第36話 戦闘訓練開始

 チカトからヴィリジアンヴィレッジに戻り、フクさんとドルフさんに食材を渡した次の日。俺は、九尾稲荷大社の前の本殿で師匠と向かい合っていた。


「本日より、戦闘訓練を始めるのじゃ。まず、お主の目標じゃが、グレーグリズリーを倒してもらう。攻撃回数は3回。奴を戦闘不能にすればお主の勝ちじゃ。そして、そのための戦闘訓練は3種類じゃ。


 一つ目は、魔力操作をさらに精密に滑らか高速に行う訓練じゃ。

 二つ目は、魔素を操作し物理現象を発生させる訓練。すなわち魔法じゃ。

 三つ目は、シンプルに武器を使い、攻撃・防御・回避の訓練じゃ。


 二つ目、三つ目の基礎となるのが一つ目の魔力操作訓練じゃ。これは妾が行う。

 二つ目の魔法の訓練はフクに任せる。

 最後の武器の訓練はダーシュに任せることにしておる。いずれも妾ではやりすぎてしまうからの。」


「はい、師匠。」

「良い返事じゃ。では、早速魔力操作の訓練に入る。まずは坐禅を組み瞑想して体内の魔素を魔力で高速に巡らせるのじゃ。」


 俺は、言われた通り坐禅を組み魔力操作で体内の魔素を循環させる。魔素の循環をやっていないと100kgの亀の甲羅を背負って動くことなどできないため、常に行っていることではあるが、さらに意識をして循環させる。


「遅い。さらに速くじゃ。」


 魔素の循環を速くするように意識する。


「くっ。」


 右腕に痛みが走る。


「右腕に魔素の澱みができており、流れが悪い。もっと均一に流れる水のように。」


 水の流れをイメージする。右腕の痛みが引いた。しかし、次は右足に痛みが移る。

 次は左腕、次は左足、首、そして右腕に戻る。まるでモグラ叩き。


「まだまだじゃな。少し見ておれ。」


 師匠が意識して魔素をと動かす。もちろん、それでも俺の操作よりも速いことは感覚的にわかる。これが目標だということだろうが、魔素の動きそのものが見えないので、なんかすごいくらいにしかわからない。


「そうか、お主は魔素の動きが見えないのじゃったな。どうしたものか・・・」


 うーん、困った。師匠やハイエルフの村の人たちは普通に見ることができるらしい。

 種族の差というやつなのか、異世界人故か。俺は、感覚で掴むしかないのだろうか・・・。


『告。マスターのスキルで、個体名:楓の動画を撮影することで魔素の流れを可視化することが可能です。動画の撮影後、写真と同様に魔素表示を行うことを推奨します。』


 そういえば、撮影スキルが進化して動画の撮影ができるようになっていたんだった。

 メーティスさんナイスです。


 ユニークスキル起動。動画撮影のために赤い録画ボタンを押す。


『マスター。動画撮影ではそのための設定が必要です。』


 え、そうなの?


『はい。写真とは異なり、シャッタースピードを遅くする必要があります。基本設定に変更しますか?』


 お願いします!


 ・フレームレート:30fps

 ・シャッタースピード:1/60秒

 ・動画のサイズ:フルHD

 ・シャッタースピード優先設定

 ・ピクチャープロファイル:Movie


 メーティスさんによると、後で色の調整をする場合はピクチャープロファイルをLogにすると良いとのこと。ちょっと何をいっているのかわからないのでスルーしよう。


 動画の場合のポイントは、シャッタースピードの設定。フレームレートが30の場合、その2倍分の1、つまり1/60秒にする。シャッタースピードを速くすると動画の1フレームが“きっちり写りすぎる“ため、パラパラ漫画のようなカクカクの動きになってしまうらしい。


「アキラよ。まだかの?」

「師匠、ごめん。」


 1分ほど師匠を映像に収める。絵面としては、師匠が目を閉じて立っているだけなのだが。魔素表示をONにして再生すると身体を覆う魔素が均一に高速に流れているのが見える。


 同じく、自分を撮影する。

「魔素の流れ遅っ。そして流れにムラがあるな。」


 こうやって見ると雲泥の差がある。修行あるのみだ。

 ちなみに、師匠の通常状態での撮影をさせてもらったところ、魔素の循環が速すぎて、動いていることさえわからないレベルだった。先は遠いなぁ。


 ちなみに、ソラちゃんを撮影したら、通常状態の師匠と同じレベルだった。

 ソラちゃん、恐ろしい子。


 ソラちゃん、ソラちゃんか・・・・

 そういえば、写真を表示できたよね。動画も表示できるのではないだろうか?

 と思ってソラちゃんに聞いてみた。


「できるよぉ。」


 しかも、撮影しながらリアルタイムで表示できることも判明。

 ということは、訓練しながら自分の姿が見れる!!

 これって修行にはもってこいじゃないか。“撮影スキル“使えるかも。


 午前中いっぱい魔力操作の修行を続ける。

 速さはないがムラなく均一に動かすことはできるようになってきた。


「うむ、まだまだ遅いが、滑らかさはそこそこじゃな。それでは、昼飯を食いに行くぞ。」


 本日のお昼は、ピザだった。フクさんがピザ作りにハマったらしい。

 トマトは種から栽培検討中で今はない。しかし、超絶美味しいチカト産のチーズがある。そして、モッツァレラチーズの作り方も伝授してある。


「楓様。お待ちしておりました。あんたもここに座りな。どうだいあんたから教わったピザだよ。チカト産のチーズをたっぷり使ったピザだよ。」


 つまり、今日のピザはクワトロフォルマッジもどきのチーズピザだ。

 ダーシュが採取してきてくれたキラービーの蜂蜜もある。


「うまい。これもうまいのじゃ。」

「ソラしあわせぇ」


 違う、違うのだよ。これはもっとうまくなる。ブルーチーズや各種スパイス、にんにくなども手に入れば本物のクワトロフォルマッジが作れるのに。


 ああ、強くなるよりも、うまい飯作る方が性に合ってるんだけどなぁ。材料を探すためにも強くならなきゃならないのでしょうがない。


 さて、食べるとしますか。

 自分の分を食べる前に、写真を一枚。伸びたチーズに垂れる蜂蜜のシズル感が最高だ。そうそう、こういう写真を撮るのがいいんだよ。


「なんじゃ、なんじゃアキラよ。食べないのであれば、妾がもらってやろう。」

「だめです。」


 パシリと師匠の手を叩く。

 師匠がぷくっと頬を膨らませている。あざとかわいいな。

 俺は、ピザを食べ切った。普通に美味しかったです。


 そして、午後からフクさんによるいわゆる魔法の訓練が始まる。

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