものが
主にハクが住んでいた和の場所、和地区では妖力と呼び、グレイシアたちが住む洋の場所、洋地区では魔力と呼ばれているものだ。
種族によって妖力、魔力には差がある。
1番妖力が多いのは獣人族で、その次がエルフ、そして幽霊族。
1番妖力が少ないのは
ただ、その種族内でも個人差がある。
…ハクのように。
「行くぞ」
「おう!」
アミが光球を放った瞬間に、ハクとルオンは駆け出した。
飛んでくる光球をかわしながら、ルオンはアミとの距離を縮めていく。
「なんでお前は、そんなに若さを求めるんだ?」
「なんで?そんなの決まっているじゃない。言うまでもないわ」
アミは光球を操りながら言った。
「愛する
アミの目は真剣で、本気だった。
「…っ」
ハクの瞳が、一瞬揺らいだ。
(承認欲求…か)
承認欲求。
それは、誰にでもある、誰にも止められない感情だ。
誰かに認められたい、誰かに愛されたい。
きっと、思ったことのない者はいないだろう。
誰にでもある感情だからこそ、承認欲求は怖いのだ。
その想いが歪み、こじれてしまえばもうその感情は誰にも、自分でさえも止められなくなるから。
そう考えれば、アミもある意味可哀想なのかもしれない。
でも…でも
「だからと言って、250人の命を奪ってもいい理由にはならない。君のその想いが、250人もの命を…未来を、奪ったんだ。君がしたことは、許されることではない」
「みんなそう言ってくるの。誰も、私のことは分かってくれないのよ!」
「分かるわけねぇだろ!」
ルオンが叫んだ。
「お前が、お前自身のことを何も言わねぇんだから。オレらはエスパーでも超能力者でもねぇんだぞ!」
「…確かに」
「いや納得するんかい!」
「…ふふっ!」
アミは攻撃を止め、笑った。
ルオンとハクも、動きを止める。
「あなた、面白いわね」
「そーでもねぇぜ?なぁ、ハク、姉上」
「「面白い」」
「なんでだよ!?」
「あはははっ!あなたたち、仲もいいのね~!」
「もはやバカにしてんじゃねぇか!」
アミは楽しそうに爆笑している。
ひとしきり笑ったあと、アミはスッキリした表情で言った。
「ねぇ、チサ」
「はい、アミ様」
「私、自首するわ」
「…はい?」
「紺色君たちのおかげで、間違いに気がつけた。だから、もう終わりにする。250人の命は、全部返すことにする。そして私は、罪を償うわ」
「…さようでございますか。では、私もご一緒に」
「え?いいわよ、気使わなくて。これは私の問題なんだから」
「いいえ、ご一緒させてください。私は、アミ様が幼い頃から共に過ごしてきました。主様が間違った方向に行こうとしているのにも気がつけなかったのは、完全に私の失態です。それに私は、アミ様の部下です。部下は、最後まで主の世話をするのが務めですので」
「…ありがとう」
アミは柔らかな表情で笑った。
「…なぁ、アミ」
そんなアミに、ルオンは声をかけた。
「なぁに?」
「良いこと教えてやるよ。
「…!!」
アミは目を見開いた。
そして
「…そうね。ありがとう」
ルオンに、そっと笑いかけた。
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