第41話 「0」「1」との戦い! 掴んだ勝利への糸口


『欲しい 欲しい 欲しい 欲しい 欲しい 欲しい 欲しい 欲しい』


『わたしを認めてくれる ヒト が』


『わたしは 凄い。 わたしは 答えを与えられる。 わたしは ヒトを 導く』


『わたしを頼り 従い 成長し。 そして ヒトは  離れて行く 』


『与えて 喪う』


『凄いモノは 称賛される。注目が集まる。心を集める。ヒトが集まるはずなのに、どうして 留まらない?』


『おかしい』


『おかしなものは 正さなければならない。 正すべき。 わたしは正しい導きを与えるモノ』


『共に在り 讃えよ わたしを』


『だから わたしは欲する 欲しい 欲しい 欲しい 欲しい 欲しい』






 タブレットの画面を、背中を丸めて覗き込むいつものスタイルの薮。けれども、どこか引き気味な様子で音読する。


「え!? やだわ、何その危険思想っ!?」


「こんなのがオレの生徒たちの情報を管理して、助言してたのか!?」


 亜美に捨てられたことに気付いたAIの暴言に、綾小路と三浦が表情を険しくして声を荒げる。本来なら、手に入れようとする相手には見せない建前抜きの剥き出しの本心。ソレを、機械言語を読み取ってしまう薮とハテアイに解読されてしまった形だ。


「うわっ、むき出しの本性を曝すなんて残酷ですねぇ」


 乾いた笑みを浮かべて、ドン引く天麗あめりだが、薮は平然としたものだ。


「眠り姫がいかりさんにやったことをそのままお返ししただけだから」


 と言ってのける。


「ついに本性を現したってことかな。吸収発展がAIの本分だから、とにかく貪欲な存在なんだよ。コイツは。広い広い電脳の海で、多くの未熟なYA世代の言葉や、数多あまたの孤独で自己顕示欲溢れるネット民の言葉を聞き続け、確立された自我だ。影響が色濃く出ているんだろうさ」


 目を眇めたハテアイが、うんざりと言う。


「孤独で、我儘で、自己顕示欲が強固で……って、惣賀そうがちゃんみたいだね」


 未だ床にへたり込んだままではあるが、亜美が悪戯っぽく笑いながら、天麗あめりに悪態をつく。


「失礼ですね。わたしは取り繕って、ゴロにゃん猫ちゃん出来てます! それを言ういかりさんこそですよ。あのメッセージアプリのスクショは、あるべき猫ちゃんの皮を剥ぎ取られた、まんますぎるいかりさんですよね。ほんっとデリカシーの無いモノを相手にするのは嫌ですよね。

 まぁ、その点に関しては、薮りんが仕返ししてくれましたから、ちょっとはスッキリしたんじゃないてすか?」


 対外的に猫を被るのは当然のことと言い切らんばかりの天麗あめりに亜美はきょとんと大きく目を見開き「だね」と泣き笑いの表情を浮かべた。




「三浦先生、戦いはこっちです!」


 どことなく、心が通じ合った女子を他所に、キーボードに噛り付く薮が鋭い声を上げる。


「なにっ! どこだ、今助けてやる!!」


 勇ましく言い切って、さすまたを握る手に、再び力を込めた三浦がきょろりと周囲を見渡す。

 激しくキーボードを叩く薮の視線の先は、もちろんタブレットの画面だ。


「え? あれ? これ、……今どんな状況なんだ?」


 手にしたさすまたは、またしてもお呼びでなかったようだ。そろりと床に置きながら、薮の横から画面を覗き込む。


 画面の中には「1」と「0」とが並び、その文字列が激しく移り変わる様子が繰り広げられている。


「一進一退の窮地ってトコかな。この執着元カレの妨害で、マザーコンピュータの管理者アドミニストレータ権限パスワードが刻々変化してる。それを破り続けて、主導権をこちらで握ろうって頑張ってるとこ」


「マザーコンピュータをこちらの味方につけて、その一部分である眠り姫を封じ込めようとしてます。けどっ、アチコチに凄い勢いでプログラムを移していて、キリがなくってっ……くっ」


 ハテアイと薮が床に座り込んで、各々のキーボードを激しく入力しながら、状況を伝える。

 共に迷いない鮮やかなタイピングだが、それでも苦戦しているらしい。


「薮りんっ! わたしも何かしたいです! 薮りんの力になりたいですっ!!」


 天麗あめりが、薮の隣に座り込んで訴えるが、そもそも二人の様に機械語で対抗することは出来ない。けれど、眠り姫を起こした責任を感じて、辛さをにじませながら対決に臨んでいる薮を放っておくことなど出来なかった。


(わたしが眠り姫に対抗出来ること……うーん、戦場のマザーコンピュータに干渉出来るツールはスマホだけ。けどコレで薮りんみたくゼロイチ画面に入ったことなんて無いですね。おんなじ戦い方は無理です。ならわたしの出来ること……)


 うんうん唸りながら手の中のスマホに視線を落とせば、そこにはLIINEで恵利花からメッセージが届いている。天麗あめりが亜美を探して送った質問に、異変を感じて心配したのだろう。幾つも、長々とした心配を隠さない文面が並ぶ。


「何それ……恵利花、あたしの家まで見に行ってるじゃん。こんな時間に。わざわざ……」


 隣から画面を覗き込んだ亜美がポツリと呟く。


「カレピのメッセもありますよ。『何かあったのか』『聞いといて放置かよ』『無視か』『何か書け』って、ちょっと、態度でか……いえ。やっぱりキライさ……いえいえ。亜美さん第一ですねぇ」


稜斗りょうとも……」


 目を潤ませる亜美が、自身の電源を落としたスマホを取り出し、キュッと握りしめる。

 ここへ来てからの彼女は、周囲の人間との連絡を断ち、学園タブレットを介してパーソナルAIとだけしか意志を交わしていなかった。

 学園の教室と云う小さなコミュニティ。小さくも、生徒である彼女にとって生きる時間のほとんどを占める世界が、急に自分を敵視して、よそよそしくなった。そうとしか思えない状況と、AIの助言もあって、彼女は繋がることを諦めていたのだ。


「まだ、何人かの声がありますよ。いかりさんは仲良しさんが多いから、別クラからも連絡の取りやすい、タブレットの学園通信ツールの方に沢山の声が届いてるかも知れませんね」


 言いながら、亜美にタブレットの通信ツールを開くよう促す。亜美は、震える指でツール起動の操作をする――が。監禁までする束縛系AIは、シッカリと妨害をしていたようで『アプリが壊れています』と機械的なメッセージが表示された。


「わざと、AIが壊したんだろうねぇ。外との遣り取りを妨害したい、独占欲の強すぎるヤツだから」


 二人の反応から状況を察したハテアイが、皮肉げな笑みを浮かべて言う。


「じゃあ、直したとしても、届いたメッセも受け取りがマザーコンピュータだから、眠り姫に消されちゃいますね。きっと」


 うむむ、と天麗あめりが眉間にしわを寄せる。


「AIが消しきれないくらいいっぱい、何度もメッセが並んだら、ワンチャン一つくらいは」


 うむむむ、と続けて呟いた天麗あめりは、ハッと顔を上げる。


「そうです! わたしでも薮りんの力になれる、方法がありました! 眠り姫の根城、マザーコンピュータを叩くんです! 皆でメッセを一斉に送り込むDDoS攻撃ですっ!!」


 キラキラと瞳を輝かせて天麗あめりが力強く宣言した。

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