第29話 神獣 楓

 一糸纏わぬ師匠が近づいてくる。


 師匠、ダメです。そんなこと。

 あ、ああ。


「何いやらしい顔をしておるのじゃ?せっかく妾の本来の寝所に連れて来てやったのじゃ。心してみておれ。」


 そいういうと、師匠から魔素が溢れ出し、黒い煙に包まれる。


「うわぁ。」


 目の前が真っ暗になる。

 煙が晴れたあと、目の前には九本の尾をもつ巨大な白い狐が現れた。

 ものすごい魔素の圧力。強化された魔力で体を覆っているから立っていられるが、気を抜けば一瞬で消し飛ぶ。


「アキラよ、よくぞ期限内に、妾の本来の姿の前に立てるようになってくれた。礼をいうぞ。さぁ、お主のユニークスキル撮影者で妾を撮影するのじゃ。」

「師匠を撮影する?」

「そうじゃ、妾を撮影し、溜め込んだ魔素を吸い出して欲しいのじゃ。」

「魔素を吸い出す?撮影者で?」


 確かに、撮影者で撮影すると何かが溜まっていく感覚があった。その何かが魔素だとしたら、師匠が言っていることは理解できる。しかし、それは非常に微量でしかなかった。師匠、いや、神獣 九尾の狐の溜め込んだ膨大な魔素を吸い出すようなことができるのか疑問が尽きない。

 さらに、期限内に神獣の姿の師匠の前に立つという条件も解せない。それに、ミコト様はこの世界を少しだけ良くしてほしいと言っていた。「文化レベルを上げること」それが俺に課せられている使命のはずだ。それであれば、「世界樹のある村」などに飛ばされるのも、今となっては不思議なことだ。まるで、初めからユニークスキル撮影者を持った俺を師匠に会わせて、撮影させるところまでミコト様の仕込みであるように思える。いや、ほぼ確定だろう。

 それでも、師匠にはよくしてもらっているし、ミコト様はああ見えて神様だ。悪いことにはならない気がする。理由はない、勘である。


「わかりました。ユニークスキル撮影者起動」


 俺は、カメラを構える。焦点距離を20mmに合わせる。F値は8くらいでいいだろう。かなりの広角なのだが、神獣状態の師匠の全体を入れることができない。


 シャッターを切る。


「うぉ。」


 写真を通して何かが流れ込んできた。これが魔素を吸収するというやつか。


「全く減っておらぬのじゃ」


 結構な量が流れ込んできたと思ったのだが、師匠の溜め込んだ魔素はほとんど減っていないらしい。


『F値を明るくし、個体名:楓の全体をフレームに収めることで吸収量が上昇します。』


 メーティスさんが教えてくれる。その助言に従い、師匠から距離をとり、F値を解放F2.8に設定する。


「行きます。」


 目にピントを合わせる。驚いたことに動物AFが師匠にもちゃんと効くので苦労せず目にピントがきちんと合う。

 ここら辺、ファンタジー要素が急に無くなるなw


 カシャ。


 撮影した瞬間。大量の魔素が体に流れ込んでくる。めちゃくちゃ気持ち悪い。

 目の前がぐるぐると回る。鼻血が垂れてくる。吐き気も酷い。

 その場で膝を着き、吐き気に耐える。


「おお、かすかじゃが魔素が減ったのじゃ。この感じじゃと1年猶予ができたくらいかの。」

「し、師匠、めちゃくちゃ気持ち悪いのだけど、これは一体?」

「おお、すまぬの。だが、お主のおかげで助かった。・・・魔素は、適量であれば、さまざまな効能がある。しかし、過剰になればなるほど暴走という形で害を及ぼす。妾は世界樹の魔素を取り込んできたのじゃ。それが、妾の役目なのじゃが、そろそろ魔素の許容量を超えるとこじゃった。許容量を超えると妾が妾ではなくなり、神の頂の周囲が妾の放出する魔素から生まれた強力な魔物で満たされ、妾は世界を滅ぼしかねない魔獣と化すのじゃ。1000年前同じことが起こっての。気づいたら、天の湖ができておった。」

「それじゃ、師匠が魔素を抑えられると言ってた5日間、いやもう3日経ってるからあと2日か、っていうのは・・・」

「そうじゃ、世界滅亡のカウントダウンじゃ。お主が間に合わねば危なかったのじゃ。」

「いや、危なかったのじゃとかじゃねーよ。ギリギリじゃねーか。」

「妾も焦っておったのじゃ。時にお主、人間にしては相当量の魔素を吸収量したと思うのじゃが、もう大丈夫なのか?」

「ああ、まだ少しフラフラするし、気持ちは悪いけど、さっきの話を聞いたらそれどころじゃなくなったよ。」


 師匠は巨大な九尾の狐。この世界でも最強の一画を担う存在だろう。その存在が魔素の過剰蓄積によって暴走する。人間の勇者がどれだけ来ても討伐できる気がしない。1000年前暴走を止めたのが須佐之男命つまりミコト様だ。神様が自ら止めるほどの厄災ということ。それが猶予ができたとはいえ1年後に起こる。もう少し撮影した方がいいのではないか?そう思ってしまう。


「なぁ、師匠、もう少し撮影した方がいいんじゃないのか?」

「いや、今はやめておこう。お主の体が耐えられないであろうからな。もう少し魔力と魔素の制御を覚えてからが良いのじゃ。一年とはいえ猶予ができたのじゃ。その間に鍛えるのじゃ。」

「それから、師匠はいつまでその姿なんだ?」

「せっかく妾の寝所来たのじゃ、一緒に寝ようぞ。妾の毛はもふもふじゃぞ、思う存分モフルが良い」


 そういうと、するすると師匠がセントバーナードぐらいのサイズに小さくなる。


 モフモフよりもぱ○ぱ○の方が・・・とはいえない。そう、俺は小心者。

 今日は、思う存分モフモフしながら寝させてもらいます。魔素が体から溢れているし、まだ気持ち悪いからな。

 それにしても師匠の毛は柔らかくて気持ちいな。


 モフモフ。わしゃわしゃ。モフモフ。


 Zzzz


『・・・吸収した魔素を神空間へアップロードします。』


 進捗率0.1%

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