しっかりしてくれメイド様! 〜隣の席の美少女は我が家でメイドをやっている。
ありあんと
プロローグ 我が家のメイド様
ガチャン! ザッザッザッ!
ガサツな人が部屋に侵入して来た音がする。
ジャッ! とカーテンが勢いよく開けられる。
朝の白い陽光が清々しく網膜を刺激し、悠里の瞼越しにも覚醒を促す。
それから逃れるように布団の中に潜り込み、
「ゆうくん……じゃなかった! 起きてくださいご主人様!」
布団を引っ剥がされるのを間一髪で阻止! 掛け布団をガッチリ握り、隙間からチラリと時計を確認。
(何で5時台に起こそうとするんだ。6時半起きでも間に合うんだから寝かせといてくれ……)
「ご主人様起きてください!」
この
悠里とメイドの一騎打ち。なぜ掛け布団を朝っぱらから引っ張り合わないといけないのか? もう深く考えるのはやめよう。
(戦いは俺が有利。女相手に負けられるか! 流石に握力は男の俺の方が上だ! …………くそっ! それにしたって馬鹿力だな!?)
――――ビリビリビリビリ
「あ!」
「きゃっ!」
毎朝の攻防にいち早く音を上げたのは、掛け布団だった。
中の羽毛が部屋中に舞い散り、ふわりふわりと雪より優しく降ってくる。
同時にポンコツメイドがドスンと尻餅を付いた。
「大丈夫か?」
「お尻いたーい」
手を伸ばすとガシッとしっかり掴んできた。
窓からの光の中、静かに舞い落ちる真っ白な羽根が部屋を夢のように揺蕩う。
そんな状況だからだろうか。ニコリと無邪気に笑う駄メイドが一瞬天使の様に見えた。
(――見た目だけは完璧だよな)
色素の薄い亜麻色の髪と鮮やかでパチリと大きな明るい色の瞳。
通った
黒い清楚さと実用性を兼ね備えたロングスカートのメイド服に、白い肌が良く映える。
その綺麗な鼻がピクピクと動いた。
「ぶぇ……くちょん!」
「なんつー盛大なくしゃみだよ……」
悠里の顔に大量の唾が飛んだ。
これである。見た目は良いのに――いや、見た目以外はコイツは実際こんな奴なんだと、悠里は毎日思い知らされている。
「あらあらご主人様、お顔拭きますね」
「誰のせいだと……いや、強いな!? そんな力いっぱい拭く奴がいるかよ! イテテ!」
「よし! 目が覚めたなら身支度しますよ! ほーら、脱いでください」
「やめろ! いやー! セクハラ反対! 出ていけ!」
「ダメです! 私はご主人様専属メイドなんですから!」
チビメイドにグイグイと引っ張られて朝食をとる。
テーブルに着くのは悠里一人。
両親は今イギリスにいるが、生活費はたんまりあり、使用人も多くいるので何も困らない。
一人での食事だが、メイドに見張られてるので寂しくはない。
一緒に食べればいいのにと思うが、そこは一線を引かれている。寂しいが、かつての自分も同じだったから仕方がない。
こんな事になると分かっていれば、美空
一抹の寂しさを
「このぐちゃっとした卵の料理らしき物体は何かな?」
どこか得意そうな顔でそばに控える美空に聞いてみる。
いつも通りのプロの仕事に異物が混じっている。
駄メイドは恭しく
「ご主人様、それは目玉焼きと庶民が呼ぶものでございます」
「いや、庶民も
コンマ一秒で否定しておいた。
黄身が潰れて
(まさかこれを一刻も早く食べさせたくていつもより早く起こしたというのか?)
メイドの身勝手に悠里は
「だいたい俺も元々庶民だったんだ。……別に今も庶民じゃないとは言わないけどな。ご主人様とか呼ばれるの嫌なくらいだし」
「何がご不満なんですか? ではおぼっちゃまはいかがですか?」
「ご主人様だと俺が変な趣味の持ち主と思われそうでなぁ。でもお坊ちゃまよりはまだマシか?
いや、待て。普通に昔と同じで良いよ。ゆうくんで」
「いえ、そう言うわけにはいきません。ご主人様は路頭に迷いかけた私を救ってくれた恩人なのですから」
玲央奈はキリッとした目で見つめて来た。
「恩人は言い過ぎだけどな」
(幼馴染なんだし助けようと思うのは当たり前だし)
こう言うやりとりはもう何度目かわからない。諦めて目玉焼き? をいただく事にしよう。
「お味はどうですか?」
「キラキラと輝く宝石の様な目を俺に向けるな。その目はしっかりとこの新種の卵料理にも向けろ。何故これを失敗と認識できない?」
「私の目にはご主人様しか映りません」
(真顔でよく言えるよ)
幼馴染のメイドは天然すぎて、こうやって他の男が聞いたら勘違いしそうなことをよく言う。
中学三年生のある日、両親に置いていかれ広い屋敷の中で魂の無い人形のように呆然としていた彼女は、今やこの通り。
すっかり元気だ。元気すぎるくらいに。
(普通に焦げてて苦いよ。俺は目玉焼きは半熟派だし。でも……)
心の中で悠里は文句を言が、
「美味しいよ」
美空は嬉しそうに花が綻ぶ笑みを浮かべる。透けるような白い頬はすぐに血色が良くなり薔薇色に染まった。
幼い少女のように無邪気で天使の様に無垢そのもの。
(こんな顔する女の子に不味いとか言えるはずがないんだよな。さて、お口直しにちゃんと我が家の専属料理人が作った食事を食べますか。サラダうめー)
ふと、ニコニコとこちらをみているご機嫌なメイドの頭を見て手招きする。
「お嬢……いや、美空」
「なんですか、ご主人様?」
「ちょっとこっち来てくれ。よし、屈め」
そっと髪に刺さっていた白い羽根をとってやる。
「ありがとうございます、ご主人様」
「どういたしまして」
(ほったらかしておくと学校にも頭に羽つけて行きかねないんだもんな。
やれやれ、本当に世話の焼ける駄メイドだな)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます