第6話 岩
次の日。
再度リュックや双眼鏡など、実際に探索で役立っていたものを買い直した。
槍もナイフが抜けないよう更に補強を施してある。
いつものようにバイトを終わらせてから食事をとり、準備運動をこなす。
防具のプロテクターなどは動きやすいように胸部や前腕部、関節など最低限にとどめて身に着ける。
ヘルメットは異世界の高温じゃキツ過ぎるので、戦闘が確定じゃない時以外は着けないことにした。
「・・・・・・いくか」
異世界探索4回目だ。
黒渦を発生させ、腕を伸ばす。
小鬼を殺した地点に降り立ち、辺りを見回す。
小鬼の死体は殺した時の姿勢で横たわっていた。
血は乾き、仰向けに倒れたまま、赤茶けた砂に塗れている。
俺もこの世界でしくじれば、ああなるということだ。
再びあてどなく歩き続ける。
辺りの景色は変わらず荒野が広がっていた。
幸運なことに道中で、うち捨てられたコンパスやクマよけスプレー、双眼鏡を見つけた。
クマよけスプレーは使えそうだし、双眼鏡は予備にとっておこう。
結構な値段がしたしな。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
・・・・・・スマホで時間を確認する。
歩き続けて6時間が経過していた。
水の量も、少し前から尽きている。
「今日は、ここまだな・・・・・・」
なんの収穫もなかった。
そう都合よくいく訳がないよなと、自分に言い聞かせる。
―――それから一週間、ひたすら変化のない荒野を歩き続けた。
このまま無限に荒野を彷徨うのかと、不安に駆られ始めた頃、再び小鬼と遭遇する。
双眼鏡で発見した時点で向こうは既に俺の事を察知し、駆け寄ってきていた。
現在4時間歩き詰めで疲労があるが、体調は問題ない。身体は十分動かせる。
リョックの両脇に引っ掛けていた、クロスボウを取り出す。
実はクロスボウをあれからもう一つ制作していたりする。
小鬼との距離にはまだ猶予がある。
二つのクロスボウに矢を装填していく。
―――準備完了だ。
「グギャギャァッ!」
小鬼が射程内に入ってくる。
一射目。
「グギャッ!」
肩に命中。
素早く地面に置いていた予備のクロスボウを拾い、構える。
二射目。
「ギィィッ!」
小鬼の左太ももに刺さる。
胸の中心を狙っていたのだが、ことごとく外れてしまった。
標的が動いてるとはいえ、上手くいかないものだ。
だか一応命中はしている。
それで十分だと思うことにした。
熊よけスプレーも試したいところだが、生憎と俺の位置は風下だ。
前回同様、槍で決着を付けるしかない。
二本の矢が突き刺さり、小鬼の動きは相当鈍っている。
矢の刺さっていない右足を切り付けると、小鬼がたまらずといった様子でうつ伏せに倒れた。
俺は即座に駆け寄って小鬼の首筋に槍を突き刺す。
「ギィッ!」
反撃を警戒し、首筋に埋まった刃先を素早く引き抜き、後ろに下がる
小鬼の首筋から血が噴き出し、辺りに飛び散る。
「ギャァッ!ガォッ・・・・・・ゴ・・・・・・ぉ・・・・・・」
小鬼が血を吐き出しながら藻掻いている。
人間なら間違いなく致命傷の傷だ。
追撃を咥える前に、もう少し様子をみよう。
それから数十分、小鬼は次第にその動きは鈍り、やがて動きは止まった。
「はぁっ・・・・・・ふっ・・・・・・」
動きの止まった小鬼の背中に槍を突き込む。
念のためだ。油断はしない。
・・・・・・本当に死んだみたいだ。
前回同様、しばらくすると小鬼の死体から青い靄が湧き出てくる。
「なんなんだこれは」
靄を手で振り払うが、すり抜けて効果はない。
結局どうすることもできず靄は俺の中に吸い込まれてしまった。
ステータスを見るが変化はない。
小鬼の死体を見下ろす。
手には石を削って作ったと思わしき刃物が握られている。
腰には何かの皮で出来た袋が括りつけられていたが、中身を確認する気は起きない。
僅かになにかが蠢いているからだ・・・・・・。
血に濡れた小鬼を足で仰向けに転がし、矢を回収する。
今日はもう少し探索を続けよう。
水もまだあるし、体力もまだ余裕がある。
それから一時間程歩き続ける。
辺りに大小様々な岩が点在するようになってきた。
僅かな風景の変化に心持ち気が引き締まる。
「あれ・・・・・・?」
目の錯覚か、進行方向上にあった20センチほどの岩が動いたような気がした。
凝視しながら近づいてみるとステータスに新たな表示か出る。
岩肌芋虫
階位3
生き物だ!
距離を取ろうと後ろに下がる。
すると突然、岩に空いた穴から、何かの液体を吐きつけてきた。
胸部のプロテクターに降りかかる。
途端に異臭が鼻につく。
硬化プラスチックが溶けている!
咄嗟の判断で岩肌芋虫の穴の向きを反らすべく、喧嘩キックの姿勢で蹴りつける。
岩肌芋虫は見た目とは裏腹にそれほど重くはなく、ひっくり返ってしまった。
裏側はまんま虫の構造に見える。
短い多足を蠢かしていて凄く気持ち悪い。
そのまま岩肌芋虫が起き上がらないよう足で押さえつけ、槍で突く。
固いな。
このまま力づくでやればナイフの切れ味が消耗しそうだ。
腰に付けていた大振りの鉈を思い出す。
重量感のある大ナタを振りかぶり、叩きつけるように振り下ろす。
岩肌芋虫の甲殻にひびが入る。
いける。
もう一度、鉈の重量を活かすように振り下ろす。
甲殻が割れ、岩肌芋虫の緑色をした体液が飛び散る。
なるべく体液を浴びないよう、角度を変えて何度も振り下ろす。
「ふうぅぅ・・・・・・っ」
気が付けば岩肌芋虫の動きが止まっている。
額の汗をぬぐう。
「こんな生き物までいるのか・・・・・・」
岩肌芋虫の死骸から小鬼の時と同様、青い靄が出てくる。
靄は俺の体内に吸い込まれ、ステータスの表示に変化が起きた。
『階位が上がりました』
千錠 誠
階位2→3
生命力4→6
魔力9000/18000
筋力7→9
技量8→9
精神4→5
持久力6→8
速さ4→5
[スキル]
鑑定1
[固有スキル]
異次元操作
再発生
「あっつ・・・・・・」
プロテクターを脱いで、溶けた部分を観察する。
もう少しで貫通しそうになっていた。
有名なエイリアン映画を思い出すな。
周囲に点在している、無数の岩と岩肌芋虫の擬態した岩部分を見比べて観察する。
・・・・・・肉眼で見分けるのは難しそうだ。
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