若殿さまの下働きと、くノ一の如き姫
それから若殿さまの下働きは即日決まり、両親は田舎へと返っていった。
実地研修は明くる日からとの事で、彼は釣書を眺めながら、ふらりと自室にと宛がわれた部屋の庭へと通じる襖を開けると、カサッと微かに何かが聞こえてきた。
見ると、なんとも言い難い美しい姫が木の合間を縫って飛んでいた。どこかで見たような……と考えている間に姫は木をスルスルと登り振り返ると、「シー」と手に指を添え、音を立てる事もなく、まるでくノ一かの如く身軽さで城の外へと消えていった。
「明楽姫、姫、姫……」
姫を探す声が城中に響く。だが、それも諦めの色が彼にも分かるほど、すぐに探す声は消えていった。
翌朝、若殿は日が昇ろうとせん時間に起きた、その時のこと。
誰かが部屋へ侵入してきた。
深緑の袴と、桃色に古典柄の様相。
「貴女は……」
姫は有ろう事か、「貴方でしょう?例の若殿様」と言うと彼の唇を塞いでしまったのである。
それに対して若殿さまは言葉もなく頷くと、今のは……と尋ねる暇もなく、姫は襖を再度開けると事も無げに、部屋の外に控えていた者へと言い放った。
「この方との縁談ならばお受け致しましょう。」
その日を境にざわめく日が続いた。
当然と言えば当然なのかもしれない。
散々城の外に出て遊び惚けていた姫はみるみる大人しくなり、避けて通ってきた花嫁修業を真剣に受け始めたものだから。
若殿さまは若殿さまで、決められた仕事を真面目に取り組み、両家ともども、満場一致と見做され、縁談の話はとんとん拍子で進んでゆき、ついに二人が正式な夫婦となって田舎へと帰る日が来たのだった。
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