第2話 隕石?いいや、少女です。

 気がついたら、転生してました。ほら、最近はやっているパターンだ。

なぜかぽっくり行っちゃったら、生まれ変わってましたってやつ。

どうやら俺がそうらしいと気づいたのは、俺が生まれてから4歳になった時だった。


 当時、前世のことを思い出したときは歓喜が爆発した。

やったぜ夢にまで見たセカンドライフだヒャッハー!、とハイになったのは今でも恥ずかしさとともに心に残っている。そしてこの瞬間、俺が目指すものは決まった。


 俺の転生先は、ユーリア村という村で農家を営んでいた。豚や鶏とよく似た、色の違う家畜を育てて、大きな町で販売しており、そこで生計を立てていた。俺は手伝いを名乗り出て、都に頻繫に行くことにした。何も商売を手伝うためではない。情報を集めるためだった。両親が暮らしていた村は広く、大勢の人間がいたが、辺境と呼ぶにふさわしいど田舎だったため、得られる情報が限られていた。そこで、俺は

もっと栄えている場所ならば、と考えたわけだ。


 まず俺たちが商売をしている町、ここは王都クリステリアというらしい。

もともと、ここは大きな水晶の鉱脈があり、そこから財を成した商人の一族が

この地に城下町を作り、貴族となって国を作っていったんだとか。

 そして、この世界には階級制度があり、上から順に王族、神官、貴族、商人、農民と別れている。階級に関しては、ある程度の財を得た、人望、人脈があるなど様々な要因により、上昇させることが可能だ。


 次に、信じられない話だったが、この世界に「探偵」という職業はなかった。

この世界には「噓と真を暴く」という【審判】スキルを持った人物がおり、事件の解決には頻繫に彼らが動く。容疑者を集めて、二言三言言葉を交わして犯人を暴き出すらしい。また【読心】という人の心を読むスキルを持つ人物がおり、隠し事は無意味だそうだ。技術もへったくれもないとショックを受けたが、セカンドチャンスで長年の夢をあきらめるなんてどうかしている、どうせなら新しく「探偵」いう職業を作ってしまおう、ともう開き直った。


 最後に、「スキル」の話をしよう。この世界の人々は皆、1つ以上のスキルを持って生まれてくる。スキルのカテゴリは数多く、ありふれたものから希少なものまでさまざまなものがある。持っているスキルによって、事業を起こしたり、仕事で優遇されたりするわけだ。スキルの判定は、各々10歳になったとき【鑑定】スキルを持ったその地を治める貴族や商人によって行われる。そこで、どんなスキル持ちかがわかり、どのような人生を歩んでいくかが決定されていくのだ。

 そこで、俺が得たスキルは…


「まさかの【会話】だったとはね…。」


干し肉をかじりながらそう呟いて、俺は再びため息をついた。


 【会話】というスキルは、シンプルなもので効果は「あらゆる生物との会話」。

自分が認識できる範囲で、ありとあらゆる生物と話すことができる。ジョブとしては、「話術師」の分類に入ると説明を受けた。両親は、家畜の面倒を見ることができる素晴らしいスキルだと喜んだが、10歳の俺が抱いていたのは失望だった。

スキルで大きな差が生まれるこの世界で、このチャンスにかけていた部分が多かったため苦しい気持ちが大きかった。俺はやるせなさを感じたが、それでも夢をあきらめきれず、どうにか苦労をして王都で探偵として、細々と働き始めたのだが…


「ぶっちゃけ、仕事がないんだよね…。」


そうなのだ。この世界では、大抵の人間が何らかのスキルを持っており、多くの人間がスキルに合わせた職に就く。なので、たいして問題が起きることもない。というか

問題が起こっても個人で何とか解決できる。俺のような自身の持つスキルと全くベクトルの異なる職についている人間のほうが稀なので、俺だけがバカやって苦労している、という状況に当たるのだ。自業自得、と言ってしまえばそれまでであるが、

