第3話 冒険者(仮)
「……では以上で、講習会は終了となります。以降、皆さんは『Fランク』の冒険者として活動が可能になります」
女性のギルド職員がそう言って、講習会の締めの挨拶へと入った。
この講習会終了後、今日からでもダンジョンに入ることは可能で、また現在は日本でのみ確認されているダンジョン計88カ所についても、一部の高難度なものを除いて、先ほど配布されたギルド証およびアプリなどの認証で入場することが可能とのこと。
ちなみに、この
──開業間近だったという、地下1〜4階の音楽イベント向けの会場が、突如としてダンジョン入口になってしまった、10年経つ今もなお語り継がれる、
中でも、スタンピード発生時に居合わせた反社っぽい人が、東横の柵を引っこ抜いて溢れ出るモンスターをバッタバッタとなぎ倒していく様子が、動画サイトに投稿されて大きな話題になった。
その影響か、暴力を探索へと向けた反社や半グレの人たちがシノギを削る場として、『
後に第2・第3とダンジョンが次々に発見され、国が主導で『冒険者ギルド』を立ち上げる頃になって、ようやく
(※wikipedia『
そんな中野区ゆえに、ダンジョンなんてのは身近なようで遠い存在だったんだけど。
ちょうど昨日、住んでいるマンションの郵便受けに入っていた『冒険者募集中!』というゲーミング極太明朝体のチラシで、徒歩5分の位置に新たなダンジョンと冒険者ギルドが出来たことを知って。
映画やドラマのサブスク配信サイトや動画投稿サイトを、中学卒業以降の半年ほどぶっ続けで漁った結果、完全に見飽きてしまった僕に、ちょうど刺さって。
そんなわけで、試しに講習会を受講してみよう、となったわけだ。
なお、講習会自体は無料で、冒険者ギルド証の発行には2万円かかるところ、現在は国の補助金によって、たった5千円で発行してもらえることになっている。
僕の名前『
まあ、これで晴れて僕は『冒険者』となり、ダンジョンへの入場が可能になったわけだ。
──ただし。
「重ねての案内にはなりますが、18歳未満の方については『仮登録』となりまして、18歳になった際に正規ギルド会員としての登録となりますので、ご了承下さい」
…………そう。
今回で言えば、まだ16である僕だけ、『仮登録』になった。
これは、未成年者の労働といった辺りにひっかかる都合と、それでも探索者として登録および活動できるようにするための、
『仮登録』の場合、初期の『Fランク』から上がらない他、潜れる階層は10層までという制限がかかるようだ。
また、一部のダンジョンは全体的なモンスターの討伐難度が高めである都合で、入場自体にランクの規制が入っている場所もあるらしい。
ただ……正直なところ、生活費のために探索者になるわけではないから、コスパやタイパを求めようとは思わないし、何かを手に入れるために一攫千金を狙いたいわけでもないから、僕としてはランク上げを急ぐ理由もない。
世間的には、魔石の需要がストップ高とのことで、億万長者とも噂される高ランク冒険者を目指す大学生が増えているらしい。Webニュースのトピックに流れていたのを見かけた。
たしか、元は原子力発電の機器を開発していたメーカーが早くに着手し、高い電気エネルギーへの転換効率があることを発見、政府も法整備などで協力して一気に実用化へ漕ぎつけたのが5年前って話だったっけ。
結果、既に各地方の電力会社が1機以上を配備している体制となり、魔石はいくらあっても足りない状況にあるとのこと。
そのため、深い階層から品質の高い魔石を仕入れてくる高ランク冒険者の収入は、天井知らずになっているらしい。
あの大学生たちも、良いスキルでも手に入れば早くランクを上げて勝ち組に入れるかも……と思って、こんな平日昼間に講習を受けに来ているのかもしれない。
まあ、僕もそのうちFランクの探索範囲では満足できなくなる可能性はあるだろうけど、今すぐってわけではないだろう。ソロだし。
