第一章

3. 結成! その名は、蒼狼隊で候①

 第一章:結成! その名は蒼狼隊で候


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 ――王都。その様は、俺達が勇者だった頃と大きく異なっていた。王都のあちこちは、鉄道が敷かれ、煙が立ち、近代の象徴のような見た目をしたレトロな車が走っている。高いビルも多く、数年前のような中世ヨーロッパ風の面影はなくなり、代わりに近代アメリカの大都会のような様になりつつあった……。

「すっかり……ファンタジーからスチームパンクだか、サイバーパンクだかに変わっちまって……」

 と、愚痴を零すが、そんな俺達の乗っているのも車であった。ハンドルを握る国王のスパイ=クリス。その隣の助手席には、大柄なアルスさんが、車の内部を不思議そうに見つめながら子供のようにはしゃいだ様子で語っていた。

「……凄いな! これが、文明開化か! うむ……。それにしても、王都なんて久しぶりだなぁ!」

「はしゃぎ過ぎだぜ。アルさん」

 俺とレミ姐さんは、顔を見合わせて一緒に溜息をついて笑っていた。

 ――全く、これが俺達のパーティーリーダーとは……。俺も変な人と出会っちまったものだ。しかし、こんな人だからこそ俺は……アルさんについて行きたいと思ったんだ。それは、きっとレミ姐さんも、エリカも同じはず……。

「懐かしいなぁ……」

 窓から見える王都の様子を見ながら俺は、そう呟いた。すると、隣に座っていたエリカが俺の体を指でつついてきた。

「どうしたんだよ?」

 彼女は、口を手で覆い隠し、小さな声で話し始めた。

「ねぇ……これ、何? いきなり、国王陛下に呼ばれるとか……アンタ、なんかやらかした?」

「……いや、なんでそうなる!」

 俺は、訝し気に車の中を見渡すエリカに言った。

「俺も分かんねぇんだよ。昨日の夜、いきなり言われて……。理由を聞いても何も言ってくれないんだ……」

「ふーん……。まぁ、何もなければいいけどね……」

 エリカの鋭い視線が、俺をジーっと見つめる。

「い、いや! だから何もしてねぇよ! 違うって!」

「へぇ……でも、クロウ……あなた、私にいくら借金してるっけ?」

「……その節は、本当に……大変申し訳ございません」

 俺が、彼女に深く頭を下げるとエリカは、ため息交じりに告げた。

「……はぁ、別に……あなたが私以外の人に迷惑をかけていないんだったら別に良いわ。本当に違うのね?」

「……当たり前だろ! 俺が、迷惑かけるのはお前だけだぜ!」

 ――刹那、エリカの強烈なビンタが俺に炸裂! バチン! という音と共に俺の頬は、赤く腫れあがる……。

「……バカ」

「そりゃあねぇぜ……」

 そんな俺達の様子をレミ姐さんは、端っこで笑って見ていた……。

 そうして、しばらく経ってからようやく俺達は、王城の中へ入っていき、国王の玉座の前へとやって来た――。

 王城は、昔と全然変わらない。俺達が、魔王を倒した頃と何も変わらない景観だった。そうして、玉座の近くでジーっと待っていると……

「……国王陛下のご入来!」

 ようやく、王様の登場。既に30分以上も立ちっぱなしで待っていた俺達は、既に疲れ切ってしまった。

「勘弁してくれよ……」

 しかし、久しぶりに出会う国王の姿を見ると途端に俺は、愚痴を言う気分も無くなり、仲間達の疲れた顔も無くなり始めた。

 欧は、玉座に着くと俺達を見渡し始める。俺達は、王に深く頭を下げる。

「顔を上げなさい。戦士アルスと勇者クロウ。……魔法使いのレミア、僧侶のエリカ。久しいのぉ。魔王討伐以来か? 遥々よく来てくれた」

「滅相もございません。国王陛下……」

 アルさんがそう言った直後、俺達は顔を上げた。そこで始めて玉座に座る国王の顔を見た。

 昔よりも少し老けた国王の姿がそこにはあった。王は、咳込みながらも俺達に言ってきた。

「……元気にしておったか? あれからもう5年以上経つのかな? 世界は、大きく変わったのぉ……。最近じゃ、王宮でも新しい機械を導入しようか議論がなされている。本当に不思議なものじゃ。つい、最近まで……魔法オンリーだったのに……。便利なものが出たものじゃ。これも……勇者クロウをはじめとする転生者様方のおかげじゃのぉ」

