第2話 神様撮影会

 ここは、どこだ。


 目を覚ますと、真っ白で何もない空間にいた。

 手も足もあるし、目も見える。服も着ている。

 よかった、丸くてぷにぷにの姿ではないようだ。


 服を着ているということは、

 持ち物もそのまま残っているのか?

 あった、財布、家の鍵、スマホ、モバイルバッテリー、そしてカメラ。全部ある。


 これはどういうことだ?

 死んだと思っていたが、実は生きていて、別の場所に運ばれたとか?

 仮にそうだとして、なんのために?という疑問が残る。


「目を覚ましたみたいだね。」


 後ろから声をかけられて振り返って言葉を失った。


「やぁ アキラ君。僕は、ミコト。いわゆる神様ってやつだ。よろしくね。」


 目の前には、赤い袴に、純白の巫女服、ピンクの長い髪を後ろでひとまとめにした美少女が立っている。

 額には、白いツノが2本。

 どう見ても、転生したら、丸くてぷにぷにしてた件の世界線の方ですよね?


 ん?僕?

 俺の名前も知っている?

 いや、そもそもその格好はダメじゃないのか?


 色々とつっこみたいことは多いが、今はそれどころではない。

 こ、これは、撮影チャンスなのでは? カメラ持ってるし。

 いきなり撮るのは失礼だ。ここは紳士的にお願いするのだ。焦るな、俺。


「すみません、写真撮ってもいいですか?」


「あはははは、説明を聞く前に、まず撮影させて欲しいだなんて、さすがアキラ君だね。いいよ、僕も撮ってもらいたいと思っていたし。」


 これで、買ったばかりのTOMRANの20−40mm F2.8を使うことができる。


 まずは、撮影モードを絞り優先に合わせる。これが、写真撮影のいろはの「い」だとカメラ店の店員さんは言っていた。そして、F値を2.8にセット。ピント合わせ、シャッタースピードはカメラ任せでOK。F値をどうするか選ぶのが撮影者への第一歩。今まで、プログラムオートで撮影していました。教えてくれてありがとう。中野のカメラ店のお兄さん。


 まずは40mmで撮影する。


「準備はできたかい? そしたら、僕はどんなポーズすればいいのかな?」


 モデルさんとのコミュニケーションは、いい撮影の最重要ポイントだ!

 自然な表情を引き出すのもカメラマンの腕だぞ。


 眩しい笑顔にサムズアップしたイケおじの先輩パイセン(55歳 独身)の映像が浮かんできた。

 会うたびに、カメラは楽しいぞと勧めてきた先輩パイセン。これからは心の師匠と呼ぼう。


「じゃあ、祈りを捧げるように、両手を前に組んでください。」

 ミコト様が、膝をついて、祈りのポーズをする。これは、マジであの鬼姫様にしか見えないよ。


 カシャ、カシャ。


 見よ!これがF2.8の威力だ。背景が大きくボケて被写体を浮かびあがらせるのだ!


 ・・・・・


 背景が真っ白で、ボケてるかどうか全くわからない。証明写真みたいになってるな。


 こうなったら、近づいて、胸から上のアップ写真「バストアップ」にして、背景を無視しよう。


 しかし、焦点距離40mmで撮ろうとすると、1m程度まで近寄ることに。

 こんなおっさんが、美少女にカメラを持って1mまで近づく。絵面としてどうなんだ?

 いや、撮影のためだ、気にするな。気にしたら負けだ。


 カシャ、カシャ。


 さらに、焦点距離を変えながら撮影していく。


 うん、雰囲気も出てるし、いい感じに撮れたのではないだろうか。


 神様であるミコト様に見せてみる。


「これが撮影かぁ。初めて撮ってもらったけど、楽しいね。うん、とても綺麗に写ってるじゃない。」

「ミコト様が美しいので、どう撮っても絵になりましたよ。それに、20−40mmを使えたのも嬉しかったです。これで思い残すことはありません。成仏できます。ありがとうございました。」


 俺は、深々とお辞儀をした。


「ちょっと、ちょっと。君は成仏なんてしないよ。てか、これから異世界に転生するんだから。」


 ちっ、やはり転生ものだったか。それすなわち、絶対に厄介ごとに壮大に巻き込まれるということ。

「平穏な人生」を求めて、波風立てずに生きてきたというのに。どうしてこうなった。



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