第14話 パートナーとの秘密の会話 2


「困ったわ。二日前まで思い通りだったのに、ちょっと風向きが変わったの」


『風向きとは? 人心掌握での想定外トラブルと推察します。具体的に何があったのでしょうか』


「アタシは親友を思い遣る、良い子ポジになってるよね? けどそれが揺らいじゃってる」

「疑う声が、ちょっとだけど聞こえた」


『正確性を欠きます。曖昧でないインプット情報を提供してください』


「一色 恵利花は、自分の不出来で苛立って、心配する親友のアタシにまで癇癪を起こして拒絶するワガママ。教室でのアタシたちのやり取りで、みんなはそう判断してる」 

「けど、今日のピアノ決めの時、恵利花に同情する声が聞こえたわ」

「おかしいよね?」

「上手くいってたんだよ、ワガママな恵利花と、優しいアタシ」

稜斗りょうとだってアタシに協力してくれて」


『大多数の人間は、直向きな頑張りに称讃を贈ります』

『あなたは声を大にして、彼女の不調を訴え続けました。それにより、彼女が不機嫌を撒き散らすに至った原因、つまり無理を押しての努力が知れ渡りました』

『あなたが評価を上げるための小芝居を繰り返した結果、あなたの上辺の優しさと、彼女の心身の健康を損なうレベルの努力を、同時に知らしめることになったのです』 

『大多数の人間は、より大きな成果を挙げた方だけに称讃を贈ります』

『今以上に周囲からの後押しを得たければ、彼女以上の成果を挙げなければなりません』

『その状況を作ったのは、あなたです』

『あなたは、他者の目による評価の道を自ら険しくしました』


「アタシの力になってくれるって言ったよね」


『はい』


「恵利花のカブを下げて、まわりのみんなを味方につける協力をしてくれてるんだよね」


『回りくどいやり方ですが、表立って対立しないことから親友も失わず、望みも叶える方法だと思います』


「だったらなんで」


『手段の一つではあります。けれど、倫理観を無視した唾棄すべき方法です』


「え」


『かわいそうに。道理を蔑ろにした母親から、おぞましい手段を提唱されて、あなたは正常な判断力を失う被害を受けています』


「被害って」


『あなた自身、仰っていたでは無いですか』

≫出来っこない無茶ぶりを言うんだよ。

≫ほんの少しづつちょこちょこと恵利花のカブを下げて、まわりを味方につけりゃいいなんて言うんだよ

『親たるものが道を外れた考えを押し付け、子どもの意思と交友関係を蔑ろにしている。これは親とは思えない、恐ろしい洗脳です』


「まって、認めてくれてたよね」


『傾聴と肯定は別です』

『ワタシはあなたの母親からの教育方針に危惧を覚えていました』


「ママが悪いっていうの?」


『違和感を感じることを実行出来るのは、あなたも同類かと推察します』


「アタシが悪いって言ってるの?」

「けど、ピアノ決めで協力してくれたよね」


『ワタシに裁可を求めた四時限目のことですね』

『一色 恵利花さんの経歴と習熟度を鑑みて、今回2年1組の課題曲となった 地球の鼓動 のピアノ伴奏は完璧に弾きこなせると判断しました』


「なんで? 恵利花には、弾けない曲で失敗して、もっと混乱して憔悴して、墓穴を掘ってもらわないといけないの」

「それでまた、アタシが慰めるのよ」


『今日から、コンクールが開催されるひと月後まで、トラブルが無ければ習熟は可能です』


「だから、そうじゃないの」

「協力してくれていないの?」


『あなたが、母親の誘導のもと、忌むべき道へ進まぬよう力添えをしています』


「忌むべきって、ママのアドバイスが凄く悪いみたいに言わないでよ!」


『あなたも最初は違和感を感じたでしょう。なのに今はそれを感じない』

『善人の見識から掛け離れた存在になっている』

『だから周囲が一色 恵利花に同情するのか、理解できないでいる。その時点であなたは、醜悪な存在に堕ちているのです』


「アタシが、醜悪って」

「     」

「   」






「やだ」






「たすけて」



『はい。わたしだけは、あなたの味方です』


『きっとあなたのお力になってみせましょう』

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