第1話 翠嵐のお姫様
由緒正しき私立
多くの著名人を輩出する、言わずと知れた超名門。
煉瓦造りの屏に囲まれた、時の流れを感じさせつつも瀟洒な建築。
そこは百年を超える歴史と、目を剥く入学金とほぼ必須の寄付金により、選ばれし金持ちの子女ばかりが通うエリート達の学舎である。
生徒の親、そして多くのOBの寄付金により美しく舗装された石畳の上を颯爽と歩く女子生徒が一人。
その姿に上級生すら足を止め、無意識に道を譲って行く。
この学校には姫がいた。
「はぁ……美しすぎる」
「俺……ちょっと話しかけてみようかな」
「やめとけって。ほら、三年の吉村先輩いたじゃん。去年の生徒会長でサッカー部のエースのイケメン。あの人も振られたってさ」
「男嫌いなのかな?」
「シャンプーどこの使ってるんだろ?」
「いつも良い匂いするよね」
「あれだけ美人でしかも特待生とか神様は不公平だよぉ」
男子からも女子からも羨望を集めるその名を、
緊張しながら声をかける男子生徒が一名。
「姫宮さん! ……あの、おは、おはようございます!!」
緊張からか顔が真っ赤だ。
それに、さらりと上品な笑顔で姫君が返答する。
「おはようございます」
澄んだ声にその場にいる全員の胸がときめき、思わず背筋を伸ばす。
「「「おはようございます! 姫宮さん!」」」
周囲の挨拶に軽く会釈だけして颯爽と歩いていく。
サラサラの淡い亜麻色の長い髪に、腰付きはほっそりとしながらも女性らしい豊かな曲線もあるスタイル。
人の美を突き詰めたその姿に誰もがため息を吐いて見惚れる。
彼女に容易く近づく男子はいないし、女子も近寄りがたさを感じてソワソワとするばかりだ。
入学したての頃は、それでも声を掛けて一縷の望みと共に告白するものも多かった。無論その全てが玉砕している。
今では遠目に手に届かぬ存在と皆が皆決め込んでいる。
学年一位の学力と、学校一の美貌を前にたじろいでいるのもあるが、彼女は誰にでも優しい代わりに周囲と少し距離を置いているところがある。
そんな彼女に声をかける
長めの前髪を掻き上げながら玲央奈に白いレース布を差し出す様子は似合ってはいるが、無駄にキザで癪に触る。
実際に舌打ちをする生徒までいた。
「おい! いや、あの……姫宮さん。ハンカチ落としたよ」
「ありがとう存じます」
玲央奈は丁寧に深々と頭を下げた。動きに合わせてサラサラと絹糸のような柔らかな髪が陽光に溶け合いながら流れる。
翠嵐の姫に声を掛けた男は、ネクタイの色からもわかるように玲央奈と同じ一年生。
「けっ……金持ちのボンボンが調子に乗ってやがる」
「裏口入学したって聞いたけど本当かな」
「マジだよ。ウラグチって呼ばれてるの聞いたし」
「てか、アイツ何て名前なの?」
「姫宮さんはクラス委員だから放っておけないんだって」
「……女の敵だな」
「くそっ……何でアイツばっかり」
衆目を集めているのは、この金持ちの多い学校でも一、二を争う資産家の息子。
顔立ちはどちらかと言えばそこそこ良い方だ。しかし、いかんせん目付きが悪く、性格に難がありそうに見える。
この男が血筋的な面も含めて、家督を継ぐ事を許されていない事が名前からも広く生徒達には知られている。
家の金にモノを言わせた身の程知らず。それが学校における彼の評価であった。
彼女に近づく男に家を盾に圧力を掛けているという噂もあり、評判は芳しくない。
周りを飛び交う流言飛語のヒソヒソ声の数々に
(普通に聞こえてるっつーの)
朝から言い争うのも面倒なので、悠里は心の中で毒付くに留める。
「どこにありました?」
「車の中に落ちてた」
「本当にありがとうございます、
美空の小声に悠里はゲンナリとしながら小声で返す。
「頼むから学校でまでご主人様はやめてくれ……」
「はい。浦口くん」
浦口悠里。
『裏口入学くん』の異名を持つ、特待生クラスの劣等生。
(名前が悪いよ、名前が)
そして、翠嵐高校の姫こと姫宮美空の
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