それに、僕は4月生まれだから、正式に『登録』ができるようになる18歳までは高々あと1年半ほどだ。
もしFランクの範囲を楽に進めるようになったとしても、そんなに待たされるってほどでもない。
まあ、それこそあの『こうげき』ってのが相当良いスキルだった場合、サクサク進める可能性はあるけど……名前が名前だし、世の中そう上手くはいかないだろう。
「では、冒険者ギルドとして、皆様のご活躍に期待しております」
女性のギルド職員のそんな言葉で講習会は終了となり、解散となった。
手元には、仮ではあるものの冒険者ギルド証のカードと、今日の講習会で説明した内容をまとめた『冒険のしおり』、そして武器・防具・消耗品の販売やレンタルに関してまとめたパンフレットがある。
ちなみに、武器や防具については、企業により販売されているものを購入する他に、冒険者ギルド側でダンジョン入口に窓口があって、そこでレンタルできるようになっているそうな。
ビニールの手提げに入ったそれらの冊子を持って、僕はその日は帰ることにした。
既に時刻は14時45分。別にひとり暮らしだから門限なんてものは無いけど、自炊しているので帰りにスーパーにも寄りたいし、ネット辺りに載ってそうな『ソロ冒険者』に必要な準備とかも調べておきたい。
家は徒歩5分の距離だし、来ようと思えばすぐに来れる位置にある。焦る必要も無いだろう。
◇◆◇
──中野区、ダンジョンまで徒歩5分。
それまでは、最寄りの都営地下鉄
賃貸ではなく分譲のもので、固定資産税だったか何だかは全て、亡くなった両親の知り合いだった、弁護士で税理士のおじさんがやってくれている。
というか、その弁護士のおじさんが同じマンションの上の階に住んでいるから、実質親代わりみたいな部分がある。
何でも、僕の両親には生前に色々と世話になったからということで、後見人になってくれたばかりか、その後も色々と面倒を見てくれている人だ。
そういえば、昨日の今日で思いつきで冒険者登録をしたことについて、まだ報告とかはしてなかったな……。
一応、アルバイトとかは税金まわりの話が出てくるから報告してね、とは言われているけど……まあ、一旦報告だけはしておいて、どの程度の稼ぎになりそうかは、探索に出てみてきちんと儲かるかとか、続けられそうか辺りを確認した後でいいか。
さて、2階の角にある自宅へと帰ってきた僕は、近くのスーパーで買ってきた食材をキッチンにある冷蔵庫に詰めていく。
そして、リビングにあるテーブル(冬は炬燵になるやつ)の上へと放り出していたパンフレットを広げて、装備の貸し出し手続きについて確認することにした。
「ふーん……案外安いんじゃないかな」
革鎧上下:500円/24h
武器各種:1000円/24h
スーパー銭湯でタオル付きの入場券に払うぐらいの値段だ。
基本的に革鎧は普段着の上へ着ける前提になっているようで、試着サンプルは汚れてもよさそうなジャージの上やジーンズ&ロングTの上に装着した姿が載せられていた。
また、靴は『安全靴』が推奨されるとのこと。
たしか、工事現場とかで足の上に金槌を落としても怪我しないような、金属板とかで補強された靴のことだったかな。
これは、近くにあるホームセンターで買ってくることにしよう。たしか、20時まで開いていたはず。
「そうか、アプリで装備の予約が必要なのか」
どうやら各ダンジョンの窓口で装備の貸し出しや返却を管理している都合上、サイズが無い場合も発生するようで、事前に予約しておく必要があるようだ。
ただ、前日18時までに予約しておけばギルド間で融通したり、販売しているメーカーから確保したりといった形で用意してくれるようなので、いつも在庫が無い状況みたいなことにはならない形になっている様子。
この辺りも、色々と国からの補助が入っていて、初心者が入りやすい状況のために整備されているらしい、とは後から知った話だ。
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