3つの時間軸でダンジョン攻略
ちびまるフォイ
イマはひとりだけでいい
「召喚魔法! パイムタラドックス!」
ダンジョンで魔法を唱えると、
同じダンジョン内の過去・未来それぞれに自分が召喚された。
召喚された自分は事情をすぐに理解してくれる。
「よし、過去の自分。未来の自分。
このダンジョンを協力して攻略しよう」
「もちろん」
「最奥にある願いの叶う宝玉を見つけよう」
「ありがとう。ところで、名前をつけてもいいか?
時間軸はちがうが全部自分だからまぎらわしくて」
「じゃあ、過去の自分は"カコ"と呼んでくれ」
「なら未来の俺は"ミライ"かな」
「現在の自分は"イマ"と名乗るよ」
こうして自分3人によるダンジョン攻略がはじまった。
3人とも同じダンジョンにこそいるが時間軸は違う。
カコは過去のダンジョンにいるし、ミライは未来のダンジョン。
イマがいる現在のダンジョンにはイマしかいない。
3人で合体技出すとかはできない。
ダンジョン先行するのはもちろんミライ。
ダンジョンをずんずん進んでは最初に情報を伝える。
「待った」
「どうしたミライ」
「ここに天井崩落の跡があるな……」
現在のダンジョンでもミライが指示する場所を確かめた。
「こっちはまだ崩落してなさそう」
「過去もそうだな」
「カコ、ちょっとトラップ起動してくれ」
「あいよ」
カコが天井トラップのスイッチを起動させた。
天井が崩落して一歩先のモンスターたちを押しつぶした。
「あっぶねぇ……。あんなのひとたまりもなかった」
「イマはどうだ?」
「カコがトラップ起動したから、
こっちの天井もいましがた崩落し終わったところだ」
「なら安全だな。進もう」
通常のダンジョン攻略のようにリアルタイムで協力することはできない。
だが別時間軸で同じダンジョン攻略を進めるのは非常によい。
「痛っってぇぇ!!」
「どうしたミライ!」
「くそ。毒モンスターが奥にいた……。毒くらっちまった」
「解毒薬は?」
「ねぇよそんなの……」
「じゃあ渡すよ」
「イマ、何言ってるんだ。お前は存在しているのは現在のダンジョンだろう」
「だからだよ。えっと、この辺がいいかな」
「なにしてる?」
「壁にバツ印がついているところがあるだろう?
そこの岩をどけてみてくれ。解毒薬を置いておいた」
「あ、ほんとだ! 助かる!」
「いいってことよ。ミライが先に様子見てくれてるぶん、
どうしても危険なものはミライが受けがちだからな」
アイテムの受け渡しも「置き型」にすればなんとかできた。
ついにダンジョンの最深部へとたどり着く。
分厚い扉の前には2つのレバーがある。
「カコ、開くか?」
「ダメだ。びくともしない」
「この扉、レバーで開閉するんじゃないか?」
「ミライの時間軸でも扉は閉じてるんだよな?」
「ああ。自動でしまっちゃうのか、もしくは誰も開けられていないか」
「どうする? レバーは2つある。
たぶん同時に操作するんだろうが……。
それぞれのダンジョンには自分はひとりしかいないだろ?」
「同時に操作は難しいか……」
「……いや、別の時間軸でも有効だったりしないか?
カコ、ちょっとレバーを引いてみてくれ」
右側のレバー前にカコが陣取る。
レバーを引くと、誰もいないはずのレバーが勝手に動く。
「やっぱりだ! イマ、左側のレバーを!」
「おう!」
今度はイマが左側のレバーを倒す。
両方のレバーが倒れたことで大きな扉が開く。
「ミライ、頼む!」
「わかった!!」
開いた扉の間につっかえ棒を突っ込んで、
もう扉が閉まらないように細工を施した。
「カコ、イマ。もうレバー離して大丈夫」
手を離しても扉はつっかえ棒で開きっぱなし。
レバーは倒されっぱなしのままストップした。
「ミライ、助かったよ」
「さあ、ゴールはもうすぐだ!」
ダンジョンの最深部には願いの叶う宝玉が祀られていた。
カコが手を伸ばそうとしたとき。
「カコ、待った!」
「どうした?」
「順番で取っていこう。先にミライ、次にイマ、そしてカコだ」
「なんでだ?」
「カコが先に取ってしまうと、現在と未来から宝が消えるだろ」
「なるほどね」
ミライから順番に宝玉を手に取った。
3人とも欠けること無く宝玉を手に入れる。
「これが願いの宝玉……!」
「みんな、願いなににする?」
「カコが願いを3つに増やすとか願ってくれたら、
イマとミライが願い増やせるとかできないかな」
「過去の俺だけなんも願い叶えられてないじゃん。やだよ」
そのときだった。
宝玉に光がともって封印されていた神が姿をあらわす。
「私は願いの神、略してネガミ。
さあ、願いを叶えてやろう。ただしひとつだけだ」
「カコ、願いを増やしてくれ」
「だからヤダって」
「むう? お前は別時間軸に共存しているのか。
そんなズルは許さんぞ。願いはひとつだけだ」
「え? それじゃ過去で何か願ったら?」
「現在と未来にも同じ願いを叶える。
すべての時間軸を統合して願いはひとつだけだ」
「くっそ。やっぱひとつしかダメか……」
「どうする? 何を願う?」
カコ、イマ、ミライによる三者相談がはじまった。
最終的にみんなが幸せになりそうなのはこれだった。
「願いを決めました」
「聞こう。億万長者か? モテモテか? なんだ?」
「ダンジョン内でしか使えないこの召喚魔法を、
常にダンジョン内外でも発動させてください!!!」
「そんなのでいいのか?」
「ええ。そうすれば日常生活がうんとよくなります。
過去は未来のアドバイスを聞けるし、
嫌な未来は過去を変えることで回避だってできる」
「よかろう。ではその願いを叶えてやるーー!!」
神はおおいなる力で願いを叶えた。
役目を終えた宝玉はすべての時間軸で崩壊した。
「神様ありがとう! これで最高の人生が待っている!!」
ダンジョンの外に出た。
召喚魔法で生み出された過去・未来の自分も消えていない。
これからはダンジョンと同じように、
日常生活でも別時間軸の自分と協力できる! 最高だ!
・
・
・
それからしばらくして。
イマはあのときの選択を非常に後悔していた。
「イマ、聞いてるのか」
「聞いてるよ……」
「未来の俺はこうなっている。
過去であるイマがこの選択をしないと困る。
さあ、早く選択してくれ! 未来のために!!」
ミライはことあるごとに指図してくる。
現在の時間軸で、自分がなにかを選ぶたびに文句言ってくる。
そのうえ。
「なあ、イマ。教えてくれ。これはどっちがいいんだ?」
「どっちでもいいよ……」
「どっちもでいいなんてことないだろう!?
イマのいる未来はどうなってるんだ!?
この選択が及ぼす影響は!? 早く教えてくれ!!」
カコは未来におよぼす影響を気にするから、
何を選ぶにしてもイマの自分に答えを聞いてくる。
日常生活でも時間軸共存ができれば最高だと思っていたのに……。
「ああもう!! カコもミライもうっとおしい!!!
現在の時間軸くらい、自分の好きにさせてくれーー!!」
3つの時間軸でダンジョン攻略 ちびまるフォイ @firestorage
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