第11話 追放されないように頑張ります4

「認める」


 短く一言だけ呟かれた。ヴォルバントさんの顔を見るが、まるで言葉を吐いていないというかのような仏頂面だ。


 彼は洞蜥蜴ケイヴリザードの尻尾を担いでいた。筋肉質な彼の腕は僕の倍以上あるが、尻尾はそのさらに倍以上あった。先端でこの太さ。あの怪物がどれだけ大物だったのかがこれだけでもわかる。討伐した証として冒険者ギルドまで持って行かなければいけないのだが、彼はなにも言わずに尻尾を切り落として担いでいた。重いに違いない。そう思って声を掛けたが「俺はなにもしてなかったからな」と言って拒まれてしまった。


「認めるってー? なーにーをー?」


 チェネルが猫のような目で間延びした疑問を飛ばした。からかっているようだ。


「ロッフェの実力だよ! わかんだろそれくらい」

「どうせなにもできなくて終わるだろうよ……ぶはっ!」


 堪えていた笑いを最後にはぶちまけた。グゼル洞窟に入る前に言っていたヴォルバントさんのセリフだ。チェネルが腹を抱えながら笑っている。引き笑いだ。本気でツボに入ったらしい。


「チェネル、やめないか。ヴォルがかわいそうだろう」

「だってー、ねえ?」


 そう言ってチェネルはまた今にも噴き出しそうな顔でこちらに視線を向けて来た。


「いや、僕は気にしてないから。それに、ヴォルバントさんの懸念はもっともだったよ。生命を第一に優先したらそうなるから」


 これに関しては庇い立てるつもりもなく素直にそう思っていた。


「寧ろどうしてユフィアは信じてくれたんですか? 僕のスキルはシンギュラースキル。前例がありません」


 スキルを発現するほとんどの人がリニエッジスキルと言う、自分の血統に由来する能力を身に着ける。けれど僕のそれは突然変異。前例がない。

 僕の疑問に、彼女は微笑みを返す。


「正直君のスキルは信用し切れなかったさ」

「じゃあなぜ?」

「わたしは君のスキルではなく、心を信用した」


 まだ会って数日しか経っていない。心を開くには少々早い気もするが。


「君は、自分の損得など顧みず、単身王都・クラントへ走っただろう。ヴォルに怒鳴られたり殴られたりしても反撃しなかったし、医者にバカにされても反駁はんばくしなかった。それはひとえに、なにを差し置いても人を救いたいという真心があったからだろうと思う。だからその、真心を信用したんだ。君がわたしのためにならないことなんて、絶対に言わないと」


 揺ぎ無い信念に満ちた赤い瞳に射抜かれた。

 正直、損得を考えなかったわけじゃあない。王都・クラントが機能しなくなればブレイス村も貧困に喘ぐことになるから。けれども、人を救いたい気持ちがあったのは本当だ。ユフィアは物事の本質を見抜く目を持っているようだった。

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