第16話 対”称号”秘密兵器

「これが! ワタシが考えた! 最強の秘密兵器でース!」


 ――ごくり……。


 俺、すっごい期待してディスプレイに浮かんだ3D設計図を見たんだ。

 見たんだけど……。


「なにこれええええええええええ!?」

 また叫んでた。もう毎日叫んでるよ!


「称号を隠すことができるデバイス。名付けて『ビョンビョンくん』でス」


 それは、ドラムスティックの形をした角が二本、左右に生えたカチューシャだった。ただ、角の間には白い布が巻いてあって、それが称号を隠す、という仕組みらしい。


「「……ダサっ」」

「なんですとぉ!?」


 俺と瑠香の素直な一言感想に、ジュディさんは驚いていた。いや、驚く要素ある? ダサいよね、二本角のカチューシャ! しかもカチューシャの左右の耳当たりの位置から変なケーブルが両肩へ伸びていて、それは手首の輪っかにまで届いてた。


 ダサい、としか言いようがないよ! なんかの養成ギブスか、怪しい健康器具みたいだよ!


「これこそが、称号を最もスマートに隠せるデザインなんですヨ! 手首の腕輪がポイントで、腕輪から装着すれば脳はこれを腕装備、と判断しまス。そうすると、称号は透過しなくなる、という仕組みでス。称号はに付くので!」


 ええ、そこまでシャイニングファンタジークの設定どおりなんだ。たしかに、ほっかむりや普通のカチューシャでは称号は隠れなかったもんな。そういう理由だったのか。そういえば、傘も『手装備』だ。


「この3D設計図はすでに主要国に配布しましタ。それを3Dプリンターで成形し、適当な布を角にぐるりと一周巻けば完成! 布の代わりにおしゃれなタオルを巻いたり、縫いぐるみを置いてもかわいくていいですね! オー、リーズナブル! ちなみに、名前の由来は、角を軟らかめにしているので、歩くとビョンビョン揺れるからそう名付けました。角が固いと何かにぶつけた時に頭が危ないので。なんという気遣い、ワタシ、天才でース!」


 自分で天才って言っちゃったよこの人。確かに天才なんだろうけどさ、デザインに関しては10歳くらいの子が考えたようなものだと思うよ!


「アメリカ大統領がビョンビョン君を採用した」

 明さんが、アメリカのニュースが写ってるディスプレイを指さした。


 うええええええええええ!?


 マジだった。アメリカ国家が流れて、プランプ大統領が映った。その頭には、星条旗が付けられているビョンビョンくんが燦然と存在感を主張してて、大統領は右手と左手をくいくいっと交互に動かすいつものダンス(?)を踊り、それから満面の笑顔で演説し始めたんだ。


「本当に大統領が被ってた……称号がちゃんと隠れてるけど――やっぱりダサ(小声)」

 瑠香は正直に言った。俺もそう思う。

 アメリカンジョークじゃないの、これ?


 テレビでは日本語のテロップが流れてた。


『親愛なる人類諸君。突然の称号の登場に、君たちは世界に終わりが来たかのように恐れおののいただろう。しかし! 世界は救われた。このビョンビョンくんを被れば称号は他人には見えない。


 そうだ、なんのことはない、称号は見えなければなにも恐れることはないのだ。人類よ、立ち上がれ! みな等しくこのビョンビョンくんを被るのだ! 人類はこの大災禍に勝利したのだ!!』


 まじかよ!!


 次にテレビカメラは熱狂する民衆を写した。かなりの人数が赤い傘を差していて、それを振ったり上下に動かして大統領の言葉に応えていた。たぶんこれUSA! USA!って言ってる。


 それから、イギリス国王も、日本の首相も、ロシアのような大国も次々とビョンビョン君を大至急生産し、もしくは独自にこれをまねて作るようニュースを流している。あっ、作り方の詳しい説明をしてる超有名なニュースキャスターもビョンビョン被ってる!


「ふふふ、ダサいビョンビョンくん、みんなで被れば怖くない! そして、まだまだ対策は考えているのです。次行きましょう、次!」


 自分でもダサいって認めてるじゃん。なにその『赤信号、みんなで渡れば怖くない』みたいな標語! 


 画面が切り替わって、NASAのなんか偉い人がしゃべってる。


『我々の調査の結果、この奇妙な称号は、太陽の磁気嵐によるものと、判明しました。この図をご覧ください。未明に発生した大規模な太陽フレアによって巨大なプラズマの塊が放出され、地球磁気圏にこれまでにない影響を及ぼした、ということであります』


「え、そうだったの?」

「嘘でース」

「嘘かよ!」


「嘘であっても、権威者たちがもっともらしい理由を付けて解説すればたいていは通る」


 明さんが手元のキーボードを叩きながら言った。

 そういうものなの!? それでいいの? 大人ってさあ!


 日本の朝のニュース番組でも、東大名誉教授の田中博士という人が、図を交えて同じような説明してた。別のチャンネルでは日本の防衛庁による記者会見が開かれてた。


 俺は自分のスマホでSNSを見てみたら、なんと!! 懐疑的ながらも納得してる投稿が大半を占めてた。中には『陰謀論だ!』とか『これはテロだ! 政府は何か隠してる!』とか、『これは人類滅亡の予兆だ!』ってのもあった。政府が隠してるのは本当なんだよなあ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


――朝食後――


「んもー、特別番組ばっかりで朝の連続テレビ小説やってないわあ、残念」

 母さんが二階の父さんの書斎から降りて来て言った。


「オカーサン、このクロックムッシュ、絶品でス! シアトルでお店開けるレベルでース!」


 ジュディさんは半分に切ってサランラップを巻いたクロックムッシュ(たっぷりのチーズとハムを挟んだホットサンド)を左手に持って食べながら絶賛してた。


「あらあら、うれしいわあ。彰人と瑠香はなかなかおいしい、って言ってくれないから……」


 そうだっけ? そういや朝は俺も瑠香もバタバタ忙しすぎて言ってなかったなあ。

 っていうか、こんなお洒落なクロックムッシュっていうの? 今まで作ったことないよね、母さん。


 でもさ、家族ではない人たちといると、こういうことに気が付けるのはいいね。これからはちゃんとおいしい、って言おうかな。母さんすごくうれしそうだし。


 ちなみに、食材は明さんの部下の人たちがどんどん宅配ボックスに届けてくれて、料理は母さんがやることにしたそうだ。台所に立ってないと落ち着かないからだってさ。


「めっちゃおいしいでス! あ、ドリンクサーバーを深夜に運び込んでおいたので、アキトもルカチャンも遠慮なく使ってくださイ。水道代も電気代もコーヒーや紅茶・緑茶の補充全部永久無料でース」


「あ、ほんとだ、いつの間にか設置されてる……永久無料!?」

 リビングの隅っこに、俺くらいの高さのドリンクサーバーが生えてた。冷水、お湯、お茶、コーヒー、紅茶、発泡水まであるよ、すごいや!


「無料だなんて……いいんですか?」

 母さんは申し訳なさそう。俺は普通に『やったぜ!無料!』って思ったけど。

「もちろーん! この部屋を悪の組織のアジトにしたお詫びですのデ」


 なんてきちんとしている悪の組織だよ!

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