第8話 事件現場
「どうするんだよ、これ・・・・・・」
滅茶苦茶になった部屋を見回す。
物は散乱し、壁紙や床、家具などのあちこちに血が飛び散っている。
特に不味いのは小鬼の死体だ。
どう見ても殺人現場にしか見えない。
黒渦での脱出の際、小鬼がまだ近くに潜んでいたようだ。
というか、化け物までこっちへ連れてくることができるのか。
「つっ・・・・・・」
身体のあちこちが痛い。
鏡で顔の傷跡を確認する。
顔面血だらけになっていた。
医者に行くべきか迷う。
こんな刃物よってついた傷、どう説明する?
警察に通報されたら面倒な事になるぞ。
この部屋を見られたら一発アウト。その場で現行犯逮捕だ。
取り合えず傷口を水道水で洗い、散乱する棚の中を漁る。
・・・・・・あった。
消毒液を見つけ、体中の傷口にぶっかけていく。
「つ・・・・・・ぐぅ・・・・・っ」
傷にしみる。
傷口の大きさからして絆創膏じゃ覆いきれないな。
近くのドラッグストアで買ってくるか。
片付けは後回し、傷の処置優先だ。
タオルで頭部の傷に圧迫失血を試みながら、血だらけの服を着替える。
ガーゼと包帯を購入する際、店員にジロジロみられたが何も言われなかった。
無関心な社会に感謝だ。
家に帰りもう一度消毒液をぶっ掛け、ガーゼを当てて包帯を巻き、雑に処置を施す。
破傷風が怖いが一日様子を見ることにした。
防刃防具のお陰で裂傷を避けられた箇所は、内出血やミミズ腫れのようになっている。
こちらもしばらく様子見だ。
小鬼が所持していた凶器。短剣を血の海となっている床から拾い上げ観察する。
なんかの骨を加工したモノのように見える。
記念にとっておくか。
残る問題はベットに寄りかかるように倒れている血だらけの死体。
「よっ・・・・・・と」
ビニールシートで簀巻き状態にして部屋の隅に転がす。
明日、黒渦に放り込もう。
今日は魔力がないから無理だ。
つまり死体と一緒に一晩を過ごす訳か。
まったく、最悪の日だ。
バイトも休む連絡をしなければ。
・・・・・・疲れた。
本格的な掃除は明日にしよう。
今は安静にしていたい。
★
翌日、包帯を解き傷口の様子を見る。
・・・・・・あれ?
なんかもう、かさぶたになってるぞ。
特にこめかみの傷は、縫わなきゃいけなそうな深さだった筈だ。
他の箇所の傷も膿んだりしている様子はない。
この原因で思い当たるのは、ステータス上昇による自然治癒力の強化だ。
ただの思い込みかもしれないが、とにかく医者に行かずに済んだのは助かる。
「さて、それじゃまずは・・・・・・」
黒渦を発生させる。
死体の処分だ。
簀巻きにしていた小鬼を持ち上げて気付く。
明らかに俺の力が増してる。
黒渦から発する吸引に巻き込まれない範囲外から、死体を勢いよく放り込んだ。
これで完全犯罪完了だ。
今日の異世界探索は休みにした。
未だ血だらけの部屋を掃除しなければならない。
床に広がっていた乾いた血を拭いていると、隣から物音がする。
どうやら誰かが引っ越してきたようだ。
まいったな。
昨日のような不測の事態が起きたら面倒な事になる。
フリーターの俺が引っ越そうにも大した物件は借りられない。
おまけに保証人もいないので手続きも色々と大変な事情がある。
今後はより慎重に行動しなければ。
それと、小鬼も道連れに転移したことで思いついたことがある。
バイクなどの移動手段を黒渦で持ち込む事が可能なんじゃないか、ということだ。
次に異世界に降り立った時、いきなり待ち伏せられていても、バイクのスピードと突進力ならある程度囲まれた状態であっても強引に抜け出せるし、楽に引き離せる。
ただ、150キロ以上重量のあるバイクを、二階にあるこの部屋まで持ち込む事はできない。
黒渦による転移の出入りを誰かに見られる訳にはいかないので、適した場所を考える必要がある。
今日はその為の場所探しをするつもりだ。
グーグルマップで近辺の映像を見て、候補を考えていく。
この地方都市は海沿いにあり、近くには山脈もある。
人気のない場所なら幾らでも見つかりそうだった。
★
次の日。
ある程度、候補のあたりを付けた場所に行ってみることにした。
長さ60cmはある槍は、釣り竿用の入れ物をわざわざ購入し偽装した。
こんなもの警察に見咎められたら終わりだ。
ちなみに傷は2日目にしてもう殆ど塞がっている。
明らかに異常な回復力だ。
日が沈んだ頃合いを見計らって、現場へ向かうために家の扉を開けると、丁度隣人らしき人物と出くわす。
強面のおっさんだ。
茶髪でアゴ髭が生えており、首元にはタトゥーが覗いて見える。
背丈は175センチの俺より少し高いくらいか。
短い時間ながらもガッツリおっさんを観察したら、視界にウインドウが開く。
【詐欺師:荒屋 海座】
階位?
え。
こっちの人間にも鑑定が有効なのか。
しかし詐欺師って。
まぁ、どう見てもこのおっさん、まともな職についてそうにないもんな。
俺も人のことは言えないが。
一応、挨拶のつもりで頭をしっかり下げておく。
「・・・・・・・・・」
無視か。
ゴミを見るような視線で一瞥され、無言でそのまま部屋に入ってしまった。
面倒な奴が越してきたものだ。
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