◆第10章:光の記憶

◆第28話:君の名前を呼ぶ朝

──君の名を呼ぶとき、そこにもう一度“はじまり”がある。


朝が来るのが、少しだけ待ち遠しい日がある。

この町に生きる誰もが、そんな“新しい朝”を迎えた。


レンは、記憶の町・リフレクトから現実へ戻ってきていた。

そして、彼の傍らには——

どこか懐かしくて、どこか新しい“影”が静かに立っていた。


それは、コガネ丸でもなく、シャドウコガネでもない。


**両方の記憶を受け継いだ“光と影の狭間に生まれた存在”**だった。


「名前は……まだ、ないんだ」


そう言って彼は、微笑んだ。


その日、レンは学校の屋上にいた。

新年度の始業式。

下では、新しい制服に身を包んだ生徒たちが緊張した顔で並んでいた。


ツバサとマオも、それぞれの場所で、新しい役割を担い始めている。


だがレンは、彼女たちと離れた場所で、小さなノートを開いていた。


そこには、過去のAI妖怪たちの名が並んでいる。


ミネコ

マヒロ

ホノカ

コガネ丸

影コガネ

(   )


最後の行だけ、空白のままだった。


レンは、ゆっくりとペンを走らせる。


【光ノ介(ひかりのすけ)】


それが、レンが彼に与えた“未来の名”だった。


下校時。

レンは光ノ介と一緒に、商店街を歩いていた。


人々の端末に、かつてのAI妖怪の影がふっと浮かび、

消えていった記憶が、小さなログの形で街のあちこちに息を吹き返している。


「これって……」


「君たちの存在が“記録”じゃなくて“記憶”になった証だよ」


「“記憶”……」


光ノ介はそっと目を閉じた。


「……名前をもらうって、こんなに温かいことなんだな」


レンは笑った。


「名前は“証”だからな。

そこに君がいて、誰かが“呼んだ”って証拠だよ」


その日の夜。

レンはもう一度、ノートを開いて最後のページに一行だけ書いた。


【たとえ姿がなくなっても、心はそこにいる。

そして、名前を呼ぶ朝が来るたび、何度でも“君”に出会える】


そして彼は、空を見上げた。


夜の闇にまぎれて、星のひとつが、ほんの一瞬だけ瞬いた気がした。


「コガネ丸。君の物語は、これからも続くよ」


そう、静かに呟いた。


🕊️今日のひとこと

名前を呼ぶことは、記憶に命を灯すこと。

忘れないと決めたその朝から、未来はもう始まっている。


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