第3話


(……形は、美しいのだけどな)

 誠意の門を目指して歩きながら、キロクは件の門についてそう呟いた。


 その白く美しいディティールは一見の価値あり。そんな謳い文句で、だいぶ昔に旅行雑誌で特集された事がある。

 しかしあいにくと、これを見学にやって来た観光客はほとんどいなかった。

 その理由はいたってシンプル。この門に良いイメージを抱く人間がいなかったからである。


 誠意の門は、別名『死の門』とも呼ばれている。

 もちろん通っただけで死ぬ事はない。しかし、必ず死ぬ事になる者がここを通るため、そう呼ばれるようになったのだ。

 リカバリーシステムの代替人が、この門を通ってやって来るのである。


 誠意の門自体は、この古城と同じ歴史を持っている。

 この城が役所となったがために、不名誉なあだ名をつけられてしまったのだ。


「……今回の代替人は十五の子供だったか」

 キロクは門を視界に入れながら、事前に確認した資料に記載されていた内容を思い出す。

 十五歳ならば、まだまだ未来のある若者だ。この世界の仕組みとしては仕方のない犠牲であるが、それでも少し憐れに思った。

 きっと彼女も、今までの代替人達と同じく沈んだ顔をしている事だろう。


(さて、どう声をかけたものか……)

 憐れには思うが、誰かを慰めたり、優しい言葉をかけるのは昔から苦手だった。

 心配して何かを言っても「人の心がない」と逆に怒られる事の方が多い。


 今回も、そうなるかもしれない。余命を宣告された相手だ、特にそうなりやすいだろう。

 ならばいっそ、最低限度の事務的な対応に留めておいて、何も言わない方がマシだろうかとキロクは思った。


 そんな事を考えながら歩いていると、誠意の門の下に少女が一人立っているのが見えた。

 資料に載っていた顔写真と同じだ。

(名前はキオク、だったか)

 自分の名前と似ているので、間違わないように気を付けなければとキロクは思った。


 さて、そんなキオクという少女だが、周囲をきょろきょろと見回していた。

「これが噂の誠意の門! 近くで見る機会がなかったんですよねぇ。お城な役所も大きいな」

 ……何やら楽しそうに見えるのは気のせいだろうか?


(いや、聞き間違いだろう)

 そう思ってキロクは軽く首を横に振る。

 リカバリーシステムの代替人になり誠意の門を通る人間が、あんな風に明るいはずがない。

 そう自分に言い聞かせながら、キロクは彼女へ近付いて行く。

 すると靴音に気が付いて、少女がキロクの方を見た。


 黒い髪に、薄桃色の瞳をしたかわいらしい少女だ。

 彼女はキロクを見て目を丸くした後、

「あ! 役人さんですか? 初めまして、初めまして! 私、キオクと言います! 今回は、どうぞよろしくお願いします!」

 なんて、笑顔で、とても元気にそう言って、頭を下げたのだった。


 これにはキロクも面食らってしまい、

「え?」

 と何とも間抜けな声を漏らしてしまった。

「あっ、違いました?」

「え、あ、いえ……合っています」

「良かった!」

 圧倒されつつ頷くと、彼女はやっぱり元気にそう言った。

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