再会 2

 学生街の商店街。昔と変わらない。私の心はすっかりタイムスリップしていた。見知った顔と出会うと、気軽に挨拶を交わしたりと、学生時代の日常が蘇っていた。

 商店街の真ん中くらいに室井と会う約束の喫茶店クラウンがある。外観は昔と変わらない。私はドアを開け、中に入っていった。

「いらっしゃいませ。・・・あれ、もしかすると有寿ちゃん?」

 私の顔を見るなり、マスターが言った。

「どうしたの、メガネなんかかけて」

「えへへ、私って分かった?」

「当然だよ。しばらくだね。卒業して初めてだよね。元気だった? 今はどこにいるの」

「卒業して故郷の熊本に帰ったの。そこで弁護士やっていたの」

「そうだよね、法学部で勉強して、将来弁護士になるって言っていたよね。夢、叶えたんだ、おめでとう。東京は仕事で?」

「はい、今までは故郷の熊本の事務所でお世話になっていたけど、東京の事務所に来週からお世話になることになりました。それで今日、室井君とここで久しぶりに合おうということになったんです」

「そう。室井君も弁護士になって、東京の事務所にいるということで、今も時々来てくれるよ。ところで注文は昔と同じで良いの?」

「お願いします」

「マスターのコーヒー、美味しいから楽しみにしていました」

 オーダーを聞き、マスターはカウンターに行き、コーヒーを入れている。

 そこに学生服の集団がやってきた。襟の校章を見ると母校の学生だ。その雰囲気から応援団ということがすぐに分かった。

『昔と変わらないな。お客さんに迷惑をかけないといいけど・・・』

 私は心の中で思った。

 幹部と思しき一人が下級生に対して、床に正座する様に指示している。応援団だけあって大きな声だ。だから室内に大声が響き渡たる。学生街の喫茶店であっても来ているお客さんは普通の人もいる。雰囲気的に良くないことは明白だ。カウンターのマスターも眉をひそめている。他に数名の客がいるからだ。

 マスターがテーブルにコーヒーを持ってきた。

「有寿ちゃん、ごめんね。時々来ては同じような感じになっている。うちも客商売だから強いことは言えないけど、他のお客様もいるしね。ちょっと困っているんだ」

「分かった。もう少し様子を見ていて、度が過ぎると判断したら私が対応する。安心して。後輩が大切なこの店に迷惑をかけるなんて許せない。きちんとする」

「ありがとう。でも男ばかりだよ。大丈夫?」

「大丈夫。私、熊本ではオテンバ弁護士と呼ばれていたのよ」

「へえ、でも無理しないでね」

 私はそのグループの様子を見ていたが、リーダー風の男は威圧的な態度と言動でふんぞり返っている。

「お前ら、最近たるんでいる。ちょっとしたことで弱音を吐く。俺たちが1年生だった頃、そんなことは1度もなかった」

 後輩を威圧する時の定番のセリフだ。こういうことも伝統になっているのか、という気持ちになり、少し憂鬱になる。

 その様子を見ているカップルはとても嫌な顔をしている。おそらく楽しい話をしていただろうに、一気に悪い空気に包まれたからだ。

 2人はヒソヒソと話をし、残していたコーヒーを一気に飲み干し、早々に清算を済ませて帰っていった。その様子を見ていた私はこれは明らかに営業妨害と判断し、椅子から立ち上がろうとしていた。

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