第10話 なぎちゃんに王手

 やっと入学式の日がやってきた。

 あの日以降も冷夏先輩は毎日のように家に来た。

 そして、ご飯を食べて雑談しては帰っていった。

 どれだけ自炊ができないのか。

 俺はめんどくさくはあったけど一人で飯を食うのも寂しかったから冷夏先輩の分を作って一緒に食べた。


「っとこんな感じでいいか」


 鏡を見て自分の制服姿を確認する。

 エリは整ってるしネクタイとかも曲がったりしていない。

 髪型はある程度整えたし何の問題もないだろう。


「んじゃ行ってきます」


 誰もいない部屋に声をかけて扉をあける。

 春らしい陽気な風が全身を襲う。

 かなり風が強いな。

 鬱陶しい。


「お! 制服似合ってんじゃんはるくん!」


「……なんでいるんすか? 今日は休みのはずでしょう?」


「いや、学校まで一緒についてってあげようかなって。道とか知んないでしょ?」


「それはそうですけど、徒歩15分くらいなんですから迷ったりしないっすよ」


「いんや、そんなことないよ~結構迷うんだからね!」


 そんなもんだろうか。

 まあ、ここは好意に甘えておくか。

 せっかくついてきてくれるってんだからな。


「じゃあ、お願いします」


「はいよ。んじゃいこっか。はるくん」


 先輩に手を引かれる。

 ちょっとドキッとしてしまうけどすぐに違う事に気が付いてしまう。

 この人足めっちゃ速い!?

 腕がめっちゃ引っ張られてるんすけど!?

 てか、走る必要なくない?

 なんで走ってるの?


「痛い痛い痛い!? ちょっ先輩なんで走ってんすか?」


「いや、なんか走ったほうがいいかなって? 歩いたほうがいい?」


「当たり前です。遅刻しそうなほど時間が無いわけでもないですし」


「そう? じゃ、あるこっか」


 やっと先輩は歩いてくれた。

 腕痛い。

 さすさすと腕をさする。

 全く。


「ここからもう10分くらいでつくからゆっくり行こうか」


「はい。それでお願いしますね」


 こうして俺は先輩に学校まで案内してもらった。


 ◇


「それじゃ私は帰っとくからね~」


「はい。ありがとうございました」


 あれ以降特に問題なく学校までたどり着くことができた。

 学校が近づくにつれて新入生と思える人たちが増えて行った。

 入学式と書かれた看板の前にはかなりの行列ができていて両親と一緒に写真を撮っている人たちが多くいた。


「入学式だったら両親と写真撮るもんか~そういえば二人とも元気かな~」


 両親は未だに海外に住んでいるけど元気にしてるだろうか?

 まあ、2人に限ってはめったなことは無いだろうし元気にしてるか。

 入学式が終わったら電話でもしてみるかな。


「にしても居心地が悪いな」


 皆両親とかときてるけど俺だけ一人。

 そうなってくると少しだけ居心地が悪くなってしまう。

 寂しいというかそんな感じだ。


「もしかしてですけど春馬君?」


 いきなり後ろから声をかけられる。

 その声は少しだけ聞き覚えがあって。


「雫さん?」


 見た目はかなり変わっているけどその姿には多少の見覚えのようなものがあった。

 物心ついてすぐに聞いていた覚えのある声。


「やっぱり! 大きくなったわねぇ~ご両親はお元気かしら?」


「はい。二人はまだ海外にいますけど元気にやってると思いますよ」


「それはよかったわ~」


 ここのい雫さんがいるってことはもしかして……

 なぎちゃんもここの高校に入学するのか!?

 俺の勘はあってたのか!

 こっちに帰ってきたかいがあるのか!


「なぎちゃんもここに入学するんですか?」


「……それは。そうだ! 連絡先教えてもらえないかしら?」


「は、はい。全然大丈夫ですけど」


 話題をそらされた。

 今日はもしかして体調不良とかかな?

 ならなんで雫さんがここにいるんだろう。


「ありがとう。今日は何かと忙しいだろうからまた今度連絡するわね~」


「あ、ちょっと」


 雫さんは俺の静止を聞かずに帰ってしまった。

 なんなんだ一体。

 でも、ノーヒントの状態よりも明らかに前進した。

 なんならなぎちゃんに会うための王手がかかったみたいなものだ。


「早く入学式終わんないかな~」


 ◇


 あれからなぎちゃんを探してみたりはしたけど見つからなかった。

 やっぱり今日は休んでるのかな?


「ただいま~」


 入学式を終えて家に着く。

 一気に気が抜ける。

 でも、雫さんの連絡先を知れただけで今日はかなり収穫があったと言えるしなぎちゃんとも話せるかもしれない。


「ん? 通知か?」


 ポケットに入れていたスマホが振動したから確認をしてみるとさっそく雫さんから一件のメッセージが届いていた。


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