第五話
【会合(かいごう)】
「あと三十分……」
「ここから集合地点までは約二十分だ。部隊の現状もわからない。急ごう。」レックスは低くつぶやいた。
「うん。」サクライはうなずいた。
二人は静まり返った街を歩いていた。かつては人々の声で賑わい、栄えていた街並みも、今は瓦礫と沈黙だけが残っている。通りには野良動物の姿が目立ち、中にはかつて飼い主がいた者もいるのだろう。しかし、戦争が全てを壊し、住む場所も、飼い主の命も奪った。風には腐臭が漂っていた。
「臭いな……前はこんなんじゃなかったのに。」サクライは鼻を押さえ、低くつぶやいた。「この野良たち、そしてこの瓦礫……この戦争で、一体どれほどの命が奪われたんだろう……」
レックスとサクライの目に、一瞬だけ感情が揺らぐ光が宿る。しかし今は、部隊に戻ることが最優先だった。
「……俺も昔、犬を飼ってたんだ。」レックスがぽつりと話す。ほとんど聞き取れないほどの声で。「名前は……遥って言った。」
「そうなんだ。どんな犬だったの?」サクライが少し期待を込めた目で尋ねる。
しかしレックスの目に浮かぶ哀しみを見て、サクライはそれ以上聞こうとせず、静かに言った。「ま、機会があったら、また聞かせてくれよ。」
やがて二人は十字路に差しかかり、部隊が防衛しているビルの廃墟が視界に入った。
「ここから先は気をつけろ。遮蔽物が一切ない。距離は短いが、見つかれば格好の標的になる。」レックスは周囲に目を光らせた。
「了解。」
彼らが向かっているのは、かつてレックスが住んでいたビルだった。今では、かつて見慣れた建物たちも倒壊し、焼かれて原形をとどめていない。レックスは懐かしい景色に目を向け、怒りがこみ上げるのを感じたが、深く息を吸って押し殺した——感情に流されて、誰かを危険に晒すわけにはいかなかった。
目の前のビルのロビーは、かつて住民の通り道だった共有スペース。しかし長年の破壊と爆撃で、今では傾いた廃墟に変わり果てていた。
ここを越えれば、部隊と合流できる。
「警戒班、全員警戒を強化!」
「止まれ!誰だ?」遮蔽物の裏から兵士の声が響いた。
「ちょっ、撃つなって!撃つなよ!俺だ、サクライ!それとレックスも一緒だ!」サクライは慌てて手を挙げ、緊張した声で叫んだ。
「通してやれ。」無線から聞き覚えのある声が返ってきた。
「了解。」兵士はすぐに銃を下げたが、顔を確認するまで警戒は解かなかった。
二人が近づくと、兵士は驚きと喜びの表情を見せた。
「よかった……二人とも無事だったんだな!」
「マジで心臓止まるかと思ったよ……やっと戻ってきたと思ったら、前に窓がずらっと並んでて、蜂の巣にされるかと思ったぜ。」サクライは冗談混じりに言って息を吐いた。
「状況はどうなってる?」レックスが低く問いかけた。
兵士は表情を曇らせ、声も沈んだ。「……上に行けば、全部わかるさ。」
彼らがビルの上に登ったとき、目の前に広がる光景に息を呑んだ。
そこには、負傷兵と遺体が無数に横たわり、ちぎれた手足が散乱していた。血と炎が地獄のような風景を描き出していた。出発前は一万人を超える兵がいた部隊も、今は二千にも満たない。
それは敗北などではなかった——殲滅だった。
残ったのは、この国に残された最後の戦力。
「戻ったか……上がってこい。何があったのか、話してやる。」
そう言ったのは、金髪碧眼の西洋人だった。顔には疲れと血の跡が残っていた。彼の名はヨーゼフ・ジョナソン。この部隊の指揮官である。
「ジョナソン……一体何があったんだ?なぜ……こんなにも多くの兵士が……」サクライは信じられないという表情で問いかけた。
ジョナソンはすぐに答えず、深く息を吸い、低く重い声で戦いの全貌を語り始めた——
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます