第20話 遘√?縺?▽縺?縺」縺ヲ蜷帙r逶ョ縺ァ霑ス縺」縺ヲ縺?◆

 2022年6月


 中学一年生としての生活をしながら、僕は勘づかれないよう最大の注意をしつつモジを監視し続けた。告白をせずに終わったあの日の付近は流石に落ち込んでいたが一週間もすれば元気を取り戻し、友達を増やし、毎日どの時間、移動教室でも必ずモジの隣には誰かがいてくれた。それも女子だけじゃない、男子も何人かいた。楽しそうにしてるかどうかはわからなかったけど、拒んではいなかったから多分大丈夫だ。

 モジは何かを察してか、僕に話しかけることはなくなった。たまにちらっと見てくる気もするけど、すぐに目を逸らしている。まだ僕の事を気に欠けてはいるようだった。


なんだか僕がいない君は、活き活きとしている気がした。顔も、言葉もよくわからない。だから、きっと僕の勘違いだ


「ナツメ、手。」

「き、キス…してほしい。そしたら貸す。」

「わかった。」


僕は一歩近づき、そっと唇を重ねた。

 ナツメは一か月たった辺りで割と従順になったが、夜中や放課後のモジがどこにいるかわからなくなる時間。『悪魔の羽』を使う前に接吻を求めるようになった。別に減るものでもなく、こうしておけば素直になるだろうから対応してやった。どんな道具にも、エネルギー補給は必要だからな。



・・・



2022年7月・夏休み


 モジは勉強をしたり、友達とプールに行ったり。夏休みを心から満喫していた。お祭りは大人数で出かけていて。右手にリンゴ飴を、左手にわたがしを。頭には狐のお面をつけているのが部屋から見えた。あんなにはしゃぐモジを見たのは、いつぶりだろうか。


君はまだ生きている


2022年10月・体育祭


モジは応援団に入っていた。クラスメイトは君の声を綺麗だとかかっこいいと褒めていたけど、僕にはわからなかった。


君はまだ生きている


2022年12月・クリスマスとモジの誕生日


クリスマスも年明けと同時の誕生日も、家族と共に君は過ごしていた。モジのお父さんは忙しい中なんとか時間を取って、家族勢ぞろいで君が祝われていたのをナツメを通して見た。モジのお母さんも、お父さんも。幸せそうだった。


君はまだ生きている


2023年3月・卒業式


 部活の先輩を見送る君の足元は濡れていた。多分泣いてたんだろう。僕は君を見ることに専念していたから、まともに仲の良い先輩などいなかった。ナツメが二年生おめでとうと言ってくれた。人生三度目の中学二年生。変な感覚だ。


君はまだ生きている


2023年7月・二度目の夏休み


 卒業した先輩に影響を受けて、本格的に部活を取り組みだしていた。君に見えない位置で、応援してる人たちに紛れて大会を見に行った。点が入るとチームメイトと手を叩き合い、逆に取られると肩を叩いて励まし合っていた。ナツメがぽつり、「これが青春?」と聞いてきた。僕は返事をしなかった。


君はまだ生きている


2023年9月・後期試験


 モジは相変わらず頭が良かった。ここまで学年一位をキープし続けている。みんなもそれは知っていたから、放課後モジ先生による勉強会が開かれた。最近ナツメを使いすぎてるから、勉強会に参加し様子を確認した。君は四方から名前を呼ばれて、人気者だった。僕は大丈夫そうだと思い、一人こっそり抜け出し家に帰った。


君はまだ生きている


202年2月・バレンタイン


モジは男女共にモテていて、机の上、鞄をかけるところまでチョコの入った袋で埋め尽くされていた。その日の体育、着替える時他の男子の声が聞こえて来た。


「俺、今日野山さんに告る!あんなに声綺麗で顔も可愛くて。ここで告らなきゃ後悔するね。」


彼は撃沈していた。モジは部活に集中したいらしい。

僕は心底彼に嫉妬した。


君はまだ生きている


2024年7月・三度目の夏休み


モジは三年生から直接指名を受け、バスケ部の部長になっていた。彼女が率いるうちの部活はどうやら強いらしく、全国まで勝ち進んだらしい。僕はモジが元気ならそれでよかった。ナツメとその大会を見に行った時、モジの両親を見つけた。モジが点を入れると、二人とも自分の事のように手を握り喜び合っていた。

大会の途中で抜け出し、ナツメと冷たいラムネを飲んだ。


君はまだ生きている


2024年10月・体育祭


 ついにモジは応援団長になった。他の応援団と切磋琢磨して、残念ながら優勝はできなかった。最後の彼女のスピーチは、泣きながらそれでもまっすぐ前を向き、周りの共に戦ってきた仲間たちの涙まで流してしまっていた。

もっとも、内容のわからない僕はつられなかったが。



・・・



2024年11月


 かなり着込んだはずなのに、秋風はコートを貫通し僕の体を震わせる。今日はモジが一人で出かけるらしく、部屋から見ているだけでは不安なのでついていくことにした。


「寒いな…。」

「手握る?」

「あぁ。」


ナツメもついてきた。悪魔は寒くないと言っていたが、流石にこの寒さの中ワンピースで外を出歩かせるのは視線が痛い。昔使っていたダウンを渡すと嬉しそうに袖を通した。少しぶかぶかで、ナツメの口が隠れてしまう。


「今日野山モジは何をしに行くんだ?」

「盗聴したが、どうやらモジのお父さんに誕生日プレゼントを買いに行くらしい。なんでも駅の外辺りで出張の花屋が来てるんだと。」

「ほぉ…花。サクマ、私にはどんな花が似合う?」

「そうだなぁ。」


 話を合わせつつ、モジと一定距離を取り続ける。今日の君は温かそうなコートに身を包んで、手袋までつけていた。その手袋は確か、友達に誕生日でもらったんだっけ。ストーカーも慣れて来たもんだな。バレそうになったらナツメに存在を薄くしてもらえばいい。一度やってくれた。


「なぁなぁ。」

「ん…わかったわかった。僕も花には詳しくないんだ。モジが無事に帰ったら花屋でナツメに似合う花買ってやるから。」

「本当か!」


ナツメは変わらず僕にぞっこんだ。おかげで少し困ってもいる。キス以上をたまに求めだすんだ。めんどくさいから適当に誤魔化してるが…そろそろちゃんとした対策をした方が良いな。

 ほどなくして駅に着いた。徒歩で行ける距離ではあるが、この寒さには体に堪えるな…。


「ここで見張ろう。」

「りょうかいだ。」


僕らは花屋の様子の見えるカフェの外の椅子に座った。そんな長居はしないし、大丈夫だろう。少し離れた先でモジがゆっくりと花を選んでいるのが見えた。早く決めてくれないかな…。寒い。


「…サクマ、野山モジが花を買ったぞ。」


少し経つとナツメの近距離報告通り、モジは花を買い終わって帰路を辿ろうとしている。僕も家へ帰ることにした。

椅子から立ち上がりつつ、モジの動向を眺める。

すると…一人の男が近づいていくのが見えた。金髪でピアスをつけた不良の様な見た目。


「まずい…!」

「サクマ!?」


今まで一切なかったこの状況。僕は過敏になってたんだ。君への、危険に。

すぐに走って、君の傍まで走る。

不良はモジの肩に手を置く。


「ねぇ君、ちょっとお兄さんについてきてよ。お茶しよ?」

「繧?a縺ヲ縺上□縺輔>窶ヲ縲ゅ♀闃ア縺梧スー繧後■繧?≧?」

「待て、嫌がってるだろ。」


正確には表情を読み取れないのでわからなかったが、僕が来たのを見るとすぐにモジは肩に乗った手をはねのけ、後ろに回って傍に隠れた。


「は?何?誰?」

「モジの彼氏だ。待ち合わせてたんだよ。」

「ちっ…そうかよ。」


暇つぶしに声をかけただけだったのか、男はダルそうな顔を見せていなくなった。こんな人目に付く場所だから争いは避けたかったんだろう。


「ケガは?」

「縺?縲∝、ァ荳亥、ォ縲ゅ≠縲√≠縺ョ縲ゆケ?@縺カ繧翫□縺ュ」


こんなデータはない。モジの言っていることが…一切わからなかった。顔にもモザイクがかかり、まるで化け物と会話している気分に陥る。

早く去ろう。僕自身もモジに何かしらの危害を及ばせてしまうのだから。


「僕急いでるんだ。悪いけどもう行くよ。」


少し早歩き気味にナツメのいる所へと向かおうとしたが


「縺セ縲∝セ?▲縺ヲ?」


モジに腕を掴まれてしまった。…なんだ?

そうか、お礼か。モジは正義感が強い。助けられたことに対するお礼をしようと言ってるんだ。


「大丈夫です、もう良いですか。本当、急いでるんで。」

「繧ゅ≧謌サ繧後↑縺???溽ァ√?縺セ縺滉ス蝉ケ?俣縺ィ隧ア縺励◆縺」


それでも何故かモジは手を放してはくれなかった。結構強めに言ってるんだがな…。もう僕の事なんて忘れてるはずなのに。

…仕方ない。


「ごめん!」


無理矢理ほどき、僕は走った。


「遘∽ス輔°縺励◆縺ョ??シ溘?縺??∽ス蝉ケ?俣?∽ス蝉ケ?俣縺後>縺ェ縺?→遘∝ッゅ@縺?h??シ?シ」


機械音の叫び声。耳を塞ぎたかった。どうして、君が何を言ってるかわからないのに。もう何年も話してないのに。

涙が、流れるんだっ…!!


キーーッ


「サクマ!!」


溢れた涙は視界をぼやけさせた。いつの間にか道路に飛び出してしまっていて。真横から聞こえてくるブレーキ音と、ナツメの叫び声が両耳を通り、思考を停止させる。



トッ……ドンッ!!!!



感覚とアスファルトに擦れる体。鈍い人体が轢かれる音が聞こえた。体が地面に叩きつけられ、痛みと衝撃が全身を貫く。耳を裂くブレーキ音、ナツメの叫び声、遠くで割れるガラスの音――五感がすべて混ざり合い、頭が真っ白になる。


「なん…で。なんで…君は!いつもいつもいつも!!!あぁああああああ!!」


視界の端で、横たわるモジの姿。血に濡れたコート、舞う花弁。その瞬間、僕の理性は完全に崩れ去った。


トラウマが蘇り、錯乱してしまう。


「あぁ…うっ、うぅうううう…。」


ナツメが何か言ってるが、聞こえない。

周りの人の叫び声が、僕の意識を完全にシャットダウンさせた。


君は、死んだ。


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