オテンバ弁護士とガンコ刑事(デカ)
藤堂慎人
再会 1
私は高岡有寿。人は私をオテンバ弁護士と言うが、自分にはその自覚は無い。ただ、人を困らせる、害をなす者を許せない。もしかすると、それがそう呼ばれる理由かもしれない。しかし、それを見逃すことは私の正義感が許さないのだ。
東京の大学で法律を学び、弁護士になった。不法に不利益を被った人たちの味方になり、事件の解決に努めたい、今の私はそういう意識で依頼人に寄り添う一弁護士でありたいと思っている。
卒後、故郷の熊本に帰った。そこで刑事事件をよく扱っている大塚先生の事務所にお世話になった。私と同じく、弱者の味方でありたいという先生の考え方に共鳴し、現場で依頼人に対する寄り添い方を学んだ。もちろん、事務所の維持もあるので刑事事件だけでなく、民事の案件も担当した。それはそれで不要に搾取される弱い立場を守ったという自負もある。
結果的に刑事・民事を問わず、弁護士とは何かを現場を通じて学んだわけだ。
その私がまた東京に戻ってきた。
大塚先生から弁護士仲間の白井先生の手伝いができないかと頼まれ、再び東京の地を踏んだのだ。
まずは住まい探しだが、学生時代東京で暮らしたので土地勘はある。職場に近く、交通の便が良いところということで、三鷹に決めた。事務所は荻窪なので電車で3駅。学生時代好きだった吉祥寺にも近く、私にとって住環境として最適だ。
とりあえず生活できるだけの家具を揃え、一段落したところで学生時代の同級生、室井に電話した。
「もしもし、室井君? 高岡だけど覚えている?」
「当たり前だよ。仕事で上京したの?」
「違うよ、私、来週から東京の事務所で働くことになったの」
「確か故郷の熊本でイソ弁やっていると聞いたけど、オテンバが過ぎて首になったのか。相談してもらったら俺の事務所の先生に紹介したのに・・・」
「ありがとう、でも熊本でお世話になっていた大塚先生の紹介で白井先生の事務所にお世話になることになっているの」
「えっ、白井先生? 荻窪の?」
「知っているの?」
「もちろん。人権派の先生でこれまで冤罪事件をいろいろ解決している有名な弁護士だよ。東京の法曹界で先生を知らない人はいない。すごい先生のところに入ったな」
「そんなにすごい先生なんだ。知らなかった。懐かしい話も含めて、いろいろ話したいな。室井君、時間取れそう?」
「先日、抱えている案件が終わったので時間は作れる。明日でもいいよ」
「ありがとう。じゃあ、学生時代に通っていた喫茶店クラウンでも良いかな。私、あそこのマスターにはいろいろお世話になったので、挨拶もしたいし・・・」
「俺もそうだ。今も時々顔を出しているけど、2人で行くことはなかったからそうしよう」
そういう話になり、電話を切った。私は妙に心がウキウキしていた。まるで学生時代に戻ったような気持ちになっていたのだ。
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