俺はやっぱり大バカ者で夢をあきらめきれなかった。

 だから、商業ギルドや建築ギルドで何とか仕事を見つけて何とか今は食いつないでいる。


「とはいえ、そろそろやばいな…。借家に納める金もまだ払いきれてないし…。

 やっぱり転職するかな…。」


そんなことをぼやいていると、知り合いの鳥たちが飛んできた。


「アルアル~、お久~。」

「元気です?」

「ダイジョブ~?」

「へいへい、大丈夫ですよ…と。」


矢継ぎ早にそんなことを言ってきたのは、色の異なる3羽の小鳥たちだった。

 最初に声をかけてきた赤い羽根をしているのが、エル。

3羽の中での長男に当たるらしく、面倒見がよく楽観的な奴だ。

ただいささかノリが軽い。

 次に声をかけてきたのが、テル。3羽の中での最も頭が切れ、参謀担当というスタンスだ。もっとも聡明で観察眼が鋭い。けれど、かなり頭が固い。時折に俺に説教をしてくるほどだ。

 最後に声をかけてきたのが、シル。3羽の中で輪をかけて小柄だが、隔絶した飛行センスを持っている。前に一度見たが、超ハイテクドローンってあんな感じだったと思う。この3羽は、前に気に引っかかっていたところを助けた時になつかれた。

俺としても、偵察部隊としてはなかなか優秀であるため重宝している。


「お前ら、そろいもそろってどうしたんだ?」


また、木の実を取ってほしいとかいう頼みかと思って、問いかけてみると

3羽はそろって首を振った。


「ううん、違うよー。」

「人がなんか、倒れていまして。」

「穴穴ー。」

「人?」


俺は眉根を寄せた。



俺が森の中を走るのに合わせて、テルが説明してくれた。


「僕たちの巣が結構山深いところにあるのはご存じですよね?」

「ああ、覚えてるぞ。前行った時、クッソ苦労したからな。

 なんでお前らあんな辺鄙なところに住んでるんだよ?」

「アルさんが来る時苦しむのを見物するためです。」

「やいこら今なんて言った。」

「失礼しました。様々な虫や果物が生っている森林があるためです。」


しれっとした顔でとんでもないことを抜かしたクソ鳥を軽くにらんでから、

再び顔を前に向けるとテルがまた説明を始めた。


「昨日の夜、僕らが睡眠をとっている大きな爆発音がしたんですよ。

 それこそ、周りの木々が吹き飛ぶぐらいのね。慌てて飛び起きましたよ。」

「それから、明るくなってみたらさあ、音がしたほうがとんでもないことになってた

 わけよ。それで、アルに相談してみようってことになったわけさ。」


と途中で飛んできたエルが説明を引き継いだ。


「そろそろだよー。」


と上空を飛んでいたシルから声がかかり、俺はうっそうとした茂みを飛び出した。

そしてそのまま、勢いよくすっころんだ。


「いてて…。」


何回転してからか止まると、俺はよろよろと体を起こした。


「何やってるのさあ、アル。」

「全くもってどんくさいですね。普段運動しないからそうなるんですよ。」

「アルだいじょぶー?」

「ありがとうシル、俺の味方はお前だけだ…!」


羞恥と怒りと苦痛に悶えながら、何とか周りを見渡してみて、俺は絶句した。


「な…。」


何もない。文字通り、何もないのだ。ここには、周りと同様に森が青々と茂っていたはずなのにそれが跡形もなく吹き飛んでいる。まるで、森にぽっかり空いた穴のようになっていて、隕石が落ちた月面のクレーターそのものだ。


「一体、誰が何をしたらこんなことになるんだ…?」


戦慄しながら、周りを見渡すとその吹き飛んでいる中心部に誰かが倒れているのが見えた。恐る恐る近づいてみて、俺は再び絶句した。

 そこに倒れていたのは、まだ年端もいかぬ少女だったのである。











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