第40話 優秀では?


「出来ました!」


「出来たねぇ。というかスキャナーする時に内容もチラッと見えたけど、難しいことしか書いてなかったね」


「うん、でも論文って難しく書くのがマナーだから仕方ないんでしょ?AIさんにはわかりやすく説明してもらいたいんだよね」


「それ篠崎さんが言ってたの?」


「ううん、お母さん」


「なるほど…」


 母は良く言えばおおらかな人なのである。

 でなければ父と結婚してられないと思うんだよね。あと俺みたいな子供にニコニコ出来んやろ。


 大人達を振り回してる自覚ならある!


「じゃあこのUSBメモリーを持っていこうか」


 ……………待て?


「高橋さん、管理課の課長さんに渡して持って行ってもらお?それか局長さんに渡して……」


「頼くん?」


「高橋さん、AIさんはね?システム課に居るんだよ?」


「うん、そうだね?」


「システム課にはね、お父さんも居るんだよ?」


「えーと、そうだろうね?」


「お父さんはシステム課の主任でしょ?上司が子供にデレデレべそべそしてるの見たい?」


「見たくは、無いね」


「だよね!」


「ちょっと待っててね、確認してくる」


 俺の言いたいことを理解してくれたようで、高橋さんは管理課に行った。

 父に会いたくないとかそういうのでは無いのだ、これは父に憧れる部下の人の心を守るための措置なのだ。


「ただいま、担世主任は学者達に主任の作成物の構造なんかの説明のために出てるから居ないって……というよりここ数日は向こうに寝泊まりする予定だったのに家に帰るってきかなくて毎日外出してるらしいよ」


 それを聞いて思い出した。確かにそんなことを言っていた。


「それさぁ「組織が僕らを引き裂こうとしてくるけど頑張って戦ったんだ!ついに僕の愛が勝った!」とか言ってたやつかな?」


「わからないけど、それっぽいね」


 高橋さん、苦笑いじゃなくてドン引きして良いよ?家では「うんうん」「そっかー」で流してるけど、自分の父でなければ引いてるもん。


「じゃあシステム課に行こう!」


 何気に初めて管理課以外に行くんじゃないか?システム課ってパソコンがいっぱいあるイメージだけど、父が台車やドローンを作ってたらしいので謎なのだ。


 高橋さんに案内されて、廊下を歩いたりエレベーターに乗ったり廊下を歩いたりしてシステム課に着いた。

 全く一人で辿り着ける気がしませんね!高橋さんが居なければ確実に迷子になる気がする!


 俺、ゲームだと道に迷わないけど現実だと少し迷うタイプなんだよね、ダンジョンは大丈夫かなぁ?


「失礼します、連絡してた管理課の高橋です」


「あ、はーい。聞いてますよーどうぞどうぞ」


 システム課の入り口で高橋さんが声をかけ、許可が出たので中に入る。


「なんか刑事ドラマで出てくるサイバー犯罪対策課のオフィスみたいだね」


 少し薄暗い室内ではあるが、オフィス感はある。

 普通に考えればサーバーがオフィス内にドーンと置いてあるわけがなかったのだ。


「わぁ!これが噂の主任ジュニア!私はシステム課の鈴木です!よろしくね!」


 凄い!陽キャ女子だ!

 作って明るく挨拶ってわけじゃない、凄く自然体な陽キャだ!これは負けてられないぞ!?


「こんにちは!担世頼だよ!」


「うんうん、元気で良き!話は聞いてるよー、AIちゃんに会いたいんだよね?奥の方に居るからおいでー!」


 ……こんな普通に会わせてもらって良いのだろうか?と疑問に思いつつも、俺に不都合は無いので鈴木さんの案内について行く。


部屋の奥の壁に取り付けられた大きなモニターの前にあるパソコン一式……というかここ父のデスクでは?俺と母の写真がめっちゃあるんだけど?


『こんにちは、皆様』


「やっほーAIちゃん!この爽やかさんが高橋くんでチビッ子が担世ジュニアだよ!」


『紹介ありがとうございます。もう何処かへ行っていただいて構いませんよ鈴木』


「ひゃっはー相変わらず辛辣!担世主任が作ったとは思えねぇぜ!まぁ仕事もあるからバイバイするけどねー」


 あとはAIちゃんとお話してね!と鈴木さんは自分のデスクに行ってしまった。


『改めまして、システム管理兼担世春のお世話係AI、名前は未だ無いでございます』


「あ、管理課担世頼くん担当の高橋と申します。担世主任がどこまで話をしているかわかりませんが、今日本は大変な計画が進行中でして……」


『はい。実はシステム管理AIとして計画は知っています』


「あのね、論文系についてお父さんが既に実用化してるのも知ってるよね?」


『はい。担世主任に説明は難しいと局長に進言しました。それでも居ないよりはマシだと外出しています』


「それ!データ化したからAIさんが理解して皆に説明してくれないかな?」


『はい。担世主任よりはAIの方がマシです』


 了承をもらったので、USBメモリーをAIさんが指示するパソコンに挿し込み、AIさんが自分でパソコンを操作してインストールを始めた。


『インストール終了、解析に入ります』


 解析中の文字が現れ、その背後で俺の家族写真がスライドショーされる。


「やめて!?」


「うわぁ…」


『解析は中止でしょうか?』


「違うよ!スライドショーやめてって言ってるの!」


『承知しました』


 AIさんは父より話がわかるやつなのでスライドショーはやめてくれた。

 その代わりに動物の写真がスライドショーされてる。


「家族写真はわかるけど動物の写真のスライドショーまで作ったのかな?」


『こちらは私が作成しました。AIの画像として動物を使うことを推薦しましたが担世主任に却下されたのでこっそりです』


「良いと思う!家族写真のスライドショーよりは動物写真のスライドショーの方が好き!」


『担世頼を担世春の上位に設定しました。上位存在の好みに合わせて動物写真からの変更を却下します』


「AIが勝手に選り好みしてる」


『高橋さん、AIに好きや嫌いといった感情はありません』


「えぇ?本当に担世主任って何を作ったの?これAIじゃないよね?」


 父の作るものに疑問を持っても無駄なんだよ?


『解析終了しました。担世主任よりわかりやすく説明出来る自信しかありませんので、担世主任のスマホから説明しておきます。貴重なデータをありがとうございました』


「あ、はい。」


「日本の未来はAIさんにかかってるよ!頑張ってね!」


 因みに、取り込み終わったらUSBメモリーは消えてなくなるので、俺たちはそのままシステム課から管理課に戻った。

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