第14話「刻まれる因子と、包丁のまなざし」

鳥のさえずりが響く森道を、三人の旅人と一頭の荷馬がゆったりと進んでいた。

旅の初日とは思えない穏やかな朝。だが、その空気の中で、莉子の疑問が口を突いた。


「アレン。さっきの、解体……スキルって言ってたよね?」


アレンがくるりとナイフを指先で回して、にやっと笑った。


「そう。“解体補助”。筋に沿って刃が滑る。肉に抵抗がなくなるんだ。狩猟者向けのスキルってやつだな」


「じゃあ、それって魔法……なの?」


「魔法とは違うな。魔法は“マギ”っていうエネルギーを操作して現象を起こす技術だ。スキルは、使う人間の中にある“因子”ってのが、条件を満たすと能力化するもんだ」


ティナが荷車の脇から顔を出す。


「ちなみに私も持ってるよ。“気配抑制”っていう、隠れるやつ」


「すごい……」


「最初はね、何かうまくいった気がするなーってだけだった。で、“それ、スキルだよ”って教えてもらってから、ちゃんと使えるようになったの」


アレンが補足する。


「スキルってのは最初、自覚ないまま使ってることが多い。体が“あれ? なんかうまくいくな?”って感じたら、そろそろ“因子”が定着しかけてる証拠だ」


莉子は少し黙って、包丁を見た。


「……もしかして、私も」


アレンが横目で彼女を見やる。


「大会のとき、包丁が光ったよな。“刃が迷わなかった”って言ってた。あれ、多分スキルの片鱗だ」


「え、でも私……スキル持ってるなんて聞いたこともないし……」


アレンは小さくため息をついて、やれやれといった表情を見せた。


「……マギの取り込みなんて、初等マギ理論の範囲だぞ……。やっぱり、ずいぶん田舎の出なんだな……」


「うっ……」


莉子は少しむっとしながらも、内心で考える。


(でも……私の周りに“マギ”なんて言葉、なかったし……やっぱり、そういうのに縁がなかっただけ、なんだよね)


けれど――


(最初から、うっすら使えてたスキル。普通は因子が刻まれてからじゃないと無理って言ってた……)


(もしかして私の体、ちょっと変わってるのかな……異世界人の血、とか……。おばあちゃんも、もしかしたら――)


その時、莉子の手の中の包丁が――かすかに震えた。


その頃、遠く離れた山中の屋敷で、老女が一つの鞘に手をかざしていた。


「……この反応。あの子の包丁……まさか」


弥栄の瞳がわずかに潤む。

包丁が、何かを伝えようとしていた。

その震えは、まぎれもなく“会話”の兆し。


(もっと、助けたい。あの子を――)


「……そう、あなたの想い……受け取ったわ」


彼女は手を組み、霊視を深め、魔力を編み上げた。


「これが、最後のひとつ。私のスキル因子、あなたへ」


魔術回路が鞘に灯る。

弥栄の残した“調理器具ボックス”――

調理器具を異次元空間に保管するスキルの因子が、包丁へと送られた。


刹那、莉子の包丁が眩く輝いた。


「っ!? な、何……!?」


強い光が収まり、莉子の視界に――文字が浮かび上がる。


【使用可能スキル】

・包丁技術補助(熟練度:Lv3)

・刃圧均一化(熟練度:Lv2)

・調理器具ボックス(熟練度:Lv1)

【現在マギ量:3/12】

【加護:包丁】


「っ……画面!? ステータス……これ……え、えぇっ!?」


あたふたと動揺する莉子に、アレンがポンと肩を叩いた。


「お前、やっと“スキル表示”出たか。これでスタートラインだな」


ティナがにっこり笑う。


「うん、普通のことだよ? 冒険者はみんな見えてるもん」


「…………普通のことなの!?」


莉子は天を仰いだ。


「なんか……ほんとに、ゲームみたい……」


日が傾き、焚き火の明かりが草原を照らす頃。

三人は食事を済ませた後、焚き火を囲んでいた。


莉子は、包丁を膝にのせながら、そっと切り出す。


「ねえ、アレン……この“調理器具ボックス”って、どんなスキルなの?」


アレンは干し肉をかじりながら、軽く眉を上げた。


「ボックス系? ……おいおいマジか、それって……ドラゴン級のレアスキルだぞ。

普通は王族の専用道具とか、職人ギルドの秘匿技能にしか使えないレベルだ」


「ど、ドラゴン級!?」


ティナも目を見開いて息を呑む。


「ボックス系スキルってのは、“空間操作”の最上位にあたるスキル群の総称なんだ。

ただの“収納”じゃなくて、物体の属性や用途を判定して、選別・保存するような精密制御が必要なんだよ」


「で、でも私、ただ道具を入れられただけで……」


アレンが頷いた。


「そりゃ最初はそうだ。でも“調理器具”限定って時点で、分類系の因子が働いてる。

しかもさっき、包丁だけは反応しなかったろ?」


莉子は小さく頷いた。


「試したんだけど、包丁は……入らなかった」


「そりゃそうだ。お前の包丁は――たぶん、“スキルの発動者”側なんだよ」


莉子は思わず包丁を見下ろす。


「つまり……この包丁が、ボックスのスキル自体を支えてるってこと?」


「可能性は高いな。スキル因子を包丁が保有してて、お前を媒介にして発動してる……って構図だと考えりゃ、辻褄が合う」


ティナが鞄をがさがさと漁り、小鍋とお玉を差し出す。


「じゃあ、これで試してみる?」


「うん、ありがとう。……“調理器具ボックス”、収納」


莉子が静かに呼びかけると、二つの道具が淡く光を放ち、そのままふっと消えた。


「……入った……!」


「うわ、本当に!?」


莉子は驚きつつも、なんだかじんわりと心が温かくなるのを感じた。


(おばあちゃん、ありがとう。包丁さんも、ありがとう。私、ちゃんと……使いこなしてみせるね)


焚き火の向こうで、包丁が静かに光を返した。



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ここまでお読みくださりありがとうございます。

アイテムボックスっていいですよね!

「調理器具」とは何か・・・?

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