パート2: 走馬灯と『天野 恵』の人生
ベッドの上で呆然としていた、その時だった。
ズキンッ!!
突然、ハンマーで殴られたみたいな激しい頭痛が襲ってきた。
「いっ……!?」
思わず頭を押さえる。
ガンガンと脈打つような痛みがこめかみを締め付ける。
同時に、目の前にチカチカと光が点滅し始めた。
(なに……? なんなの、これ……?)
目をぎゅっと瞑ると、脳裏に断片的な映像が次々と流れ込んできた。
知らない場所、知らない人々……いや、違う。
(知ってる……? この風景……この人たち……)
古びたアパート。商店街。学校の教室。会社のオフィス。
困っているおばあさんの荷物を持ってあげている自分。
雨の中、捨て猫を拾って動物病院に連れて行く自分。
少ない給料の中から、毎月欠かさず寄付をしていた自分。
休日に、地域の清掃ボランティアに参加している自分。
(あ……そうだ……思い出した……)
涙が、ぽろぽろと零れ落ちた。
痛みとは違う、別の感情が込み上げてくる。
(私は……『天野 恵(あまの めぐみ)』……!)
そうだ、それが私の名前。
三十年間、そう生きてきた。
特別裕福でもなく、特別美人でもなく、どこにでもいる普通の会社員。
ただ、昔から困っている人を見ると放っておけなくて。
お人好しだ、偽善者だって言われることもあったけど、それでも、誰かの役に立てるならって、ずっと……。
(そうだ……あの時も……)
最後の記憶が、鮮明に蘇る。
雨の日だった。
横断歩道を渡ろうとした時、小さな女の子が道路に飛び出すのが見えた。
危ない、と思った瞬間、体が勝手に動いていた。
女の子を突き飛ばして……。
(ドンッ、という衝撃音。ブレーキの軋む音。人々の悲鳴……)
そこで、私の記憶は途切れている。
(……そうか。私、死んだんだ……)
女の子をかばって、車に轢かれて。
それが、天野 恵の最期。
呆然と、天井を見上げる。
さっきまでの豪華な飾りが、今はただの模様にしか見えない。
(死んだはずの私が、なんで生きてるの? しかも、こんな……『セシル』とかいう知らない女の子の体で……?)
転生?
まさか、そんな……。
小説や漫画の中だけの話だと思ってた。
信じられない。
でも、この状況を説明するには、それしか考えられない。
(じゃあ、なんで? なんで私が転生なんて……?)
神様とか、そういう存在がいるの?
私が何かした?
……いや、心当たりがあるとしたら、あの善行の数々?
でも、見返りを求めてやったことなんて、一度もなかったはずだ。
(わかんない……何も……)
ただ、一つだけ確かなこと。
私は天野 恵として死に、今はセシルという誰かとして、この見知らぬ世界で生きている。
その事実だけが、重くのしかかっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます