1-3

 渦は次第に大きくなり、スドアの肩幅ぐらいまでになった。スドアは茫然とそれが広がっていく様子を見ていた。そしてその中から、一本の棒が飛び出してきた。

 銀色の細長い棒の先には、さらに細い棒が五本くっついていた。それが人間の手に似ているとスドアが気が付くのには、少し時間がかかった。光っていてつるつるとしていて、生物とはかけ離れたものに見えたのである。

 しかし、それは動いていた。ということは、生物である。

 手のような棒は床をつかみ、渦の中から這い出てきた。そこには体のようなものや、足のようなものがくっついていた。

「人間の形……」

 スドアはつぶやいた。

 人型のそれは、立ち上がって首をくるくると回した。頭にあたる場所には、丸い硝子が二つ付いている。目のようだった。そして、スドアを見つけるとじっと見つめてきた。

「ga guaa」

 「それ」は音を発したが、スドアは聞いたことのない種類のものだった。木々のこすれる音、波が岩に当たる音、最も近いものを思い浮かべようとするが、どれも遠かった。

 「それ」はしばらく動きを止めた後、右手の上に左手の指で何やら書くような仕草をした。

「えっ、何?」

「E NANI」

 「それ」は、平たんではあったがはっきりと口にした。

「僕が聞いたんだよ。今、何を書いたの?」

「NANI. NANI?」

 今度は抑揚を加えて、「それ」は言った。右手の指が、椅子を指していた。

「何って、椅子だよ」

「NANI?」

「それはコップだ」

「NANI?」

「僕のこと? 僕はスドア」

「SUDOA」

「そう、名前」

「NAMAE. SUDOA....ARエーアール

 「それ」はしばらく全く動かなかった。そして硝子の瞳を少し動かして、こう言った。

「わかりました」

「あわ、急にちゃんと喋った」

「言語体系、把握しました。私はペカリク。探索用ロボットです」

「?」

 スドアは、どれが名前でどれが種族なのかもよくわからなかった。

「ええと、ロボットさん? ペカリクさん? どこから来たんだ?」

「私は住める星を探しています。そして運よく見つけられたようです」

「星? 星に住めるの?」

「……知的生命体は存在しますが、文明は発達していないようですね」

 ペカリク、と名乗った者はそう言うと、きょろきょろとあたりを見回した。そして扉を見つけると、躊躇なく開けた。

「あっ」

 強い風が建物の中に飛び込んでた。すでに振り出していた雨も、勢いよく床を濡らした。

「知的生命体の多くは雨を好まぬのだった」

 そう言いながらペカリクはゆっくりと扉を閉めた。

「君はあまり物を知らないのか? 外はもう嵐だ」

「スドアよりは知っているようです。私は普通のロボットですから」

「だからロボットって、何なんだ」

「……この星の最先端は、どのぐらいなのだろう。早く探索をしなければいけません」

 ロボットはそう言うと再び扉を開けようとした。スドアは駆け寄って、後ろから羽交い絞めにした。

「やめてくれ。これ以上濡れたくない。それに、今はこの島を出るのは無理だ」

「ふむ、理由を聞きましょう。まずは、あなたたちのことから学べばいいですね」

 ペカリクは軽々とスドアを引き離し、床に座り込んだ。

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