第5話

 

 翌日から、キオクはお昼になると中庭にやって来るようになった。

 何故知っているのかと言えば、キロクもまた中庭のベンチで昼食を取っているからだ。


 キオクは古城にやって来てから、天候の良い日はほぼ毎日、こうして中庭へとやって来る。

 そうしている内に、気がつけば中庭で昼食を取るのが日課となってしまっていた。


 その日もキロクは中庭のベンチに腰掛けて、報告書の束に目を通しながら、昼食のサンドイッチを食していた。

 感情の起伏が感じられないと言われた顔で、黙々と口を動かしサンドイッチを頬張る。


「お昼ご飯ですね、キロクさん!」

 そうしていると、ふと、頭上に影が差した。顔を上げるとそこにはキロクが立っている。

 小柄な少女から見下ろされるのは、何とも不思議な気分である。


「……って、何食べているんですかキロクさん。それってもしかして、栄養補助食品だけ挟んだサンドイッチじゃないですか? 体に悪いですよ」

「栄養補助食品を食べているのに体に悪いというのは、いささか理解致しかねます」

「いや、サンドイッチって、もっとこう、新鮮な野菜とかハムとか、ハムとかハムとかを挟むものです」

「それはさすがに栄養が偏ります」

「あれ? そうだっけ? ……って、違った! 栄養の話じゃないですって」

 キオクは肩をすくめると、キロクの隣に腰を下ろした。

 その姿を横目に見てからキロクは再び報告書へ視線を向ける。そしてそのままの態勢で、キオクに問いかけた。


「キオクはお昼ご飯は済みましたか?」

「これからです! 見てください、サンドイッチです!」

「……具材は?」

「目玉焼きとベーコンですね。今日のはケチャップで味つけされています。美味」

「ケチャップ……」

「……もしやマヨ派?」

「いいえ。栄養補助食品派です。何なら砕いてかけます」

「調味料の意味!」

 キオクはそう言って頭を抱えた。

 賑やかな少女だと思いながら、キロクはサンドイッチを食べる。

 柔らかいパンと固い栄養補助食品の何とも言えない触感が口の中に広がっていく。


「美味しいですか?」

「個々の味はしっかりします」

 別にまずいとは思わないが、大して美味しくもない。

 そんな感想を率直にキオクに言うと彼女は笑って、

「じゃあ、今度作ってきますよ。野菜とハムとハムとハムのサンドイッチ!」

 と言った。やはり、栄養が偏っているように思える。


「いえ、私にはこれがありますので。これも立派なサンドイッチです」

「確かに挟めば大体はサンドイッチですけど違います。もっとこう『サンドイッチ!』ってサンドイッチを食べて欲しいです」

「あなたは意外と頑固ですね」

 呆れたように言うキロクに、キオクは大きく頷く。

「石頭と評判でした! 滑って転んで頭を打っても無傷です」

 もしかして、それでこんなにズレているのではないだろうか。

 何て酷い感想をキオクは抱いたが、さすがに言葉にするのはやめた。


 だが、まぁ、しかし。

 作ってくれるというのならば、別に拒む理由はない。むしろありがたい。

 キオクとて栄養補給にちょうど良いから、こんなサンドイッチを食べているのであって、美味しいものは嫌いではない。

「……それでは、その内で良いので、お願いします」

「はい!」

 キロクが頼むと、嬉しそうにキオクは頷いた。

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