第33話 リリーナ様。レオナルト様にとある告白をされる。



 結局、予想通りランメルツ侯爵スザンナ嬢はランメルツ侯爵が所有する領地のとんでもなく田舎の修道院送りになったそうだ。

 うちの方にも見舞い金が入ってきた。

 これは口止め料も含まれる。

 娘を伯爵家に嫁がせたかったのに予定が狂ったか。

 ランメルツ侯はこれ以上の醜聞は避けたいのだろうな……。

 昨年、レオナルト様にべったりで、かなり顰蹙買っていたみたいだし。

 あと、ベンジャミンはフリッツが回収しようとしたら、レオナルト様が身柄預かっているようで、奴を返してくれなかった。

 本気で怒ってるな……。

 元王子様は怒らせると恐い。

 普段、威圧的なわたしが怒るのと、普段穏やかな人が怒るのとでは差が出るから、恐さも増すな。

 却ってお手を煩わせてしまったか……。

 ……もうあれだな、奴は生きてないかもしれない。


「ところで、レオナルト様」

「何? リリーナ」

「わたしに護衛をつけていたのですね」

「うん。何かあったら俺の心臓が持たない」


 その言葉は……もしかして……亡くなった奥様のことがトラウマになってるのかもしれないと思った。

 結婚して一か月で亡くなっているから?

 え、まって、わたし自分が考えるよりもレオナルト様に特別に思われてる?


「あ、ありがとうございます」

「無事でよかったよ」

「はい」


「リリーナには悪いけど、あのクソ虫は俺の方で処分させてもらった。一度ならず二度までも……リリーナの心を弄んだだけではなく、今回は命を狙ったんだ。生かしておく理由はない」


「まさか駒に使われるとは。管理が甘かったようです。申し訳ございません」


「アレを生かしていたのは……その……リリーナが、多少なりとも、やっぱり奴に思いがあったから――……」


 レオナルト様……その、ちょっと拗ねたような言い方、可愛すぎじゃないですか。


「それは、ありえません。さんざん女を食い物にしてきた男ですよ。因果はめぐるというのをわからせてやろうとしたまでです」

「……そうか……」

「レオナルト様、わたしも、お尋ねしたいことがあったのですが」

「うん?」


「今期社交シーズンのパートナーはまだ続行なのでしょうか?」


 わたしがそう尋ねると、レオナルト様はすごいショックを受けたような感じでわたしを見つめる。


「俺がリリーナを守るから、傍にいてほしい」


 そんな切羽詰まった感じで言わなくても……。

 そんな切ない表情でそんな言い方されたら……。

 だけど、このままレオナルト様のお傍にいたら、勘違いしそうじゃない。

 見た目も性格も好みドストライクなのにっ!!

 お話も面白くて、気遣いもよくて、なんだ、この理想詰め込んだ存在。ああ、王子様だよ、元王子様だけど、王子様!

 そんな人から一緒にいてと言われれば、いるよ!


 だけど。


「あの」


 自分で自分に――自信がないから。

 逃げ出したいって気持ちもある。

 でもそれでいいのかと……思う気持ちもある。


 ――レオナルト様には幸せになってほしいものだ……。


 わたしはそう言った。

 だから、本意を聞いておくべきじゃないか。

 この方がどうしたいのか。

 わたしが傍にいる意味が、わたしが思っていたことと合っているのか。


「うん?」


「レオナルト様が――わたしをおそばに置くのは、さんざんなお見合い攻勢を凌ぐための盾としてだと思っておりました」


「……」


「今回のようなことが起きるから、本格的にお話が進んでいる家に迷惑はかけられないと思ったレオナルト様のお考えの上でのことなのかと」


「違うよ」


 違うのか……。


「リリーナはなんでそう思ったの?」

「あー……その、グルーグハルト公爵家のマルガレータ様とのお話があがっているということを伺いましたので」


 ランメルツ侯爵令嬢がわたしにあてこすりで、お前より爵位があって、若くて、可愛いご令嬢がいるんだから、いい気になっていられるのも今のうちだ的な事を仰っていたから……。


「リリーナ」


「はい」


「――結婚するなら、好きな子としたいんだ。ちゃんと相手に伝えたいし、行動にも移したいと思ってる。俺は昔も今も自由で不自由だが――次の結婚だけは自分の意志で選びたい」


 それは王族だったこの人ができるのか?


「政略のために、意に沿わない結婚をしたが、真に愛する男と手に手をとって、逃げだしたあげく亡くなった令嬢を俺は知っている」


 レオナルト様の表情が、いつもの穏やかな笑顔ではなかった。

 綺麗で美しい人形のように。

 その顔に表情は浮かんでいなかった。


「――……ガイルート王国の第三王女エルヴィラ・オリーヴェ・ドライア・ガイルート。

 俺の結婚相手だった彼女がそうだったんだ」


 レオナルト様の告白にわたしは目を見開いた。


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