「とんでもございません……」

 俺は、そう言った。すると、途端に国王の表情が変わった。

「……さて、それでのぉ。今日、お主らを呼んだのは他でもない。お主たちに頼みがあるんじゃ」

「何なりとお申し付けください」

 アルさんが、深く頭を下げながらそう言うと、国王は一度咳払いしてから告げた。

「実はのぉ、ここ最近……王都を騒がせている者達がいてな」

「その者達と言うのは……?」

 アルさんが、尋ねる。国王は深刻そうに頷くと、その様子を見かねたクリスが、俺達に説明した。

「……転生者達です。特に、機械化を推進する転生者や彼らを支持する者達が、ここ最近王都の各地で怪しげな動きを見せていると報告を受けています。彼らの中には、国王の暗殺を企てている者もいるとの事らしいです……」

「国王の暗殺だと……!?」

 アルさんは、驚愕していた。この人にとって、国王に反旗を翻す事は、信じられない事。なんたって、魔王退治をしたのも国王とこの国のため……。

 真面目なアルさんには到底納得できない事なんだろう……。しかしクリスは、続ける。

「……最近では、国王の後継者争いにまで彼らの魔の手が伸び始めている。現在、陛下の跡継ぎ候補となっている2人の王子のうち、1人は機械派と深いかかわりのある方だ。彼らは、国王を暗殺してその方を国のトップに据えようとしている……」

 クリスの話にアルさんは、拳を握りしめている。その背中は、まさに怒りに燃えているようだった。俺やレミ姐さん、エリカにはアルさんの怒りの炎がひしひしと伝わってくる。

「それで……俺達に何を?」

 俺が尋ねると今度は、国王が口を開いた。

「お主らには、王都の警備を任せたい!」

「王都の警備……ですか?」

「左様。近年、治安の悪化するこの王都を機械派の者達から守って欲しいのだ」

 その言葉にアルさんは、目を輝かせていたが反対にレミ姐さんは、目を細めていた。

「お言葉ですが……陛下」

「なんだ?」

 レミ姐さんは、背筋を伸ばして告げた。

「……王都には、既に国王直属の騎士団があるかと思いますが……私達が、王都の治安維持を行う必要はあるのでしょうか?」

 すると、今度はクリスが告げた。

「……昨今の王都での犯罪増加から騎士団だけでは、どうしようもなくなってきているんです。そのため、騎士団とはまた別に治安維持を務めて下さる人達を探しているのです。それに……」

 クリスの声音が、少し暗くなる――。

「……昨今では、騎士団の中にも機械派の者と繋がりのある者がいるらしく現在、調査中なんです」

 なるほど。それで、俺達か……。確かに俺達が、王都の見回りをすれば魔王を倒したという肩書きもあるし、幾分か犯罪率を下げる事ができるかもしれない。

 ――国王は、告げた。

「……魔王を討伐したお主たちに命令じゃ。どうか……ワシの治めるこの王都を救って欲しい。報酬は、ちゃんと出す。望みとあらば、貴様らに名誉騎士の称号も授ける! どうじゃ? やっては、くれぬか?」

「名誉……騎士!」

 その言葉にアルさんは、いち早く勘づく。彼は、すぐに発ちあがり、俺達が何か言うよりも先に王に告げていた。

「……お任せください! 国王陛下! ぜひ私達が……この王都の平和を取り戻してみせましょう!」

「ちょっ!? アルさん!」

「そうだよなぁ! クロ、レミア、エリカ!」

 こう言われてしまうと、俺達にはもう否定する事なんてできない……。俺達は、アルさんから目を逸らす。

「……あぁ、おぉ……」

 すると、アルさんの言葉に国王は、嬉しそうに告げた。

「……本当か! おぉ! なんと頼もしい事よ!」

 俺達の意見は、無視かよ! ……まぁ、昔からアルさんは、国王とか王都の事になるといつもこうだ。俺達も反対するつもりは、ねぇしな。

 すると、クリスが俺達に言ってきた。

「……そうと決まれば、早速仲間を集めます! あなた方だけでは、荷が重い事でしょうし……この件は、私に任せてください!」

 アルさんは、クリスさんの手を取り告げた。

「……よろしくお願いします! 共に王都の平和のため……頑張りましょう!」

 2人が、そうやって見つめ合う中、俺は国王に尋ねた。

「ところで……その王都見回り隊には、何か名前はあるんですか? 単に見回り隊ってんじゃ、カッコもつかないと思うので、何か良い名前があると良いと思うのですが……」

 すると、国王は白い髭を触りながら「ほっほっほっ~」と笑って俺達に言ってきた。

「……名前なら既に考えてある。大昔、この国を魔族達から救ったとされる伝説の蒼い狼の神話。――“ブルーウルフ”。そこから名前を取って……“蒼狼隊”《そうろうたい》。それがお前達、王都見回り隊の名前じゃ!」

「蒼狼隊……悪くねぇ響きだ……」

 俺は、つい笑みが零れてしまった。どうやら、これから先が楽しみなのは……アルさんだけじゃないみたいだ。……レミ姐さんもエリカも……気持ちは同じみたいだ。

「そうと決まればやろうぜ。……蒼狼隊!」

 かくして俺達は“蒼狼隊”を結成した――。

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