第8話 リエルの優しさ
カルはベッドで横になっていた。
頭の中でというか、目の前で映像がフラッシュバックしてくる。
目の前で人が死んでいくといった重い出来事が多かったからだ。
だが、それはそれとして、自分のことを考え、これまでのことを一通り整理してみた。
まず、この
………体が再生したことは良かった、助かった、それはいい。
分からないのは、本来、自分では即決できないことに対して、行動を起こしていたことだ。
本来の自分であれば、立ち向かっただろうか。
多分、いや絶対に、自分の命を最優先に考えて逃げ出していただろう。
相手は人間ではないのだし、自分で動向できるものではないのだから。
けれども、逃げ出すどころか、魔人に立ち向かい、倒してしまった。
自分の力で倒したのか、この肉体の力で倒したのか、別の力で倒したのか。
別の力が最有力だ。だとすれば、あの声だ。
あの時、確かに聞こえた。『あいつは、任せろ』と。
あの声は何だったのだろう。
わからない。わかるはずもないし、別の声が聞こえてくるなんて気味が悪いくらいだ。
……そもそもが、この剣と魔法の世界を自分が受け入れていること事態が、不思議と言えば不思議だ。まるで、以前から知っていたかのように馴染んでいる。
疑問点が増えていくが、解決の糸口は全くない。
自分のみで解決できるわけもない。自身の記憶もろくにないのだから。
……白の光は、記憶が混ざるかもと言っていた。
今の俺自身は前世の記憶だと思うが、もしかしたら、あの声は前前世の記憶なのかも知れない。今の記憶が前世の記憶だと仮定して、これから前前世の記憶が出て来て、判別ができなくなっていくということなのだろうか。
それって、大きな問題なのだろうか?
結論も出せずにいたところに、物凄くいい匂いがしてきた。
グウ~っと腹が鳴る。
……物凄く、腹が減った。眩暈がしてくるほどである。そういえば、リエルが夕食の支度をしているんだったっけ。
俺は待ちきれなくなって、ふら付く足で夕食のテーブルへと向かった。
「おお、やっと来たか、来たか、こっち来て、座れ、座れ」
なぜだか、ヨルブは上機嫌である。
理由はすぐにわかった。
今晩は俺の回復祝いを名目に、村人から捧げられた葡萄酒が飲めるからである。
酒が飲めて満面笑顔の奴は碌な者じゃない。……のような気がする。
因みに、ヨルブはドワーフ(矮小族)という種族であり鍛冶師なんだそうだ。
俺は席に越しかける。
すると、向こうからメリーザが半目で、こっちを凝視しながら近づいてきた。
相手は魔女である。
怒っているようには見えないが、凝視されると、やっぱり、怖い。
自分の体の部位が、幾つか硬直しているのが分かる。
「やっぱり、ようわからんのう。魔法でステータスを見てもゴチャゴチャしていて見えんぞえ。故に属性もわからんしのう。公爵家に仕える者なのだから身分証明のカードがあるじゃろ、見せてみい」
メリーザが、さらに目を細めながら話かけてきた。
一応、探してはみるが、それらしいものは見つからない。
考えてみれば、肉体が再生した時、防具は身に着けていたが衣服は着ていなかった。
どうやら、衣服とともにカードも一緒に燃えてしまったらしい。
「見つからないのですが、カードがないと不味いのでしょうか?」
「別に再発行すればよいぞえ。死んだはずの者が歩き回ると問題じゃから、他の町で発行しないといけないがねえ。発行すれば魔法属性くらいは、わかるじゃろ」
「ま、魔法属性って! 僕も魔術を使えるのですか?」
「あ~そこからですか。はっきり言って、魔術はそんなに期待しないほうがいいと思います」
リエルが料理を両手で運びながら、割り込んできた。
スープ皿が幾つか宙に浮いている。魔術を使っているのだろう。
「あの時、白い光さんが仰ってましたよね。その素体は魔力量が少ないって、少ないと転生者の良さがでないから生きていくのは大変だ、みたいなことを」
なぜか、リエルは得意げにそして流暢に話す。
「………確かにそんなことを言っていた。この世界では、ギリギリ生きていける。って、そんなレベルなのか!」
愕然として、隣をみるとヨルブはグビグビと酒を飲んでいる。
もう、出来上がっているように見える。
俺も飲まないと、やってられない気持ちになってきた。
「そんな奴のために、魔道具があるのじゃ! そうじゃ、そうじゃ、ヒック。」
「ま、魔道具ってなんですか!」
「あ~、そこも~、…ですか」
リエルが話だした。
ちょっと、言い方に遠慮がなくなってきている…。飲んでいるのではないだろうか。
「魔道具は、カルには買えないと思います」
「か、買えないって、そんな高価なものなのか! 必要な物なんだろ! 魔力が無い人は、どうやって生活するんだ!」
「別に魔道具がなくても、魔石でも十分に普通の生活はできます。因みに魔石がなくたって生活はできますけれど」
「そ、そうなんだ」
(でも、それってこの世界で暮らしていく上で、大きなハンデなのではないのだろうか)
「火をおこしたり、水をだしたり、生活に必要なレベルであれば加工された魔石があれば十分ですよ。火や水の属性のある魔石に少量の魔力を注げば使えるんですから。便利な時代です。」
「そ、それは、どこでも購入できる物なんだ」
「街にでも行かないと売ってないかもしれません。でも必要な火や水は私が精霊魔術で出して差し上げます」
「あ、ありがと」
取り敢えず、お礼を言った。
「なあにを言っているか~、ヒック、魔道具の良さを教えてやるわ~」
ヨルブは既に6本目を開けようとしている。
「魔力量が少ないとのう。ふむ、お前さん、知り合いもいないのじゃから、ここを出ていったら、野垂れ死に確定じゃろうのう」
「ああは、言いましたが私もそう思います」
「……僕もそう思います」
そう言いながら、ぎこちない左手でスープを口にした。
右腕は動かすと未だ痛みがはしるのである。
「絶対に、野垂れ死にます。絶対にです。生きていける訳がありません」
そこまで、念を押さずともと思ったが、事実であるので、返す言葉もなかった。
そんなこんなで、どうも、とりあえずは、『エンデルガーデン』においてもらえるようである。
言葉に少し棘を感じたが、これもリエルのお陰だと思う。
何かの形で、恩返しをしなければ。
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