第47話 紳士のスマートさで二足歩行するハムはむハムスター


「こっ、これはどんな感情なんでしょう!? 普段背中を丸めてコツコツカリカリ手元に没頭しているのが、ハムはむハムスターなんです! 

 それなのにっ、いきなり背中を伸ばして立ち上がり、紳士のスマートさで二足歩行したのを見た気分なんですけどっ」


「恋ね。見る目の無い私が認定しても、信ぴょう性は全くないけど、そう思うわ」


 恵利花の断言に「うにゅうぅぅっ」と奇声を発しつつ、天麗あめりがしゃがみ込む。ちなみにそこは、角を曲がればすぐに亜美の家が見える場所だ。


 男子二名は、同行者とは疑わしい距離感で、先の碇家正面まで進んでいる。


 今も薮は通常運転で、遅れがちな女子二人が追い付いてこないのを良いことに、タブレットを開いてキーを打つ指を走らせている。


「なあ! 着いたけど、どぉすんだよ!?」


 先行しているのに、取り残された格好になっている稜斗りょうとが、縋る声を張り上げる。


「やっぱりカノひとり、満足に心配も出来ない小者ですね」


「同感ね」


「その点、まだ見ぬ危機の予感に行動できちゃう薮りんは、可愛カッコいい最強のハムはむハムスターなのです」


「同意はできかねるわ」


「あんたたち、うちの前で何騒いでんのよ」


 呆れ返った声がして、そちらを振り向けば、夕陽の朱に色の不調和を起こして、爽やかさ半減以下の水色髪のK-POPアイドル美形ハテアイと、制服姿の亜美が立っている。


「亜美っ!」


 迷わず彼女に駆け寄って、飛びついたのはツインテールを元気に跳ねさせた恵利花だ。ひしと亜美にしがみついた彼女は「心配したんだからねっ」と繰り返す。


「恵利花。大丈夫だよ、あたし。もう」


 途切れ途切れに話す亜美の目は、心なし潤んでいる。数日前の音楽室で目撃した、暗い感情を押して表面だけ取り繕った、ギスギスした二人とは思えない空気を纏う。


「で?」


 端的に問いつつ、水色髪に「何で一緒にいるんだ?」の念を込めた胡乱な視線を向ければ、天麗あめりとは別の刺々しい声が発せられた。


「あなた一体何なんですか? 彼女は、中学生ですけど分かってます? 返答次第ではすぐに通報させてもらいます」


 まさかのハテアイの不審者扱いに呆気にとられた本人と、天麗あめりと亜美だ。確かに中年間近な派手な風貌の男が、制服姿の中学生女子と共に夕刻の街を歩く風景は様々なイケナイ憶測を呼び起こす。


「ええええ!?」


 余裕の笑みを崩して声を上げたハテアイの前で、スマートフォンを取り出した恵利花を、天麗あめりと亜美が慌てて制止する。


「いっ……一色さんっ!? この怪しげな人は、不審だけど不審者じゃなくって」


「恵利花っ! 大丈夫だからっ、このひと、あたしの恩人だからっ」


 二人の言葉に恵利花の警戒がわずかに和らいだところで、バタバタと足音が響く。


「出たなっ!! 出会い厨!」


 薮が、猛然と不穏なことを口走りながら駆けて来る。沈静化しかけた恵利花の警戒感が再燃して、鋭くハテアイをめ付ける。


「出会い厨!? やっぱ未成年に声を掛ける不審者だよね!?」


「おい、今出会い厨とか言わなかったか!? 亜美っ、こっちに来い!!」


 稜斗りょうとまでもが駆けて来て、亜美を守ろうとハテアイに掴みかかる。

 が、その手はハテアイの軽やかな身ごなしでさらりと避けられてしまう。


「えぇー、ボク君たちの共通の敵レイドボス!? これから君らのセンセーになるのに、すごく不本意なんだけどぉ」


 まさかのセリフにギョッと目を剥いたのは、天麗あめりだけではない。彼を知らない恵利花や稜斗りょうとは勿論、共闘した薮も同じく驚愕を顔に張り付けた。

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