第20話
「ねえ、嘘よね?嘘でしょ?……嘘だと言って!!」
「……」
こんなの、あるはずがない。
「どうして、隠していたの?」
この死は、病気じゃない。呪いだ。
それに、五感が、失われるなんて。
死ぬにしても、ただ死ぬだけじゃないんだ。苦痛に耐えていかなければならないなんて。
「ねぇ、どういうこと……」
そこで、セシルの背後にある書類を見つける。
「婚約者……?」
婚約者を探す書類?なのだろうか。いつのものか知らないが、つまり……。
「セシル、黙ってないで何か言って」
「……」
彼はずっとだんまりだ。私が問い詰めてから、ずっと。
「私は、そんなに信用ならないの、?私は私のことすら知ってはいけないの?」
そんなわけがない。どうして、他人の方が私のことを知っているのか。私の認識は、「余命わずか」という時点で止まっているのに。
「それに、私のことを婚約者として認めたくないってこと…?」
「え…?」
「後ろの、書類。それ、婚約者探しの書類でしょう?」
「これは……」
彼は焦っている。ここにあるということは、少なくとも「
「……そうよね」
だって彼は、私を愛していないもの。婚約者として認めたくないほどにーー。
「違う。聞いてくれ。これは、ラズールの婚約者探しだ」
「…え?」
「誤解だ……」
ラズールの……?
大きな勘違い。恥晒しもいいところだ。思わず顔を赤くする。
けれど……。
「じゃあ、この書類は、?」
私の余命、呪いについて書かれた書類。
「それは、」
「なんで言ってくれないの?覚悟もせずに…私、」
涙が溢れてくる。なんで、言ってくれないのか。なにも知らないまま私は私の五感の五分の二を失った。
けれど、彼は知っていた。
「…言ったら、君が悲しむと思った」
「え…?」
「笑顔のないルアなんて、見てられない」
意味がわからなかった。
「ねえセシル」
「……」
「私、嗅覚も失ったのよ」
◇
ずっとずっと、疑問に思っていた。
味覚がなくなったと言ったときに、なぜ彼はあんなにも取り乱したのか。医者にも見せず、ただ焦っていた。
今思えば、最初から五感を失うことなど当に知っていたのだろう。
もうわけがわからない。
あと二ヶ月を、乗り切れるわけもない。
そのままそこで私は深い眠りについた。
◇
次の朝、私たちはすぐに会ってしまった。
「…えっと、その」
セシルは気まずそうに言う。
「昨日は……いや、今まで、ずっと黙っていてすまなかった」
「…いえ、私も取り乱してすみませんでした……」
思えば、彼は彼なりに、私のことを思ってくれていた。傷つけたくない、悲しませたくないと、そう思ったから、私に言わなかっただけだ。
信用とか、そういった話ではない。
「ごめんなさい」
「いや、こちらこそすまない」
一旦仲直りしたところで、彼は一度私の身体を見た。味覚を失って、異常に食べることを恐れて食べなくなり、痩せ細った私を。
「…ごめん」
悲しそうな謝罪とともに、彼は仕事へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます