第35話 AI嫌いのハテアイさん
「眠り姫が動き続けてるんだ、今、
言いながらも、視線は慌ただしく動く機械言語を追い続けている。
「どこでですか!?」
「速すぎて……くっ、暗号化まで掛けてるな。くそ。時間さえあれば分かるはずなのに、追い付けないっ」
心底悔しそうな薮に、職員室でコンピュータに向かっている技術職員がぎょっとした目を向けている。時間をかけたとしても、そう読み取れるものではないのだ。薮の能力の高さを再確認した
「単語だけでも、ひとかけの文字でも読み取れませんかっ!? 薮りん!」
情報が足りない分は、足で稼ぐからと言いたげな
読めたところで、彼女に曖昧な情報を伝え、傷付けてしまう結果になってしまったらと考えると容易に言葉には出来ない。
薮は、苦悩と困惑に顔を歪ませつつ、
焦りと緊張に包まれ、ひたすら慌ただしく動き続ける職員室。
出入りする教職員の誰かによって、扉はすでに解放状態のまま固定されている。
学校周辺や構内を探し回る教職員は、ただ一人の女生徒を探して、その面影に該当する人物にのみ焦点を合わせている。
だからこそ、その人物が
「やほ」
タブレットの画面にのめり込む薮の背後で、柔らかに甘く通る声が響く。
「誰!?」
聞いた覚えのない声に、薮と
「にゅぁっ!? 不審者ですかっ!」
「先生、頼みます!!」
「きゃぁ! 三浦先生っ、お願いっ!!」
すかさず背後に回り込んだ
だが、威嚇の表情を見た青年はふわりと口元を
「へぇ、三浦? 先生になったのか」
「え?」
妙に親し気な口調に、三浦は記憶の中の声を探る。と、たったひとつ思い当たる声があるにはあったが、とんでもない違和感に三浦は困惑に大きく眉を歪める。
「お前、もしかして? え? けど、性別が、え?」
「多様性の時代だよ。衝撃の出来事から14年。強く生きようと足掻いた結果ってわけだ。んで、ネッ友のアメフラシアメリンのリアルクエストに参加しに来たんだけど。会場はここで合ってる、よね?」
声を裏返らせる三浦を置き去りに、青年は三浦の背後から様子を伺う面々に問いを向ける。意中の相手を探して次々に顔を見比べ――その視線がピタリと薮で静止した。
「え? は? 僕っ!?」
「え? 薮さん、アメフラシアメリンで、この方とお知り合いなの?」
困惑しきりの薮に、綾小路が疑問を向けるも答えなど出るはずもない。
「ちがいますぅぅぅ。うにゅぅ、アメフラシアメリンはわたしですっっ!!」
リアルの仲間や先生に、明かしていなかったハンドルネームを明かされた
「あは、意外。ボクと同じく、AIに拉致られそうな匂いのするコを選んだつもりだったんだけど。君だったんだ」
「どんなニオイですかっ!! わたしのAI大好きは折り紙付きですし、薮りんはハテアイさんにはちっとも似てませんからね!!!」
「あれー? そうなんだぁ」
ハテアイと呼ばれた青年は、悪びれる様子もなくカラカラと笑う。その名前を聞いた三浦が、再び戦慄きながら声を上げた。
「ハテアイ? HATEAI?!
「ちょっと、ボクの封印してる名前を、そんな大声で言わないでくれる?」
険のある声を出したハテアイが、整った面立ちの眉間に皺を寄せて三浦を睨むが、視線の先に居た彼は目を充血させて、ずずっと鼻水を啜り上げている。長年のわだかまりが解けて、無意識の涙がじんわりと浮かんでくるのだ。
「すまん、つい。けど元気だったんだな……よかった。みんな、田中さんは消息を絶ったってショック受けてたから」
「そりゃそうでしょ、あんな大々的な黒歴史刻んで平気でいられる方がおかしいし。AIに唆された内気で世間知らずな女子中学生・田中は、完全に姿を消したよ。ボクはボク。ハテアイだし、戸籍に乗ってる名前も今は田中 香じゃない」
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