第26話

 というか、教室に電気ポットって、電気は使って良いのか? って疑問に思うのだけれど、そこについてはあまり突っ込まない方が良いのだろう。


「……何か飲むものでも用意しようか。リクエストでもあれば」

「リクエスト、と言いますけれど。実際には何があるのですか? 何でも用意できるという訳でもないでしょうし」


 未来はノリノリで問いかけている。

 もしかしてこういう潜入取材的なこと、好きだったりするのか?

 或いは、興味があったのか——おれは冷めた目線でそちらを見つめていた。一歩離れたところで、とでも言えば良いか。第三者目線で見ると、何だかそうノリノリで話を進められると、ちょっと面倒臭いなって感じさえ覚える。

 教壇の下に引き出しがあるようで、そこにはたくさんのティーパックなり粉末緑茶の入った袋なりが入っていた。……いや、家か?


「どんな味がお好み? ミルクティーやレモンティーやストレートティーにロングアイランドアイスティーもあるよ?」

「……最後は紅茶じゃなくない?」


 最後の名前って、度数の強いお酒を混ぜたら偶然紅茶っぽい味になったからそう命名されたカクテルだったよな? ってか、アカデミアって学校なのだからお酒は絶対に置いていないと思うのだけれどね。


「ロングアイランドアイスティーって凄い気になる名前だけれど……」

「いや、冗談だからね? レディキラーって言われるぐらい、飲みやすいのに酔いが回りやすいって有名なんだから。それに、そんなカクテルを作れる材料も資材も持ち合わせちゃいないし」

「だったら、何でそれを入れたんだ?」

「いや、まあ、ネタとして……」


 だったら致し方ないか。

 ……致し方ないか?

 そう思っているうちに少女は何処からかティーカップを三つ用意して、ティーパックを要領良く置いていく。いや、リクエスト通したっけ? あんまり覚えていないんだけれど。


「味のリクエストを受け付けようとしていたのだけれど……。意外とストックがなかったものでね、残念ながらダージリンティー一択でお願いしますね」


 じゃあ、最初からそう言えば良かったのでは。


「いやいや、やっぱりそう言うのも良いけれどさあ……。何というか、こっちとしても引き下がれないものがあるでしょう? だから、こちらとしてもあまり言えないというか——」

「と、いうか」


 さっきからずっと気になっていることがあったのだけれど——。


「……ってか、何でさっきからこっちの思っていることが分かるんだ?」


 それを聞いて、少女はぴたりと行動を止めた。

 さっきから、こっちが考えていること——まるでこっちが口に出しているかのように、聞かれているかのように、手に取られているかのように、話が進んでいる。

 思考を読み取られているとしか、思えない。


「……バレちゃった?」


 少女は踵を返し、にひひと笑みを浮かべる。


「バレちゃった、って……」

「あなたの使える魔法は、そういう魔法なの?」

「まあ、合っているようで間違っているようで……。でも、そう言っておけば良いのよねえ。面倒だし」

「いや、違うのなら違うとはっきり言っておいた方が良いような気がするけれどね……?」

「わたしの名前は信楽雫。自己紹介するタイミングは今ではないような気がするし、一応言っておこうと思うけれど、残念ながらわたしが使える魔法というのはこういう直接的にどうこうする魔法ではないのよね。だから、表舞台に出てくる必要もないというか」

「……七つ星に価値上がろうとするならば、その魔法では難しいよな。戦法を考えなきゃいけないし、絶対に一筋縄では勝ち上がれない。だったら、最初からそのレースに賭けなければ良い。ただ、それだけの話、ってことか……」

「随分と理解度が高いような気がするけれど?」

「まあ……。七つ星がどれほどハードルが高く、狭き門であることぐらいは、この都市に住んでいる人間誰しもがわかっていることだろうし」


 一応、平静を保ちながら回答する。

 今思えば自分の任務が何だったかをすっかり忘れて回答してしまっていたので、少し軌道修正をしなければならない。……もう遅いか?

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