05 地下都市からの誘い

「苦戦なんかしてないぞ? わざとだわざと」

「え~うっそだぁ~」


 莉々が信じなくても現実に機械兵は全滅済みで、残るは胡散臭い精霊気配の奴らを残すのみとなった。


 奴らは俺が機械兵をどうやって倒したのか分かってないようで、動きを止めている。俺としては出来ればこのまま大人しく引き上げてくれることを望むのだが。


「あっ、見て見て~! 敵っぽい人たちが次々と姿を消していくよ」

「なにっ?」

「まるで初めからいなかったみたいに消えてくよね~」


 莉々が言うように、俺や機械兵と戦っていた奴らはまるで煙のように暗闇に乗じて消えていく。


「何だったんだあいつら? 機械兵でもなければ人間でもなかった。攻撃に手ごたえが何もなかったのが気になるが……」

「そうなの? でも怪我もなく追い出したんだからいいんじゃない?」

「……お前、あまりにお気楽すぎだぞ」

「え~だって、わたしあんまり関係なかったもん! 癒しの異能も使わなくて済んだし、全然楽勝だったよね~」


 ……こいつは。


 まぁ、だからこそ人前……正確には本人の姿をさらけ出さずに活動しているだけだが、配信というのを続けられるんだろうけどな。


 それにしてもあの女性だ。


 俺たちをこんな地下深くにまで連れてきたくせに自分だけ消えて後はお任せとか、一体どういう狙いがあってこんなところに放置したのか。


 だが、予想外の戦闘は何とか片付いたし後は地上に戻ればいいだけだから、特に気にすることでもない。


「――って、おい、莉々! あんまりウロチョロするなって!」


 機械兵と謎の連中との戦闘が終わった周辺は、ここに来た時のように電気のつかない暗闇空間に戻っている。


 辛うじて明るさが残っているのは地上へのエレベーターがあるところだけで、それ以外は間近にいなければお互いの姿が確認出来ないくらいの暗闇空間。


「だってぇ、何だか奥から呼ばれてる気がしたんだもん。逸器も聞こえたでしょ?」

「呼ばれてる声だって? お前俺をそんなに怖がらせようとしてんのかよ!」

「違うし!! 静かにするから逸器も耳をすませてよ」

「はぁ? ったく、分かったよ」


 どうせ莉々の勘違いだろ……などと思いながら、俺も静かにしてみた。


「……何も聞こえないな」

「え~? 逸器の耳が衰えてるからじゃないの? わたしはちゃんと聞こえてくるよ?」

「衰えてねーよ! お前と同じ年齢だ! 年齢!」


 異世界帰りとはいえ、俺はまだ十代だ。Vチューバ―とかいう配信で派手にしてる莉々と比べればノリは悪いが、何かを否定するほど落ちぶれてない。


 もう一度、というより自分が間違ってないことを証明したいのか、莉々は俺に何度も聞き耳を立てるように無言で圧力をかけてくる。


「……はぁ」


 聞こえないものは聞こえない――無駄な足掻きだと思いながら、俺は静かに目を閉じた。


「あっ!!」

「……って、お前が声を上げたら何も分からないだろ!」

「ね、ねえ、逸器。なんか奥の方、光ってない?」

「ああん?」


 誰かに呼ばれているだの光っているだの、忙しい奴だ全く。


 それにここは電気が通っていない暗闇空間。光って見えるとしたらそれは間違いなく、地上行きのエレベーターから発されている非常灯しかあり得ない。


 それなのに奥と言われても、何も方向を指し示すオブジェクトもない空間でどこがどこやら。


 ……いや、声は聞こえないが、莉々が指している方に確かに怪しい光が見える。それも地上エレベーターとは全然違う光だ。そうなると俺も否定出来ないな。


「光ってるな……光ったり消えかかったりして、まるで弱っているように見える」

「き、きっと助けを求めてるんだよ! だから行ってみようよ! 何もなかったら戻ればいいんだし。ねっ?」

「分かったよ」


 脅威も無いだろうし、ここは莉々の好奇心を信じて行くしかなさそうだな。


 莉々は俺にひっつきながらなぜか自分主導で前へ前へと歩き進んでいるが、緊張と楽しみが半々なのか、隠し切れないほどの震えを見せている。


 それについて何か言っても仕方がないので、俺は黙って歩くことにした。


 ――そして俺たちは、ぼんやりと光っていた場所にたどり着く。間近に来て分かったのは地上エレベーターの電気的な光などではなく、明らかに精霊が出すような朧げな光だったことだ。


「ねぇ、逸器。これって精霊さんの光なの?」

「知らん」

「逸器が知らないならわたしが知るわけないじゃん!!」

「何で怒るんだよ……」

「知らない!」


 どこにいても騒がしい奴だな。そして勝手に怒ってる。


「しかし、精霊っぽいのは確かなんだよな。こうして触れても熱くもなければ冷たくもない。それなのに光はまるで消えることを拒んでいる……」


 空中に漂っている光に触れてみるも、その光からは特に危険な感じは受けない。どちらかというと、何かを探しているようなそんな迷いを感じる。


「……へぇ~」

「何だよ?」

「何か恥ずかしいことを平気で言うんだなぁっておかしくて」


 こいつ、いい気になりすぎだ。


 ……などと、お互いに茶化しているそんな時だった。


 空中に浮いていた弱々しい光が、突然どこかに向かって動き出したのだ。周辺は変わらず暗闇を保ち続けているが、動く光の玉は暗闇に勝ることなくひたすらどこかに向かって動き続けている。


「どこに行くんだろうね?」

「さぁな」

「……というか、このままついて来てくれるんだ?」

「このまま一人だけで地上に戻れるわけないからな。俺も迷いたくない」

「ふふっ、だよね」


 どこのカップルだよと俺自身に突っ込みたくなったが、暗闇空間が終わらない限り単独行動を取るのは流石に危ない。


 そうして空中に浮遊する光について行くと、非常階段と書かれた場所に着いた。光は扉をすり抜けて、その先へと進んでいったようだ。


「行くよね?」

「ここまで来たらな」

「あはっ。逸器にしては乗り気じゃん?」

「ほざけ」


 非常階段かどうかはさておき、俺たちは光に誘われた扉を開けて先へと進むことにした。


「良かった~下り階段で!」

「そうか? まぁ、上るよりは……とにかく、下りるぞ」

「うんっ!」


 ジオフロント計画地よりもさらにその下、地下深くへと誘われた俺たちは浮遊する光を追って、ひたすら足を動かし続けた。

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