第9話 バイク
夜の道をバイクでひた走る。
転移場所の候補に挙がったのは山奥と夜の港だ。
今回は自宅から割と近場にあった、夜の港を試そうと思う。
港の周囲には明かりは一切ないので万が一人がいたとしても視認されづらいと考えた。
20分程で目的の場所である大型の港に到着する。
静かだな、波の音しかしない。
辺りも予想通り、真っ暗だ。
人の気配もない。
ここならいけそうだ。
エンジンをふかし、すぐに発進できる体勢で黒渦を発生させる。
最早お馴染みとなった感覚を経由し、視界に異世界の景色が広がる。
よし、バイクに乗ったままだ。
成功だ!
辺りを見回すが、昨日放り込んでいた筈の小鬼の死体が見えない。
仲間に持ち去られたのか?
いずれにせよ、この場から速やかに離脱すべきだ。
実を言うとオフロードでのバイクの運転経験はない。
加速し過ぎないよう、アクセルを慎重に回す。
うぉっ。
時速30キロでもかなりの振動がする。
だが慣れればもう少し加速できそうだ。
車体を抑えつけ、徐々に加速していく。
「グギャアァ!」
岩場から小鬼が出てくるが、当然のことながらこちらの方が早い。
あっさり小鬼の横を抜き去る。
小鬼が飛び出してきそうな岩場から距離を取りつつ、荒野を疾走する。
ミラーで後方を確認すると、小鬼共がわらわらと追い掛けてきていた。
10体以上はいそうだ。
この地帯は、小鬼の巣なのか?
周辺から次から次へと現れてくる。
バイクの出す音が大きいせいもあるのだろう。
相当な注意を惹いてしまっている。
まぁ、どれだけいようがこの速度には付いてこれないようだし、無視して荒野を疾走することにする。
段々と、オフロードでの走行にも慣れてきた。
地面の状況をよく観察し、走行ラインを見極めて進む。
それから一時間程運転した辺りで小鬼の出現が目に見えて減りだした。
危険地帯は抜けた感じか?
再び何もない荒野を走る時間が続く。
燃料はあらかじめ満タンにしておいた。
今回はお試しで軽く走行するつもりだったが、思いのほか夢中になってしまっていた。
もう1,2時間、このまま進んでみようか。
赤茶けた大地をひたすら突き進む。
ふと海外でツーリングをしているかような感覚に陥った。
気が抜けている。
気を引き締めなければ。
小高い丘を駆け上がる。
突然地面が爆発した。
身体が宙に浮く感覚。
荒野の景色が目まぐるしく回転し、視界が流れ、反転する。
バイクを放り出された俺は地面に衝突。
激しく転がりながら、地面に勢いよく投げ出される。
「づッ・・・・・・お・・・・・・」
衝撃で息ができない。
何が。
一体何が起きた。
周囲では激しい土煙が巻き起こっている。
土煙の中で、何か大きな影が動いていた。
重量感のある地響き、振動が倒れた身体へと伝わってくる。
何かが、こちらに近づいてくる。
煙の中から化け物が姿を現した。
そいつは、巨大な角が幾つも身体から生えた、白い恐竜。
高さだけで10メートル以上の大きさがありそうだ。
「ボロロロロォ・・・・・・」
不気味な唸り声を上げる巨大な口には、ついさっきまで乗っていた俺の愛車が咥えられていた。
ウィンドウが表示される。
【多角白鬼蜥蜴】
階位75
鉄でできたバイクが嚙み締められると異音を立てて、紙のようにひしゃげていく。
一角白鬼蜥蜴は鉄屑となったバイクを首を振り、脇の方へと放り投げる。
「う・・・・・・あ・・・・・・うあぁぁ・・・・・・っ」
無意識に自分の口から情けない声が漏れる。
動こうとしたが足に激痛が走った。
下半身を見ると、両足があらぬ方へと折れている。
不味い、不味い不味い不味い。
黒渦を出そうと試みる。
グッ・・・・・・くぞぉっ。
痛みと動揺で上手く出来ない。
もう一度・・・・・・っ。
「―――あ・・・・・・っ」
―――いつの間にか、目の前に巨大な口があった。
ナイフのような牙がビッシリと並んでいる。
次の瞬間。
俺の腹部に、無数の牙が沈む。
「ごっぽぉっ」
喉元から血が逆流し、口から大量の血液を吐き出す。
そのまま、あっさりと俺の下半身は千切れ、一角白鬼蜥蜴の口の中へと消えていく。
上半身だけとなった俺が地面へと落下。
不思議と痛みはない。
―――死ぬ。
ここで死ぬのか。
何も分からないまま。
こんな訳の分からない場所で。
視界が暗くなっていく。
意識が・・・・・・・。
穂乃実・・・・・・――――――。
――――――――――――――――――――――――。
「ハ・・・・・・ッ」
視界に見慣れた景色。
俺の部屋の天井が映る。
「なんだ・・・・・・!?」
ベットの上から飛び起きる。
なくなった筈の下半身は繋がったままだ。
しかもなぜか裸。
どうなっている!?
俺は馬鹿デカい恐竜に喰い殺された。
ついさっきの出来事の筈だ!
訳が分からない。
・・・・・・夢なのか?
だが、あの痛みと恐怖は今もはっきり覚えている。
ステータスだって相変わらず視界の端に表示されている。
俺はどうやって戻ってきたんだ?
魔力は黒渦を一回分消費された状態だ。
立ち上がって身体を動かす。
・・・・・・異常は、なさそうだ。
しばし裸のまま呆然とする。
「・・・・・・寒い」
取り合えず服を着ようか。
あと、隣の奴、テレビの音が煩いな。
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